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弥生株式会社代表取締役社長の岡本浩一郎氏。10月14日に行われた「弥生 22」シリーズの製品発表会で

 弥生株式会社は10月14日、会計およびバックオフィス業務ソフトの最新バージョン「弥生 22」シリーズの製品発表にあわせ、事業概況説明会を報道関係者向けに開催。代表取締役社長の岡本浩一郎氏が登壇し、最新の動向について解説した。

「業務支援」と「事業支援」の両輪で

 現在、弥生では「事業コンシェルジュ」を標榜し、主要な顧客層である中小企業・個人事業主に対し、さまざまなサービスを提供する方針をとっている。その方向性には2つあり、1つは「業務支援サービス」として、会計ソフトの提供などを通じて業務効率の直接的な向上を支えようというアプローチ。そしてもう1つが、起業・開業から事業承継まで、中小企業のビジネスそのものを支援する「事業支援サービス」である。

「業務支援サービス」と「事業支援サービス」の関係性

 「事業支援サービス」については、全国各地の会計事務所とも連携しながら、小規模事業者が必要とする支援策を用意。11月にもスタート予定の「資金調達ナビ」では、行政からの補助金といった方法も含めた資金調達手段が一括検索できるようにする。すでに3月には「起業・開業ナビ」を公開しているが、今後も12月には「税理士紹介ナビ」、2022年に「事業承継ナビ」を展開する計画だ。

 「従来の弥生というと、事業者向けの業務ソフトを提供するところにだけフォーカスが当たりがちだったが、今は会計事務所向けの支援であったり、企業の事業そのものの支援にも取り組んでいるところをぜひご理解いただきたい。」(岡本氏)

「税理士紹介ナビ」「事業承継ナビ」も提供予定

「電子化」ではなく「デジタル化」を改めて主張

 そのうえで岡本氏は、企業活動を含めた社会的システム全体について「デジタル化」を目指すべき、との姿勢を改めて表明した。

 ここで言う「デジタル化」とは、「電子化」とは異なる概念だ。戦後、コンピューターのない時代に支配的だったのは「紙文化」であり、その“紙”のやり取りを単純に電子データに置き換えたのが「電子化」。電子データを部分的に利用してはいるものの、業務のあり方は紙文化時代の発想とそれほど変わらない。

 これに対して、電子データありきで業務を発想し、そのフローについてもゼロから見直すのが、岡本氏の主張する「デジタル化」だ。例えば行政の電子化は少しずつ進行しているものの、行政に対して書類などを提出する事業者側にとっては、それまで紙だけでよかったものが電子データもプラスして管理する必要が発生したりと、必ずしも業務効率化に直結するものではなかった。

「電子化」と「デジタル化」は似ているようで違う

 電子化ではない「デジタル化」は、この5年で海外でも急速に進んだと岡本氏は指摘する。シンガポールとオーストラリアでは、2018~2019年にかけて電子インボイス規格「Peppol」が採用され、着実に普及が進んでいるという。

 現状の日本におけるインボイスとは、2023年10月の制度スタートが予定されている「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」がなんといっても想起される。企業間でやり取りされる請求書について、販売側(売り手側)が消費税の納税事業者であることを意味する、登録番号の記載等の要件が満たされなければ、仕入れ側(買い手側)はその金額を税額控除の対象にできないため、消費税の免税事業者を中心に大きな影響が出ると予想されている。

 複雑な消費税計算を伴うインボイス制度を、紙の書類だけで運用するのは現実的ではない。会計ソフト等なんらかのコンピューター処理を介在させる必要があるとみられ、市中の多くの企業が対応を進めることになる。インボイス制度の施行は、あらゆる業務の「デジタル化」を目指す弥生にとって、それまでのビジネス慣習を根本的に見直すための好機……というわけだ。

 とはいえ、事は弥生の1社だけで完結させられる規模のものではない。そこで2020年7月、「電子インボイス推進協議会(EIPA)」を立上げ、さまざまな立場の企業と連携しながら、標準規格の策定などを進めている。

