私の母校でもある九州大学がスタートアップを11社同時起業したものの、その実はポート社低品質キュレーションサイトを11個つくっているだけだった……という記事を書いたのが2019年10月。
当時はそれなりに話題になり、起業部の部員から話を聞けたりメディアからの問い合わせ等もあったんですが、少なくとも外から見た限りでは特に状況が変わるわけでもなく時が過ぎていきました。
それから約2年。ふと思い出して今の九大起業部やスタートアップ11社の状況を見に行ってみると、ある意味予想通りの光景が。
この件に関わった学生たちは何を思ったのか?起業を促した大人たちは何を考えていたのか?
誰がこの件について振り返り、反省を次に活かすのか?
なんとも言えずモヤモヤしたので、再度このブログでまとめてみることにしました。
キュレーションサイトで同時起業した11社はその後どうなった?
当時、大手Webメディア等で取り上げられていた同時起業スタートアップの11社。
2022年1月現在はどうなっているのか?事業としていたキュレーションサイトと会社の状況を調べてみました。
結果、サイトにアクセスできたのは11社中2社のみで、うち1社は自動生成か自動翻訳を使っている特に低品質なサイト。
一番まともに更新している「C.U.E.」も2021年8月を最後に更新は止まっています。
また、11社中7社は会社自体を既に廃業していました。
C.U.E.株式会社
英語学習に関するサイトを運営する「C.U.E.株式会社」。
11社の中で最も記事を更新しており、内容もそれなりにちゃんとしている印象。
最終更新は2021年8月30日で4ヶ月ほど更新なし。公式Twitterは2021年1月が最終ツイート。
メルシオン株式会社
終活に関するサイト運営の「メルシオン株式会社」。
2022年1月現在サイト(https://sohaka.jp/)は存在せず。インターネットアーカイブによると最終更新は2020年8月21日。
2021年5月11日付けでメルシオン株式会社も廃業済み。
株式会社nearprog
プログラミングに関するサイト運営の「株式会社nearprog」
2022年1月現在サイト(https://nearprog.com/)は存在せず。最終更新は2020年2月26日。
2021年4月22日付けで会社も廃業済み。
dear株式会社
車(運転?)に関するサイト運営の「dear株式会社」。
サイトは健在なものの、記事内容は自動生成か自動翻訳のようで品質は非常に低い。
最終更新は2021年3月25日。
株式会社Ongame
占いに関するサイト運営の「株式会社Ongame」。
2022年1月現在サイト(https://onga-me.com/)は存在せず。最終更新は2019年11月11日。
2021年7月7日に会社は廃業済み。
re.PORT株式会社
債務に関するサイト運営の「re.PORT株式会社」。
2022年1月現在サイト(https://saimusayonara.jp/)は存在せず。最終更新は2019年10月6日。
2021年8月2日に会社廃業済み。
株式会社おおすな
保険に関するサイト運営の「株式会社おおすな」。
2022年1月現在サイト(https://oosunahoken.com/)は存在せず。最終更新は2020年5月18日。
2021年4月19日に会社廃業済み。
株式会社zer0
探偵に関するサイト運営の「株式会社zer0」。
2021年1月現在サイト(https://hits-search.com/)にはアクセスできず。最終更新は2019年10月4日。
農業に関するサイトに転換を図った形跡があるものの、新着記事は確認できず。
会社の閉業はしていない。
株式会社Snow Drop
婚活に関するサイト運営の「株式会社Snow Drop」。
2022年1月現在サイト(https://snowdrop-marriage.com/)は存在せず。最終更新は2019年10月26日。
2021年4月28日に会社廃業済み。
株式会社Qupress
資格に関するサイト運営の「株式会社Qupress」。
2022年1月現在サイト(http://qushikakupress.com/)は存在せず。最終更新は2019年10月13日。
2021年4月22日に会社廃業済み。
株式会社Poirier
プログラミングに関するサイト運営の「株式会社Poirier」。
2022年1月現在サイト(https://majipro.jp/)は存在せず。最終更新は2019年9月13日。
会社の閉業はされていない。
2020年5月以降は発信がない九大起業部
九大起業部自体の活動は、2022年1月現在どうなっているのか?
