もっと詳しく

Vol.107-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは引き続き音楽配信。サービスの重要な機能である「プレイリスト」を例に、SpotifyとApple Musicのサービスの発想の違いを見ていく。

 

Vol.107-2のリンクはコチラ

 

音楽が聴き放題になると、どれだけ聴いても経済的負担が変わらないことが大きな魅力になる。一方で、人は意外と「何を聴くべきかわからない」ものである。ゆえに、聴き放題型・ストリーミング形式による音楽サービスを使い始めた当初は、よく知っている曲を探す「懐メロ発見器」のようになってしまう。だがもちろん、それでは音楽の消費は拡大しない。

 

そこで活用されたのが「レコメンド」と「プレイリスト」。どちらもいまやおなじみの存在だ。利用者が過去に聴いた音楽や登録した好みなどから、その人が好んで聴きそうなアーティストや楽曲を提示するのがレコメンドであり、アルバムという形に縛られず、好きな曲をまとめて聴けるようにしたのがプレイリストである。

 

新しい曲に出会える機会を増やすことによって楽曲消費を増やし、結果として「便利で価値があるからサービスを契約し続けよう」と考えてもらう……という作戦だ。

 

だが、単に機能があるだけでは利用は伸びない。そこで、各社各様の発想が組み合わさり、新しい形が生まれている。

 

特に発想が明確に分かれているのが、SpotifyとApple Musicである。

 

プレイリストの価値拡大に着目したのはSpotifyが先だ。というよりも、「聴き放題型」でのビジネス拡大はSpotifyがかなり先行していたのだが、過去からあったプレイリストの価値が聴き放題型ではより高い……ということに彼らが先に気づいて有効活用し、ほかの事業者がそれを真似していった、というのが正しいだろう。

 

Spotifyはプレイリストを作ってシェアすることを推奨し、プレイリストをまとめた人をフォローする機能も搭載した。最初は著名なアーティストや音楽プロデューサー、DJなどが注目されたが、そのうち「良いプレイリストを作る人」そのものも注目されるようになる。そうやって楽曲の聴き方を増やしていくことで、古い曲も新しい曲もうまくピックアップされる流れを作っていったわけだ。

 

結果、音楽が聴かれる量が増えて音楽業界への還元額が高まり、Spotifyは契約の継続が安定的になって収益が上がっていった。

 

最新の試みとして、自分でポッドキャストを作る際、その中にDJとしてSpotifyで配信される楽曲を組み込める「Music + Talk」をスタートした。簡単に言えば、しっかりと権利者に利益が還元される形で「自分で音楽番組が作れる」ものであり、トーク視聴の利用拡大も含め、音楽を聴く機会をさらに拡大する試みと言える。

 

それに対してアップルは、音楽雑誌の元編集者などを多数社内に抱え、自らプレイリスト作成やその解説執筆を行い、「音楽のメディア化」を推し進めることで対抗した。自分たちで「Radio 1」などの音楽番組を多数配信し、ラジオや音楽雑誌から音楽を楽しむのに近い糸口を作り出したのである。

 

現状、両社のアプローチは大きく違うが、それぞれが利点を持っており、利用者拡大につながっている。

 

ではこれからどうなっていくのか? その辺は次回のウェブ版で解説する。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら