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 金沢市の谷口吉郎・吉生記念金沢建築館で11月16日(火)から「静けさの創造-谷口吉生の美術館建築をめぐる」が始まる。谷口氏といえば、10月26日に文化庁が文化功労者に選んだことを発表したばかり。11月14日(日)の内覧会に谷口吉生氏が来る、と聞いて、大の谷口ファンとしては居ても立っても居られず金沢まで見に行ってきた。

(写真:宮沢洋)
内覧会で挨拶する谷口氏

 谷口氏は1937年生まれの84歳だが、相変わらずシャンとしている。私の中では「シャンとしている」という言葉は谷口氏にこそふさわしい。背筋がピンとしていて、話の筋がぶれず、それでいて自虐的なユーモアも織り交ぜてくる。「凛としている」という言い方もあるが、谷口氏はそれよりもっと身近な感じがする。自分もこうなりたいと思うけれど無理だよなー、と谷口氏に会うたびに思う。そして谷口建築もまた「シャンとしている」。ディテールがピンと張っていて、空間の軸線がぶれず、細部にちょっとした遊びを織り交ぜてくる。

 冒頭に「大の谷口ファン」と書いたが、実は谷口氏の展覧会を見るのは初めてだ。私の記憶では16年前、2005年に国内数カ所を巡回する「ニューヨーク近代美術館(MoMA)巡回建築展:谷口吉生のミュージアム」というのがあったが、仕事が忙しかったのか、まだ谷口建築の良さが理解できていなかったのか、この展覧会は見ていない。にわかファンがばれる…。

 谷口建築に目覚めたこの10年ほどで言うと、2014年に金沢市民芸術村で開催された展覧会「[谷口吉郎・谷口吉生]展 金沢が育んだ二人の建築家」というのがあって、これはすごく行きたかったのだが、ハードワークのピークの頃で行けなかった。

 ということで、初めて見る谷口吉生展なのである。監修は谷口氏本人。谷口氏が自作で行う自身監修の展覧会とはどういうものなのか。見ずにおれないではないか。

 まずは谷口氏による挨拶文から。
 
 「建築とは、与えられた条件の下で、理想とする環境を創造する芸術であると考えます。美術館の建築においては、外部は敷地の自然の姿や歴史の痕跡を尊重することを条件とし、内部は展示の背景にふさわしい空間とすることなどを条件に設計します。これらの条件を踏まえながら、私が設計した11の美術館に目指したのは、「静けさの創造」による作品鑑賞のための環境です。 谷口吉生」

おお、11件全部見てる!

 展示されている「11の美術館」は下記だ(完成順)。
1 資生堂アートハウス
2 土門拳記念館
3 長野県立美術館
4 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
5 豊田市美術館
6 東京国立博物館
7 香川県立東山魁夷せとうち美術館
8 ニューヨーク近代美術館
9 鈴木大拙館
10 京都国立博物館
11 谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館

 私は全部、実物を見たことがある。自分でも「おおっ」と驚いた。それが分かったので、「にわか」ではあっても「谷口ファン」を名乗らせてもらった。

 私の知る限り、これは谷口氏が設計した全ミュージアムである。実際に見たから書けるが、11の中に一つも駄作がない。いや、正確にいえば、「どれがいい」と甲乙すらつけがたい。これはとんでもなくすごいことである。生涯に11もの美術館を設計して、それがすべて「名作」。野球でいえば打率10割、しかもヒットで手堅くつなぐのではなく、全打席フルスイングでホームランだ。

模型は「設計過程でつくったもの」

 谷口ミュージアムに奇をてらったデザインはない。本展も展覧会としては何も奇をてらったことはなく、王道。模型と2次元の写真や説明で見せる。

 本展で展示している模型は、谷口氏によると、「事務所で設計過程の最後につくった模型に、手を入れたもの」という。木の模型や樹脂模型は見当たらず、ほとんどがスチレンボードと紙でできているように見える。展覧会でよく見る白いイメージ模型ではなく、色もついている。特段、変わった模型素材ではない。それでも谷口建築の「シャンとした感じ」はビンビン伝わってくる。模型の素材感や白一色にしてケムにまかなくても、目地割りと小口の厚みで良さが伝わる建築だということだろう。

 2次元の写真や説明文の展示の仕方も谷口氏らしい。白っぽい木製のボードに、透明のシールに印刷した写真や説明文を貼っている。通常なら個々のパネルを貼るところだが、パネルの「厚み」が嫌なのだろう。展示であってもディテールは可能な限り消す──。

 今回の展示手法について詳しく時間はなかったが、前職の日経アーキテクチュア時代にインタビューした際(「谷口吉生、普遍性の先」)のこんな言葉を思い出した。

「(自分の建築を)さらに突き詰めていくと、ディテールは消える。全てがうまくいったときには、建築という物体は消されて『場の空気』のようなものだけが残る」

 谷口氏は内覧会で、「衣食住の『住』に一般の人がもっと関心を持つきっかけになってほしい」と話した。室内まで細かくつくり込まれた模型は確かに一般の人にも分かりやすい。「一般の人に分かりやすく」というと、 奇をてらったり、建築的精度と逆行するものに向かいそうなところだが、全くそんなことはない。会場内には独特の「場の空気」が漂う。

資生堂アートハウスの模型

 あなたが建築家なら谷口氏のような方向を目指すか、打ちのめされて別の方向を模索するか(私が建築家なら間違いなく後者…)。会期は5月29日までと長いので、ご自身の目でご判断いただきたい。(宮沢洋)

■展覧会概要
第4回企画展「静けさの創造」-谷口吉生の美術館建築をめぐる- 
Designing Tranquility –Museum Architecture by Yoshio Taniguchi–
期間:2021年11月16日(火)~2022年5月29日(日)
主催 : 谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館
監修 : 谷口吉生
企画協力 : 谷口建築設計研究所
協力 : 建築交流ネットワーク加盟各館
資生堂アートハウス、土門拳記念館、長野県立美術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、豊田市美術館、東京国立博物館、香川県立東山魁夷せとうち美術館、ニューヨーク近代美術館、鈴木大拙館、京都国立博物館
開館時間:9:30~17:00 (入館は16:30まで)
休館日:月曜日 (月曜日が休日の場合は直後の平日)
企画展観覧料 一般800円[700円]、大学生・65歳以上600円、高校生以下無料
公式サイト:https://www.kanazawa-museum.jp/architecture/exhibition/kikakuten.html#kikakuten4

企画展とは関係ないが、2階の水盤越しに見える落葉樹が紅葉していた。こういう狙いだったのか…

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