確認してみたところ、TwitterおよびFacebookは2020年5月の新歓イベントに関する投稿を最後に更新が止まっていました。
RTも含めると、2020年7月に顧問の熊野正樹氏が登壇するイベントのリツイートをしているのが最後。
九大起業部は入部者を募集しています!
新歓アカウントで情報発信、DM対応を行なっているのでフォロー、RTお願いします!新歓情報、質問受付は@qukigyobu2020まで!
— 九州大学起業部 (@QDAISTARTUP) May 11, 2020
全く発信が止まっているのに内部では盛んに活動している……などという状況は考えにくいですし、後述する顧問の移籍が公式HPに1年以上反映されていないことを考えても、現在は活動が止まっている可能性が高い。
『10年で50社の学生ベンチャー、うち、5社の上場企業を創出する』という目標があったはずですが、どうなったんでしょうか。
発信がなく活動停止しているかに見えた九大起業部ですが、現在も起業部の学生有志で福岡の起業家やFGN(福岡のスタートアップ支援施設)とも協力しつつ活動しているとの情報をいただきました。
顧問の熊野氏は2020年8月に神戸大へ移籍
九大起業部の発信停止の少し前、立ち上げた張本人である熊野正樹氏は2020年9月より神戸大学へ移籍されたようです。
(参考:熊野 正樹 (Masaki Kumano) – マイポータル – researchmap)
移籍後も学生起業を推進しているようで、日本スタートアップ支援協会なる組織の顧問にも名を連ねています。
さらに2021年には第2回日本オープンイノベーション大賞「文部科学大臣賞」を受賞したとのこと。
産官学連携本部(社会実装デザイン部門)熊野正樹教授の大学発ベンチャー起業の取組みが、第2回日本オープンイノベーション大賞「文部科学大臣賞」を受賞しました。
熊野正樹教授の取組みが日本オープンイノベーション大賞「文部科学大臣賞」を受賞しました | お知らせ | 神戸大学産官学連携本部
2021年6月、朝日新聞から取材を受けた記事には以下の記載がありました。
熊本市にある崇城(そうじょう)大学の准教授だった2014年、日本で初めて大学公認の起業部をつくりました。次に着任した九州大学でも17年に部を立ち上げ、これまでに18社の起業につなげました。九州大学の場合、部員は平均100人程度。全体で週2回ミーティングを開き、基礎知識や事業計画のつくり方を教えます。
「起業部」生みの親、神戸大に 熊野正樹教授に聞く:朝日新聞デジタル
九大起業部において多くの会社が起業に至ったのは確かですが、少なくともそのうちの11社は最初に述べた通りの有様。
基礎知識や事業計画のつくり方を本当に教えていたのか、ただ起業数だけを追った中身のないものではなかったのか、大いに疑問が残ります。
また、顧問が移籍した途端に100人以上部員がいたはずの起業部が発信を止めてしまうのも謎。
後継の顧問への引き継ぎ、起業を志望する学生へのサポート等々は現在どうなっているんでしょうか。
私の考える、九大起業部の「11社同時起業」の問題点
ここまでの情報から、今回の「11社同時起業」に関して私が考える問題点について挙げます。
顧問やポート株式会社は責任持って面倒を見たのか?ノウハウを伝えたのか?
