ゴルフをしていて「手首が痛くてクラブが振れない!」。そんな経験をしたことのある人も多いのではないでしょうか? ゴルファーにとって怖いのが、手首の付け根あたりが痛くなる「腱鞘炎」です。ひどくなるとクラブを振れなくなるばかりか、日常生活に支障をきたすおそれがあります。楽しくゴルフを続けるためにも、痛みの原因を知ることが大切です。
そこで今回は、レッスンプロの土手陸さんに、親指や手首が痛くなる原因と予防法についてお話をうかがいました。併せて、スキマ時間に簡単にできる親指・手首痛を予防するストレッチも紹介します。ぜひ参考にしてください。
レッスンプロ/土手 陸(どて・たいら)さん
1991年生まれ、広島県出身。24歳でゴルフを始め、現在は森守洋コーチが主宰する「東京ゴルフスタジオ」でアマチュアからプロまで幅広くレッスンを行い、さらに京都でも「ゴルフギアベースD-UP」の代表を務めている。研究熱心でスイングとギアに深い造詣を持ち、プレーヤーとクラフトマン、両視点からの指導に定評がある。
アマチュアゴルファーに手首のケガが多い理由
―――4月に、プロゴルファーの松山英樹選手がマスターズ優勝を成し遂げました。その松山選手も以前、手首を痛めて大会をリタイアしたことがありましたが、ゴルフで手首をケガする人は多いのでしょうか?
土手「たくさんいらっしゃいます。たまにプロの方もいますが、アマチュアの方が多いです。わたしのお客さんでも、指がしびれたり手首が動かなくなったりして、クラブを持てなくなった方がいらっしゃいました。どのスポーツでも同じだと思いますが、プレーするたびにどこか痛くなると、モチベーションの低下につながります。ケガをしないことが長続きの秘訣です」
―――そもそも、どうして手首を痛めてしまうのでしょうか?
土手「ゴルフは、クラブをスイングしてボールを飛ばすスポーツです。重みのあるクラブを持って、それを力いっぱいに振り抜くわけで、ショットの瞬間は、手首には大きな衝撃がかかります。ボールの芯を外したり地面を叩いたりすると嫌でも手首などへの負担になります」
―――特にどういった方が手首を痛めやすいのでしょうか?
土手「初心者に多いかと思います。始めたばかりの頃は、ボールの芯をうまく叩けないからです。私も最初は手のひらがマメだらけになりました(笑)。道具(クラブ)さえうまく振ることができるようになれば、余計な力を入れなくて済むため、ケガをしづらくなります」
―――例えば、間違ったフォームのままスイングし続けていると、手首や肘などに過度な負荷がかかって痛めてしまうと?
土手「はい、そうです」
―――サッカーの場合、選手によって蹴り方が違っていたり、野球の場合は人によってバットの持ち方やボールの投げ方も違ったりします。ゴルフの場合も、決まった“正しい”フォームやクラブの持ち方はないのでしょうか?
土手「ありません。体型に応じてその人に合ったギアやクラブの持ち方、フォームがあります。例えば、『スライスしてしまうんです』という悩みのある方がゴルフショップに行ったら、スライスしないクラブを勧められるでしょう。人のクセがあるぶん、正しいフォームやクラブも無限にあります」
―――なるほど。
土手「フォーム(スイング)とクラブは表裏一体です。私の場合、レッスンコーチと、クラフトといってゴルフクラブを作ることができます。両方できるのが強みです。例えば、手が痛い方だったらグリップの素材を柔らかいものに変えるだけで痛みが消える場合もあります。クラブを直したほうがいいのか、フォーム(スイング)を直したほうがいいのか。その人に合ったアプローチを探してあげることが大事です」
グリップを握る手首を痛めない「脱力の技術」
―――これからゴルフを始める方が手首を痛めないようにするには、どのような点に気をつけたらいいでしょうか?
土手「無駄な力を入れないで打つことです。特にフォロースルーなんて意識することはありません。アマチュアの方は、プロのスイングをYouTubeで見て1から10まですべて真似しようとします。しかしプロの力強いフォロースルーを真似すると、どうしても余計な力が入ってしまいます。フォロースルーはあくまでオマケとして考えてください」
―――具体的にはどのようにクラブを振ればいいのでしょうか?
土手「トンカチを叩くイメージで振るとよいでしょう。トンカチって手のなかで取手を締め殺したら使えないじゃないですか。ゴルフクラブも一緒です。ヘッドの重さを利用して大きな円を描いて釘を打ち込むように、クラブもトンカチを振り下ろすイメージでスイングしましょう」
―――たしかに、トンカチは手のなかで“緩み”を持たせながら叩きますね!