 EIPAではまず、請求業務のインボイス対応を滞りなく実現するための準備を優先。日本においてもPeppolの採用を訴えている。Peppolはヨーロッパ発祥の規格だが、前述のようにシンガポールやオーストラリアでも採用され、グローバルスダンダートとなる可能性が高い。また、EIPAの検証では、日本の商慣習にも対応できる柔軟性が備わっているという。

「電子インボイス推進協議会(EIPA)」では、Peppolの採用を訴えていく

 ただ、最終的には、見積書の発行から発注書のやり取り、さらには請求金額と受取額の付き合わせ(消込)まで、企業間取引で必要なあらゆる業務を全てデジタル化・自動化するところまでを、電子インボイスで実現しようというのがEIPAの目標だ。

 「全てをデータでやり取りするという考え方は、特段新しいものではなく、大企業を中心にここ20年で広がっているし、特定の業界内で閉じたかたちで使われている。これを中小企業でも、誰でも使えるようにするのがEIPAの目標だ。」(岡本氏)

 2021年6月には、平井卓也・デジタル改革担当大臣(当時)に電子インボイスの日本標準仕様策定に向けた提言を実施。新たに発足するデジタル庁において「フラッグシッププロジェクトとなる」などの発言も平井大臣からあったという。

電子インボイスを単なる法令対応にとどめることなく、業務効率の向上に繋げていく

どうなる? 2022年1月に迫った「電子帳簿保存法」改正

 電子インボイスが普及し、活用の領域が広がれば、業務の前提条件は大幅に変わっていくと考えられる。電子インボイスは自動処理されるため、人が見たり処理する機会は減る。日本では、複数の請求案件を月末にひとまとめに行う「合算請求書」の作成が浸透しているが、これは国際的には少数派で、海外では1回の納品ごとに請求書を発行する「都度請求書」が一般的だという。合算請求書は、請求書を紙で郵送する場合に切手代が節約できるなどのメリットはあるものの、デジタルならばその前提は崩れる。また、経営指標をリアルタイムに把握するには、月末を待たず都度請求したほうがよい。

 とはいえ、あらゆる企業が一気に請求業務を見直すのも難しい。移行に必要な時間をしっかり見極めつつも、最終的には業務そのものの根本見直しに取り組む必要があるとした。

日本特有の事情に合わせた電子インボイスの制定を目指す

 こうしてインボイス制度への準備を着実に進める一方で、岡本氏が強烈な警戒感・危機感を示したのが、3カ月後の2022年1月に改正される電子帳簿保存法である。「いろいろ調べてはみたが、残念ながらこの法律は『デジタル化』ではなく『電子化』」(岡本氏)。

 これまで電子取引記録は、紙に印刷して保存しておけばよかったが、改正後は“電子取引記録は電子取引記録のまま”保存しなければならない。また、従来は条件を満たした場合にのみ電子保存が許されていたが、改正後は、必ず実施しなければならない。さらに、領収書類を電子的なシステムで集中管理しようという場合、一度採用したシステムを途中で切り替える運用が想定されておらず、極端な「ベンダーロックイン」につながる恐れもある。

2022年1月の電子帳簿保存法改正には、懸念も多い

 インボイス制度の導入、電子帳簿保存法改正によって、請求書をはじめとする証憑の取扱は大きく変化していくだろう。そこで弥生では2022年の春をめどに、「証憑管理サービス(仮称)」を新たに提供する計画だと岡本氏は表明した。

 この新サービスでは、納品書・請求書・領収書・レシートなどを一括管理し、OCRによる文章解析によって紙書類を構造化電子データに変換する機能をはじめ、各種の強化を行っていく予定。

 「弥生は、全ての業務プロセスをデジタルで一気通貫でつなげていきたいと考えている。証憑管理システムは、そのハブとなるだろう。」(岡本氏)

2022年春には、証憑管理サービスを新たに提供予定