コロナ禍で時間恐怖症(クロノフォビア)に苦しむ人が世界的に増えているという。女優でジャーナリストの深月ユリア氏が、国内で実際に罹患(りかん)した人を取材し、その実態をリポートする。
【写真】女優、カウンセラーなど幅広く活動するジャーナリストの深月ユリア
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コロナ禍の「ステイホーム」で他人と気軽に会えずに閉塞的な時を長期間過ごすことにより、「時間恐怖症=クロノフォビア( chronophobia )」という症状を患う人が増えているという。クロノフォビアは、時間経過に対して極度の緊張や恐怖を覚える、という症状である。米国では成人国民のおよそ12・5%がクロノフォビアのような症状を体感したことがあるという。
従来、クロノフォビアに悩まされるのは、主に高齢者施設の入居者のような「残された時間が限られた人」、刑務所の受刑者のような「時間に縛られた人」、或いは自然災害の被災者のように時間をかけて築いてきたものや大事な人を失って「時間の感覚が失われた人」が多かった。
しかし、コロナ禍によるクロノフォビアは、コロナ禍のストレスの他、自粛によりホルモンバランスが崩れたという内科的要因もあるという。
東京都内に住む舞台俳優・カラオケ店経営のA氏(50)は2021年1月に心療内科でクロノフォビアの診断を受けた。
「コロナ禍で舞台に出られなくなり、経営しているカラオケ店も自粛することになりました。普段通りの朝起きて夜寝るまでのルーティン化した生活スケジュールが成り立たなくなり、ただ時間が過ぎていくことに対して、『悪いのはコロナで自分ではない』と頭では分かっていても、自己嫌悪や強迫観念に苛(さいな)まれ、不眠症にもなりました。その上、両親の病気が悪化し、人工透析の介護が必要になってしまい、私の精神状態は最悪でした。 体内時計も壊れて、『時間』がやたら長く感じたり短く感じたりしました」
「2020年の初めての緊急事態宣言から症状が始まり、1年ほど不眠症が続いたので、睡眠導入剤をもらうために心療内科に人生で初めて行ったら、クロノフォビアだと診断されました。去年秋にコロナが落ち着いた頃に舞台が決まり、毎日稽古をして生活スケジュールがルーティン化したことがきっかけに完治しました」(以上、A氏)
A氏のようにクロノフォビアを患った人は、特にエンターテインメント業界や飲食店など、自粛を要請された業界で勤務している人に多いようだ。
クロノフォビアは重症化すると、パニック障害や過呼吸や嘔吐、一時的な失明、心拍の変動、一次的な極度の不安やうつ状態に陥ることもあるので、早い段階でストレスを軽減したり、A氏のように何か生き甲斐が持てることを日々の生活で行って生活をルーティン化し、それでも治らない場合は、心療内科で認知行動療法が必要になる。
目下、オミクロン株が感染拡大し、なかなか収束しないコロナ禍だが、ストレスの対策方法として 「STRESS」という方法をご紹介したい。
・S=スポーツ(運動をする)
・T=トラベル(旅行に行く)
・R=レクリエーション(遊ぶ)
・E=イート(食べる)
・S=スピーク(しゃべる)
・S=サケ(お酒を飲む)
…である。その時の情勢により、旅行など一部できないこともあるが、できる範囲で日々のライフスタイルにルーティン化して取り組めばストレス対策になる。
そして、もう1つ大事なのは感情を吐き出すことだ。笑いたい時に笑って、泣きたい時に涙を流して泣くとストレスのデトックスになる。「笑い」は免疫力もつくので、万病の予防にもなる。
(ジャーナリスト・深月ユリア)