土手「もっというと、トンカチのヘッドと釘がインパクトする瞬間、腕からは力が抜けていますよね? 手首を固定したまま釘を打ったり、思い切り叩きすぎたりすると、衝撃がダイレクトに腕へと伝わってしまうからです。ゴルフの場合も一緒です。早く当てたい気持ちが強いとクラブのヘッドが前に出ていき、手首がつまって故障の原因になります。
実際に練習用のスイングバッグを利用し、正しいスイング(写真1)と間違ったスイング(写真2)を紹介します。クラブのヘッドがバッグに当たる瞬間の、手首の角度の違いがわかると思います。見比べてみるとさらに理解が深まるでしょう」
―――力を入れすぎなければ、グリップの持ち方も自由でいいですか?
土手「本当にテキトーが一番です。『グリップはこう持ちましょう』と教えられると、そればかりに集中して、本来一番大事にすべき『トンカチの動作』を忘れてしまいがちです。そもそも、トンカチもゴルフクラブも、グリップの先端は太くなっています。つまり、小指さえ引っかかっていれば、すっぽ抜けないようにできているのです。クラブのスイングは、振り子の原理です。この原理がわかっていれば、どんどん力が抜けていって、ほとんどグリップを握らなくても打てるようになるでしょう」
―――脱力した状態からインパクトの瞬間に最大限の力を伝える、まさに脱力の技術ですね。
土手「そうです。ゴルフでは、リラックスした状態と緊張した状態をコントロールできるのが一流選手です。脱力は、スポーツの共通テーマだと思います。みなさんも『振り子の原理』を意識し、余計な力が入らないスイングを目指しましょう」
レッスンプロ・土手陸さん流
スキマ時間にできる!親指・手首痛予防ストレッチ
親指や手首の痛みに悩んでいるゴルファーのために、レッスンプロの土手さんからスキマ時間にできる簡単ストレッチを紹介していただきました。パソコンやスマホを酷使するビジネスパーソンにもおすすめです。ぜひ試してみてください。
親指の付け根をほぐす
「ゴルファーにとって、クラブのグリップを握る手のストレッチは重要です。そこで、プロアマ問わず、私がゴルファーにおすすめしているのが、左右の親指の付け根をしっかりほぐすことです。親指の筋肉が固まってしまうと力んでしまい、腱鞘炎などのケガにつながります。ゴルフの練習前はもちろん、スキマ時間を使って朝昼晩、1日3回を目安に行いましょう」(土手さん)
・目安=1分間(1回)
1. 手のひらを広げます。親指全体の筋肉を反対の手の親指と人差し指ではさみ、痛みが出ない程度に付け根からほぐしていきます
2. 手の甲の部分もしっかりとほぐしていきます。最初から最後までゆっくりと行うのがポイントです
腱鞘炎などの痛みを緩和させる、編集部おすすめ「親指・手首用サポーター」4選
親指や手首の痛みは、多くのゴルファーが抱える悩みです。ゴルフのレッスンプロである土手さんには、親指や手首が痛くなる原因、痛めないためのポイントとなるグリップの握り方、痛みを予防するストレッチを教えていただきました。
ゴルフだけでなく、パソコンやスマホなどを酷使する現代社会では、日常のなかでも腱鞘炎になるおそれがあります。そんなときに痛みをやわらげてくれるのが、親指用や手首用サポーターです。そこで今回は、腱鞘炎などの痛みで悩んでいる方に、おすすめのサポーターを編集部がピックアップしました。
チュアンヌ
チュアンヌ リガフレックス リゾ
親指サポーター(左手用・右手用)
各6050円(税込)
親指付け根の痛みを軽減するサポーター。手首の可動域を制御しないので、装着したまま仕事や家事などができます。2つのファスナーストラップで楽に着脱でき、サイズ調整も簡単です。
チュアンヌ
チュアンヌ リガフレックス プロ
手首ブレスサポーター
1万780円(税込)
解剖学に基づき設計された手首のサポーター。通気性が良く、軽い素材を使用しているため長時間装着しても苦になりません。
ザムスト
サムガード(親指用サポーター 左右兼用)
5720円(税込)
お湯で温め、指に合わせて型をつけるフィット感に優れた親指サポーター。手首の動きを妨げないショートタイプです。
メディ
マニュメドアクティブ イーモーション
スタビライザー付きリストサポーター
9900円(税込)
人体構造に沿った形状でフィット感のある手関節のサポーター。抗菌性・通気性に優れ、長時間着用できます。
撮影協力/東京ゴルフスタジオ(東京都三鷹市北野4-5-41)
インタビュー・文/小須田泰二 撮影/我妻慶一