おそらく顧問の熊野氏なりポート社から「このテーマでキュレーションサイトの会社を作るぞ」と言われ起業したはずの11社。
九州大学起業部とポート株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役CEO:春日博文)は共同で「九大起業部メディアラボ」を設立し、同時に、11社のインターネットメディア事業を行う学生ベンチャーをFukuoka growth nextに設立しました。 同ラボは、起業部学生のインターネットメディア事業での起業を支援するもので、ポートからの学生への出資、ノウハウの提供を通じて、会社の設立からイグジットまで支援する起業支援プログラムを実施します。
九大起業部・ポート株式会社と九大起業部メディアラボ共同設立。同時に11社起業し、アクセラレーションプログラム開始|【西日本新聞ニュース】
もしそうであるなら、せめて熊野氏やサイト運営のノウハウを持つポート株式会社の手厚いサポートはあって然るべきじゃないかと私は思います。
(起業ってそういうもんじゃないだろ、という話は一旦置いておいて)
ですが、大事な事業であるはずのキュレーションサイトのクオリティは惨憺たるもの。
C.U.E.社だけはそれなりのクオリティ・記事数で更新されていましたが、それも中の人の工夫の範疇。
全体的にはっきりいって低品質、そもそも数記事の更新すらされていない会社もありました。
デザインもWordPressテーマ・SANGOのデフォルトのままで個性なし。せめて会社やサイトのロゴ画像くらい製作指南してあげればいいのに。
素人が小遣い稼ぎにブログやってみたけどすぐ飽きて止めた、程度のものでしかなかった。
顧問の熊野氏なり、「キャリアパーク」などのサイトを運営しプロのノウハウを持っているはずのポート株式会社からのサポートを受けていたとはとても思えません。
起業さえさせてしまえば後は用無しとでも言わんばかり。これでは起業した学生がかわいそうです。。。
起業数の実績づくりのため、学生が大人の食い物にされているのでは?
2年弱で11社中7社が廃業、メイン事業のキュレーションサイトに関しては全社更新が止まっている状態。
3年で半分が廃業するといわれる起業ですが、2年ほどで全社とも活動をやめてしまうのはさすがに通常の起業とは状況が異なる。
11社ともキュレーションサイトに興味があったとも、例えば「終活」「債務」といった学生に馴染みのないトピックで起業したかったとも考えにくいので、おそらくは顧問なりその関係者の大人なりに指示された通りに会社をつくったということなのでしょう。
この状況でメリットがあるのは、「11社起業」という数字をつくって名前が売れた顧問の熊野氏(およびポート株式会社?)のみではないでしょうか。
一方で、言われるがまま起業した学生に貴重な時間を費やしたほどのメリットがあるかは甚だ疑問。
学生が大人の実績づくりのために利用されているように私には見えますが、実際はどうなのか気になるところです。
顧問がいなくなった途端に発信停止する起業部とは
九大起業部は、部員が100人以上いたはずの大組織。
それなのに、2020年5月から1年7ヶ月ほど目に見える発信がありません。
創部以降そのようなことはなかったですし、2020年8月から顧問が神戸大に移籍したことと無関係ではないでしょう。
起業したい学生が突然消えるわけでもないのに、顧問がいなくなった途端発信を停止する起業部とは何なんでしょうか。
後任への引き継ぎや権限移譲、起業部の学生へのサポート等々はどうなっているのか状況は不明。
熊野氏は移籍先の神戸大でも起業関連の取り組みをしているようですが、九大における反省やおとがめもないままではまた同じことを繰り返すのではないか?そう懸念しています。
外からは見えない問題点の証言も
あまり書くと情報元に迷惑がかかるので詳しくは言えませんが、Web上の情報だけではわからない部分でもいろいろと九大起業部には問題点があったようです。
優秀なアドバイザーさんが顧問との対立で辞めたり、起業部メンバー有志が良かれと思って提案した改善策を顧問が握りつぶしたり、メンターとして公式HPに挙げられている錚々たる面子が実際にはほとんど関わっていなかったり(中には勝手に掲載されていた人もいたらしい)、学年に100人以上いたはずの部員がほとんどゼロになったり。。。
他にも、Web上には書けないような話をいくつか聞きました。
外面を取り繕ってメディアに好意的に取り上げられたり賞を取ったりはするものの、内部ではかなり問題もあったようです。
