アクションRPGの金字塔「Diablo II」を21年の時を経て復活させたリマスター版「ディアブロ II リザレクテッド」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch)。オリジナル版をリアルタイムで遊んでいたベテランから,噂でしか聞いたことがない世代まで,多くのゲーマーがアイテムを求めて日々プレイしていることだろう。
本作では,12月初頭にキーボードとマウスのバインディング機能を拡張したり,新旧のバグを修正した「Patch 2.3」がリリースされたりして,今後も長期的なサポートが期待できそうだ。
そんな「ディアブロ II リザレクテッド」について,Blizzard Entertainmentが,2022年初頭のPTR(公開テストサーバー)入りを予定している次期パッチ「Patch 2.4」のプレビューを公開した。あくまでもプレビューであり,その詳細についてはリリース直前まで待つ必要がありそうだが,大きなところでは以下のような内容となっている。
○ラダーランク
オリジナル版(以下,クラシック版)同様,いよいよラダーランクが実装され,「Standard」「Hardcore」「Standard Expansion」,そして「Hardcore Expansion」の4つのラダーモードでプレイできる。後述するように,これに合わせてラダーランクだけの新しいルーンワード(Rune Words)も用意され,シーズンの終わりにルーンワードを完成させていれば,それを“非ラダー”の本編に移動させることが可能になる。
○キャラクタークラスのバランス調整
いよいよ,キャラクタークラスのバランス調整が行われる。クラシック版では2010年3月23日にリリースされた「Patch 1.13c」以来とのことなので,実に12年という歳月を経てのアップデートとなるわけだ。
開発チームは,これまで多くのコアゲーマーの意見を聞いてクラスバランスの調整を考えてきたとのこと。これまであまり使われてこなかったスキルや,キャスティングディレイなど,ゲームを壊さない形での調整を優先しているということで,長年のプレイの末に常勝ビルドでプレイし尽しているというゲーマーにとっても,プレイし甲斐のあるものになりそうだ。
プレビュー情報では,アマゾンのImpaleやFendといったメレー系スキル,アサシンの“武闘家”ビルドおよび“トラップ”ビルド,バーバリアンのLeap AttackやGrim Wardといったコンバットスキルと投げ技マスタリー系のスキル,ドルイドの火炎系スキルやサモン系スキル,ウェアベアー系スキル,ネクロマンサーのGolem系スキル,パラディンのFist of the Heavensやオーラ系スキル,ソーサレスのコールドとアーマー系スキルなどの調整が予定されているという。
○マーセナリーや新しいアイテムの調整
マーセナリー(雇用兵)については,以前のパッチでも調整が加えられているが,後述する“砂漠傭兵”以外のマーセナリーのスキルやスタッツをさらに魅力的なものにすることで,その個性を強化するとのこと。
また,こちらも久々のゲームのアップグレードとなるが,新たなルートアイテムとしてホラドリックキューブのレシピと上記したルーンワードが追加されるのに加え,セットアイテムについての改良も行われる予定だ。
このPatch 2.4のプレビュー情報公開に先立ち,Blizzard Entertainmentのシニアゲームプロディーサーとしてお馴染みのMatthew Ciderquist(マシュー シダークイスト)氏と,同社傘下の開発チームVicarious Visionsを率いるデザインディレクターのRob Gallerani(ロブ ギャレラーニ)氏への合同メディアインタビューが開催されたのでご報告しておこう。
Matthew Ciderquist氏 |
Rob Gallerani氏 |
――「ディアブロ II リザレクテッド」でキャラクタークラスのバランス調整を行うことについて,ゲーマーコミュニティからは「調整なんてしてほしくない」という意見もあるかと思います。彼らをどのように納得させることができるでしょうか?
