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ナンバリングの作品としては約19年ぶりの登場となった『メトロイド ドレッド』。あまりにも間が空いているうえに、いまやすっかり「メトロイド」シリーズに影響を受けた「メトロイドヴァニア」なんてジャンルが定着しているわけで、「いくら始祖といえる存在とはいえ、本当に戻ってきて大丈夫なのか?」という不安があった。

しかし、実際に遊んで見ればそれは杞憂だった。それどころかゲーム・オブ・ザ・イヤーの候補として十分に考えられるほどの作品であり、開発元である任天堂とマーキュリースチームの底力を見せてもらった気分だ。

とはいえ、いまさら戻ってきた『メトロイド ドレッド』がなぜそこまで優れた作品になれたのか非常に気になるところだろう。実は本作、“メトロイドヴァニアの問題”と“「メトロイド」の問題”の両方をうまく解決している優れたゲームなのである。

探索や単調さといったメトロイドヴァニアとしての問題

メトロイドヴァニアとは、「メトロイド」のような、あるいは「Castlevania(悪魔城ドラキュラ、厳密には
『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』)」のような探索型アクションゲームのことである。要するに、横スクロールアクションで広めのマップを探索しながらアイテムを探し、それらをうまく活用することでさらに行ける場所が広がっていくようなゲームだ。

このジャンルはマップを探索してさまざまなアイテム・ルートを見つけるのが楽しいわけだが、一方でプレイヤーが迷いすぎると途中でゲームを投げ出してしまう可能性がある。

つまり、「プレイヤーを迷わせたいのだけれども、迷いすぎて投げ出されては困るので、直接的にならないようヒントは出さなければならない」という難しさがあるわけだ。『メトロイド ドレッド』では探索と一本道を組み合わせることにより、これをうまく解決している。

本作では新しい能力を手に入れたら周囲を調べられる探索パートになり、アイテムの回収などができる。そして探索を進めて次の能力を得られる場所にたどり着いたら、その能力を得るまではほとんど一本道のような状態に変化する。よって、探索部分で迷う可能性はあるが、それ以外の不必要な部分では迷わせない作りで、むやみにプレイヤーに負担をかけないわけだ。

しかも、マップが非常に優れている。一度訪れた場所であればどこになんの仕掛けがあるかきちんと記録されているうえ、特定の仕掛けをフォーカスする機能もあるため、新しい能力を手に入れたらそれが試せる場所を探せば確実に進めるようになっている。

これにより、「プレイヤーが探索部分で迷うことはあるけれども、迷いすぎないよう適度なヒントを出しつつ、迷う必要のない場所ではきちんと一本道にする構造」になっており、ほどよく快適でほどよく苦労する探索を実現しているのだ。

また、メトロイドヴァニアはサイドビューのゲームでカメラが引き気味なので、気をつけないと画面が地味かつ単調になりがちでもある。いまの時代、スクリーンショットや動画映えしなくなってしまうのはかなりの痛手のため、なんらかの策が必要だ。

当然、『メトロイド ドレッド』はこのあたりも抜かりない。本作のマップは複数のエリアで構成されているのだが、そのどれもかなり異なる雰囲気になっている。敵もまったく違うものが出てくるし、背景も非常に凝っており、探索を進めるたびに新鮮な気持ちになる。

「ファントムクローク」という能力があればE.M.M.I.から隠れることができる。

カメラワークも見事だ。ボス戦では近接戦になるとカメラが寄るし、新要素となる「E.M.M.I.」という殺戮マシーンに追われ透明になって隠れているときもカメラがアップになる。

ボス戦ではカットシーンも積極的に採用されている。ボスにトドメを刺すときはイカしたシーンが多く、サムスはガンマンと忍者を合わせたような超人的アクションを見せてくれる。「サムスってここまでカッコよすぎるキャラクターだったか!?」と度肝を抜かれたが、まさしく銀河最強のバウンティハンターにふさわしい動きだ。

探索要素が持つ「メトロイド」としての問題

そして、「メトロイド」シリーズとしての問題も存在していた。初代『メトロイド』は1986年に発売された作品であり、サムスの手に入れる能力はシリーズで基本的に同じものが多いゆえにマンネリ気味なのが正直なところである。

また、メトロイドヴァニアは「能力によって行ける場所が増える」という構造上、手に入る能力が移動系(二段ジャンプやダッシュなど)に偏りがちで、先が読めてしまう欠点もあった。

とはいえ、「メトロイド」シリーズの新作であるならば定番の能力は残しておかないとファンも悲しむのが実情であろう。過去を尊重しつつも新しく感じさせなければならず、これはなかなかの難題だ。

これに関して『メトロイド ドレッド』では、「同じ能力は出るが取得順や使い方を変える」方法をとっている。たとえば、いつもであればサムスが丸くなれるモーフボールが最序盤に手に入るわけだが、今回では中盤に入るあたりで手に入るようになっている。1マスの狭い場所に入れる一番大事な能力なのに、なぜこんなことに?