九大発の素晴らしいベンチャーも誕生している(起業部発かどうかは疑問)
ここまでの内容は九大起業部の負の側面ばかり述べてきましたが、九大発の素晴らしいベンチャー企業も複数生まれているようです。
たとえば、AIによる病理の画像診断サービスを開発している「メドメイン(Medmain)」。
九大医学部の学生が立ち上げた会社で、(以下の記事の内容を信じるのであれば)九大起業部もメドメイン社の起業に一役買っていたという記事が上がっています。
起業を目指すため1年休学し、東京のスタートアップで働きながら学ぼうと思っていた矢先、九大起業部ができると聞いて入部。
(中略)
「入部していなかったら、今ごろ僕は東京で修業中でしたね……。でも、起業部のおかげで最短で起業できたし、資金調達から会社の仕組みまでアドバイスしてもらえて非常に心強い」
九州大学「起業部」が学生社長を生み出すワケ | 学校・受験 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
個人間ファッションレンタルサービスの「collEco(コレコ)」も、九大の学生4人で起業したベンチャー企業。
社長の濱崎氏は元々起業を志していたようですが、その起業に至る道筋に九大起業部も絡んではいたとの話も。
2019年9月にチームcollEcoとして活動し始めました。また同時期に九大起業部に入り、スタートアップ支援施設であるFukuoka Growth Nextのスタッフになるなど、道を探っていきました。
クローゼットに眠る3.5兆円を事業に。学生起業家が目指すエシカルなファッションビジネス – FUKUOKA STARTUP NEWS
水難救助ネットワークシステム・Yobimori(ヨビモリ)を開発している「nanoFreaks(ナノフリークス)」社も、九大発のベンチャー。
Yobimoriは、漁師など海上で活動する人たちが事故やトラブルに遭った際、わずか数秒で近辺の仲間などに救助を要請できるシステムです。
元々起業を考えて九州大学大学院に来たnanoFreaks社長の千葉氏。
九大起業部で多くの起業家とコミュニケーションが取れたこともnanoFreaksのスタートに貢献していたとのこと。
九大起業部に入部し、スタートアップ施設のFukuoka Growth Next (福岡市中央区)に足を運ぶなどして起業はどんなものなのか、少しずつ掴んでいきました。経営は特別に学んでいませんが、多くの起業家や先輩方に出会い教えていただいています。
漁師の命と家族を守るシステムを開発する、九州大学発のスタートアップ – FUKUOKA STARTUP NEWS
ただ聞くところによると、公には九大起業部発とされている上記含む4社は元々起業済みだったり、別口で起業したという話も。
九大起業部のサービスやツテを利用はしていたようですが、起業部発とまで言っていいかは微妙なところ。
メディアに取材を受けたら建前上は九大起業部に対して良いことしか言わないだろうなとは思いますが、関係者全員に確認したわけではないのでどこまでが本当かはわかりません。
いずれにせよ強調しておきたいのは、優秀な九大の学生含む若者たちもたくさんいるということ。
以前話題になったときには「九大の学生が劣化している」「大人の言うとおりに起業するなんて自分がないのか」などといったコメントも散見されましたが、そんなことはない。
(後者は多少あるかもですが、20歳そこそこで明確に自己が確立している人の方が珍しいはず)
この件で九大の学生と話す機会もあったのですが、少なくとも私が話した学生は皆優秀。
起業するか就職するか、就職するなら目標のためにどういう会社を選ぶか……など将来のキャリアについても私の20歳頃よりはるかにちゃんと考えている様子でした。
大学や世代の問題というより、九大起業部にかかわった大人たちの問題だと私は認識しています。
最後にひとこと
若い学生が起業しやすい環境をつくるという起業部のコンセプトは、非常に素晴らしいもの。
ただ、「起業部」という名前を使って自分の実績づくりをしたり、学生や大学組織を自分たちのいいように利用している大人がいるとすれば、それは恥ずべきこと。
とはいえ、九大起業部の部員たちが現在でも福岡の起業家などに協力を仰ぎつつ活発に活動しているとの話が聞けたのでそれは良かった。
関わる大人たちに問題はあったものの、今の状況だけ見れば起業部という取り組み自体には意味があったのかなと思えます。
これからも起業部が存続、あるいはどこかで生まれるのであれば、本当の意味で学生の起業をサポートする「起業部」であることを願っています。