Matthew Ciderquist(以下,Ciderquist)氏:
この調整については,これまで同様にコンテンツクリエイターからフォーラムに至るまで,ゲーマーコミュニティの意見をしっかりと汲み上げながら試行錯誤してきました。想像できるでしょうが,我々が受け取るフィードバックの量はものすごいものです。その中から,ある意見に対して反対意見があるかどうかをチェックし,調整する必要があると感じたものについてはグループや個人とコンタクトと取って話し合いも持ちました。
Rob Gallerani(以下,Gallerani)氏:
どのように納得してもらうことができるか……。むしろ,「どのようにすれば,正しく納得してもらえるのか」というのが我々のアプローチと言えるかもしれません。つまり,我々がもっと良くなると判断したから調整しました,というのではなく,1人でもより多くの人が,自分たちのファンタジーを満たせるプレイを実現できるために調整を行っているのです。もちろん, “純粋主義者”はおられるでしょうが,リザレクテッドをリリースしたからクラシック版がなくなるわけではありません
――クラスのバランス調整は,非常にデリケートな部分であると思いますが,ゲーマーコミュニティの意見を尊重しておられるということでも慎重になっているように感じます。どのような立ち位置で開発されてきたのでしょうか?
Gallerani氏:
慎重というのは,良い表現だと思います。歩き始めたばかりの幼児の歩幅のように,何が変わったのかも分からないくらいに小さな変化を重ねているのですが,余りにも歩幅が大きくなり過ぎると,いつ越えてはいけない一線を越えてしまったのか判断しずらくなってしまいますから。
例えば,耐火性について加えている調整について,特定のキャラクタービルドに大きな変更が出てしまうという声も出てきます。このゲームは非常に複雑で,1つのことを変更すると,ほかに何十か所も手を加えていかなければなりません。将来的に,耐火ビルドを作れなくなると言っているのではないですが,1つのボタンを押すと,ほかにどのような影響が出るのかをPTRでじっくりとテストしていくわけです。
Ciderquist氏:
我々のチームがやっていることは,新しいゲームを作るのではなく,「Diablo 2」の体験をそのままにして,ゲームをリフレッシュすることです。我々がパッチで修正することの最大の目的は,これまであまり日の目を見ることがなかったやスキルに小さな“バフ”(上方修正)を加えて改良することであって,皆さんが楽しんでおられるビルドやプレイを“ナーフ”(下方修正)することではないです。
“武闘家アサシン”や“投げパーバリアン”のような,これまであまり楽しめてなかったビルドを,より興味深いものに仕立てて行こうというアプローチですね。
――現在公表されている部分で気になったのは,キャスティングディレイについてです。久々にドルイドでプレイを始めましたが,「以前プレイしていた時に,ファイアードルイドのビルドを途中で投げ出した」という記憶をほんのりと思い出したのですが,これが理由だったような。
Gallerani氏:
簡単に言えば,キャスティングディレイとはクールダウン時間のことですが,それぞれのスペルに異なるクールダウン時間が必要で,クラシック版ではこれが引き起こされると,その間はほかのアクションができなくなってしまうのです。
オリジナル開発チームのデザインの方向性は,あまり多くのデータがやりとりできなかった56kモデム(当時の標準)に合わせたものだったと思うのですが,とくにドルイドの火炎系スペルはキャスティングディレイが顕著で,ファイアードルイドのビルドは反応が悪く感じたり,途中で行き詰まってしまったりという印象をゲーマーは感じていたようですね。今回の調整は,ファイアードルイドへの愛が感じられるものになっているはずですよ。
――Patch 2.3ではマーセナリーに調整が入り,砂漠傭兵バグ(第2章の雇用兵がポータル侵入後に距離調整のリスポーンすると,敵からのダメージを受けなくなるバグ)が修正されましたね。雇用兵全般の見直しが入るとのことですが,雇用兵自体のバフなどは考慮されていますか?
Gallerani氏:
ええ。修正されました。申し訳ありません(笑)。我々のマーセナリーに対するアプローチは,クラスバランスへのアプローチと同じコンセプトであると言えます。第2章のマーセナリーのバグは皆が利用していたものですが,ひょっとしたらプレイヤーの中のファンタジーコンパニオンとして,第1章のローグ,第5章のバーバリアンを使いたい人がいたかもしれない。
ですから,例えばバーバリアン雇用兵にWar Cryを追加するなど,彼らの個性を高めることで,見向きもされなかった彼らを,より楽しんで使ってもらえるのではと思うのです。雇用兵全体には,バフというよりもそうした形で調整を加えており,第2章の雇用兵以外の雇用兵の利用価値を高めています。
Ciderquist氏:
第2章の雇用兵を使ってHoly FreezeとInsightポールアーム,というのがナイトメアモードまでの定石でしたよね。ほかの雇用兵にもスポットライトを当てるというのはRobがお話ししたとおりなのですが,ここにルーンワードがうまく組み込めると思います。
新しいルーンワードについては,既存のルール内において,さまざまなものを用意しており,今後はシーズンを重ねていくにつれてさらに増やしていくことになると思います。ルーンワードを利用して,それぞれの雇用兵をさらに使いやすく,楽しくしていくということですね。
――新しいルーンではなくて,ルーンワードだけが追加されるという理由は?