答えはシンプルで、本作ではスライディングが用意されているからだ。地面に隣接した1マスであればふつうに抜けられるのため、モーフボールを最初に持ってくる必要がない。ゆえに本作のモーフボールは「チュートリアル的に手に入るどうでもいいもの」ではなく、「プレイヤーが欲しくなってきたところで手に入る重要な能力」になるように、ひねりを加えられているわけだ。

さらに、バランスを調整して探索の楽しさを増やすことにも成功している。「メトロイド」シリーズはアイテムを探してもミサイルタンクばかり手に入るのだが、これはあまりうれしくないのが正直なところだ(ミサイルはすぐ余ってしまうため)。

『メトロイド ドレッド』ではミサイルタンクを入手しても2発しか上限が増えない。おまけにボスをゴリ押しで倒すために使える武器になっているので、序盤~中盤は特に集めるのが重要になり、見つけたときの喜びも増している。

さらに、上位版となるミサイルタンクプラスは10発のミサイルが一気に手に入る。ただし、上位版は入手の難易度がかなり高くなっており、入手できれば実用的にも謎解きを攻略した喜びとしてもより嬉しいわけだ。このように、従来の能力やアイテムをうまく調整して探索の楽しさをアップしているのである。

特定エリアでサムスを追い回し、捕まると高確率で即死してしまうE.M.M.I.も重要だ。E.M.M.I.のおかげで特定エリアでは緊張感が高まるため、探索にもメリハリがつき飽きの回避にもなっている。

さらにE.M.M.I.を倒すプロセスも優れている。E.M.M.I.を破壊するにはまずオメガストリームでプロテクターを破壊し、溜めたオメガブラスターでトドメをさす必要がある。この過程ではE.M.M.I.がゆっくりと近づいてくるうえ、サムスは撃ちながら移動できないので緊張感が嫌でも高まるのだ。

しかも攻撃を成功させれば邪魔なE.M.M.I.を消すことができ、さらに新たな能力が手に入る。E.M.M.I.に追われ対峙しなければない「緊張」、そこからの「緩和」、さらには能力という「報酬」も存在しており、立て続けにプレイヤーを喜ばせる要素が飛び込んでくる。このE.M.M.I.関連のシステムはとてもうまくいっているといえるだろう。

アクションゲームとしての「メトロイド」の問題

メレーカウンターを決めたあと、フラッシュシフトで壁際から脱出。

『メトロイド ドレッド』ではアクションも刷新されている。マーキュリースチームが開発し2017年に発売されたニンテンドー3DS向けタイトル『メトロイド サムスリターンズ』は非常に操作しづらかったのだが(3DSのボタンやスティックが足りないせいもあるが)、これもきちんと解決されている。

本作では操作しづらいと思う場面がほとんどなくなっただけでなく、サムスの動きも素早く、チャージビームの溜めも早い。前述のようにスライディングがあるおかげでストレスが少ないし、走って相手を殴れるダッシュメレーのおかげで足が止まりづらくなっている。

一方、相手の攻撃に合わせて反撃するメレーカウンターは足を止める必要があるのだが、これで敵を倒すとアイテムがたくさん手に入る仕様のため、ダッシュメレーとの差別化も図れている。このほかにもスピードブースターなども仕様が少し変わって全般的に使いやすくなり、短距離を超高速移動できるフラッシュシフトのおかげでバトルも奥深くなった。

こうしてアクションがやりやすくなったがゆえに、バトルはより歯ごたえのあるものになっている。とにかくゲームオーバーになりまくり死にゲーかと思うほどだが、リトライは容易なので不快になることは少ない。それどころか燃えるくらいだ。

ボス戦ではメレーカウンターを決めると魅力的なカットシーンが発生するし、上級者はすぐに倒せるようになるため実用的である。どうしてもボス戦が難しければ前述のようにミサイルタンクなどを集めれば楽になるし、やりごたえがあるため逆にアイテムを回収しない縛りの遊びも発生しやすくなっている。

はっきりいって私は「メトロイド」ナンバリング作品でアクションが楽しいと思ったことはなく、それどころかややこしいだとか面倒と思うことが多かった。しかし『メトロイド ドレッド』は、はじめて“アクションゲームとして楽しい”と思わせるほど洗練されていたのだ。

まさしく理想的な「メトロイド」シリーズ最新作

このように『メトロイド ドレッド』は、“メトロイドヴァニアの問題”と“「メトロイド」の問題”を解決しつつ、探索やアクションの楽しさを増やしよりプレイヤーが熱中できるような仕掛けも入れてきているわけで、おもしろくなるのも当然だといえるだろう。

もっとも、本作に欠点がないわけではない。エリア移動のロードはやや長めで、状況によってはフレームレートが少し落ちることもある。また、ゲームのボリュームが少ないという声はあるかもしれない。IGNのレビューではクリアまで約11時間かかったそうだが、これは割と長めのプレイ時間であるうえ、筆者は5時間13分でクリアできた(これはあくまでゲーム内タイムで、私の実プレイ時間は8時間ほどと思われる)。

私がたまたま2Dアクションゲームが得意なのですぐクリアできた可能性もあるが、収集や苦戦を加味してもボリュームは極端に多いわけではないだろう。とはいえ、ここまで磨きあげたのであれば短めでも問題ない。むしろここまでおもしろいと2周目やアイテム収集もやりたくなるので、結果的により長く遊べるといえる。

いまはもはや「メトロイドヴァニアを遊んだことはあっても、「メトロイド」を遊んだことのない人」がいる時代だ。そんななか、『メトロイド ドレッド』という原点が見事な作品として戻ってきて、「さすがメトロイドヴァニアの元祖だ!」と思われるような誇り高い作品に仕上がっているのである。

正直、マーキュリースチームが開発した『メトロイド サムスリターンズ』はあまりおもしろくなかったので不安視していたのだが、今回はまったくもって杞憂であった。いまや「メトロイド」シリーズは完全に復活したのである。


渡邉卓也(@SSSSSDM)はフリーランスのゲームライター。『メトロイド ドレッド』は例のスーツも好き。

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