2021年7月15日(木)、建築、製造、アパレルなどのデザインビズが学べる「CGWORLD デザインビズカンファレンス」が開催された。本稿ではその中から、豊島株式会社によるバーチャルクロージング(3DCGを活用したバーチャルな衣服)の活用例についてレポートする。
TEXT_江連良介 / Ryosuke Edure
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura、山田桃子 / Momoko Yamda
アパレル業界の課題を3DCGによって解決する
本セッションで登壇したのは、豊島株式会社(以下、豊島)デザイン企画室室長の渡辺哲祥氏。同社では3DCGを活用した衣服のサンプルをつくることで、さまざまなメリットがあったと言う。
「今まではファーストサンプル、セカンドサンプル、各色サンプルとたくさんのサンプルを実物としてつくり、Eコマース用に撮影した後に生産、販売を行なっていました。しかし、現在は実際に商品をつくる前にバーチャルでサンプルをつくることにより、無駄なサンプルを減らしたり、会議での打ち合わせ時間の短縮などに効果がありました」。このように豊島では3DCGを取り入れることで、生産スピードの向上、需要予測の精度向上、受注生産体制の実現などアパレル業界の根本的な課題を改善しつつあるという。
次に、豊島の3DCG作成実績として、社内のパタンナー・デザイナーが作成したバーチャルクロージングが紹介された。
▲ワンピースの3DCGでは、モデル女性の身体にフィットした実物に近いサンプルを作成している。中央や右の画像では生地の透け感も表現されているなど、リアルな表現が実現している
▲ビンテージプリントを施されたワンピースの3DCGサンプル
▲店舗に展示されている実物のワンピース
格子柄のビンテージプリントが施されたワンピースでは、複雑な模様や布の形状も見事に再現されている。実際に店舗に展示された商品と見比べても、その完成度の高さがわかるだろう。
Tシャツのサンプル作成は3DCGならではのメリットがある。一度サンプルをつくってしまえば、そこにブランドのロゴや刺繡を追加するだけでいくつもの商品サンプルができてしまうのだ。一度型をつくってしまえば類似商品をつくる際の業務を効率化できる点もバーチャルクロージングの強みと言えるだろう。
アパレル業界のDXはサンプルのアニメーション化から生地ライブラリまで多岐に渡る
▲アニメーションの作業環境
豊島では、3DCGモデルにさらに手を加えることで、リアルな素材感の表現や実物の動きに近いアニメーションを実現している。制作環境としては、生地のCADデータと仕様書、生地スワッチの主に3種類が必要になる。これらをシミュレーションすることで、リアルな質感の再現が可能になる。
▲80台のカメラを使って人体をスキャンする様子
さらに、スケルトンと言われるモデルを透明にした状態でアニメーションを再生すると、実際に人が服を着用して動いている様子がシミュレーションによって確認できる。こうした人体モデルは専用撮影スタジオにて人体をスキャンし、3Dモデルとして生成されている。
このような豊島のDXは、3DCGの活用だけにとどまらない。そのひとつの例が、生地ライブラリだ。商品に使われる生地の情報は重要だが、これまではアナログな管理方法がとられていた。そこで豊島では、メーカー、品番、生地の色や素材などの情報をデジタル化し、今後業務に活用する予定だという。
さまざまなメディアで取り上げられたバーチャルクロージングの可能性
▲3DCGによる障害者へのパーソナルデザインの提供
続いて、豊島のバーチャルクロージングについてメディアやセミナーで取り上げられた事例が紹介された。大手アパレル専門店である株式会社アダストリアとの協業紹介事例では、障害をもつ社員3名の身体データを採寸し、3DCGで再現することにより、1人ひとりの身体的特徴に合わせたパーソナルデザインが可能になった。
「障害者の方は普段ファッションをあまり楽しめていないことも多かったため、今回のプロジェクトは非常に喜んでいただけました。例えば、車いすを利用する方の場合、肘がタイヤにぶつかるため生地を厚くしてほしいなど、それぞれ独自の要望があります。これらを3DCGで再現することができ、実際に商品をつくっても違和感なかったため、良い反応をもらえました」。この取り組みは業界紙4社全てで1面に取り上げられたほか、NHKなど3局の放送局で取材があるなど、大きな反響があった。
また、学校法人ベルエポック美容専門学校、トウキョウファッションテクノロジーラボ(TFL)との協業では、学生が3DCGモデリストとしてデビューする産学プロジェクトをスタートさせている。プロジェクトはすでに始まっており、9月にアワード大賞が発表される予定だ。
▲豊島のDXについて紹介された繊研新聞の記事
その他にも、専門誌である繊研新聞の取材では、アパレル業界のDXに取り組む企業として、3DCGを活用したサンプルの提供などの実態について取り上げられている。記事では、DXをヤングファッションブランドであるWEGOと共同で推進してきたことが触れられている。これについて渡辺氏は次のように語った。「WEGOさんはもとからデジタルに対する興味があったので、プリントTシャツサンプルのデジタル化について声をかけたところ、ぜひということで一緒に進めることになりました。商品開発の工程をデジタル化することでサイクルを高速化できる点、これまで営業時につくっていた商品サンプルを削減できた点など、一定の効果が見られています」。
豊島の進めるバーチャルクロージングは、業務の効率化だけでなく、アパレル業界が抱える福祉や環境分野の課題についても解決する糸口を提供してくれるだろう。