Gallerani氏:
簡単に説明しますと,新しいルーンを追加するということは,新しいアイテムを加えるということです。そして新しいアイテムを追加するということは,モンスターがゲーム世界のどこかでドロップすることになります。つまり,アイテムを加えることによって,ほかのアイテムのドロップ確率が変化してしまい,それによってバランス調整を行うことが悪夢になってしまいます。
ルーンワードだけに限定したのは,膨大なゲームシステムのルーンという狭いエコシステムの中で完結できるからです。数学的に言えば,ルーンワードの中にはまったく使われていないコンビネーションがたくさん存在しており,元のゲームに極力手を加えることなく,新しい要素をリフレッシュできる最良の方法であると考えました。
――なぜ,使われていなかったのですか? オリジナル開発チームにしか分からない理由かも知れませんが,ゲームバランスが調整されないまま放置されていたのか,リリースのタイミングを失って使われていなかったのか……。
Gallerani氏:
バランスに手を付けられいないまま放置されていたのではないですね。開発時点でゲームプレイを破壊するようなものであれば,そもそも残されていなかったでしょうから。
Blizzard Entertainmentの倉庫に眠る古いドキュメントを掘り起こして,こうした要素を見つけ出すのは,ゲームデザイナーのAndre Abrahamian(アンドレ・エイブラハミアン)の功績なくしては語れないことなんですけども,本当にエジプト学の考古学者のようなイメージです。ヒエログリフではなく,データのね。アートワークにしても,何のために書かれたり作られたりしていたのかさっぱり分からないものもありますが,我々の考古学者たちが考察を重ねて,本来あるべき姿であろうものを再構築していったのです。
――具体的にはいくつのルーンワードが実装されるでしょうか。
Ciderquist氏:
新しく追加されるルーンワードの数について具体的にお話ししますと,2つはクラシック版の開発時点で存在したのに使われなかったもので,残りが新しいものです。新しいものについての数は言えません。これらの古いルーンワードは,おそらく今から11年前に考案されたもののようですが,ラダーシーズンで使われることはありませんでした。その理由は分かりません。
まだ企画の段階なので私の言葉はあまり当てにできないですが,ラダーのシーズンごとに,さらに2〜3のルーンワードを追加できるようデザインしています。シーズン終了後には,完成させたルーンワードは非ラダーのゲームに実装できるため,ラダーランクをプレイし続けるプレイヤーのモチベーションになると確信しています。
――それこそが,我々ゲーマーの「ディアブロ II リザレクテッド」をずっとプレイし続けることの理由になりそうですが,やがては「ディアブロ IV」,そして「ディアブロ: イモータル」もリリースされますね。冒頭でおっしゃっていたように,ゲーマーコミュニティの声を重視していると,それぞれが同じようなゲームになってしまうといった危惧はありませんか?
Ciderquist氏:
私個人の見解ですが,「ディアブロ」というフランチャイズを見た場合に,それぞれには大きな差がありますよね。“1”はダンジョン探索,“2”はビルド構築,“3”は新しいクラスや世界観の拡張……というように,面白さも時間が経つに従って変化してきたと思います。
「リザレクテッド」は,20年前の名作を復刻するという難しい使命のもとで作られたものですが,「ディアブロ: イモータル」も「ディアブロ IV」もそれぞれに異なるディアブロ体験を提供してくれるはずです。
私はまだ,現役でオリジナル「Diablo 2」のラダーをプレイしていますが,個人的には“次のレベルのRPG”に達していると思える「ディアブロ IV」がリリースされてもプレイし続けるでしょうね。実は,そのためにそれぞれの作品でシーズン開始時期をずらしたりもしているのです。
――なるほど。一日72時間くらいあったら良いのに(笑)。ありがとうございました。