空港の出入国管理やオフィスの入退場などのセキュリティ、無人店舗での決済時に使われるなど、顔認証技術の活用分野が広がっています。その動きは動物にも及んでおり、なんとコアラや犬、熊への応用が進められているといいますが、それぞれどんな目的があるのでしょうか?
1: 機械学習がコアラを救う
オーストラリアでは、顔認証技術をコアラのために使用する試みが行われています。同国では1997年から2018年までの間に毎年356頭のコアラがクルマと衝突し、死傷したそう。この悲痛な交通事故を予防するためには、コアラが道路を横断する行動習性の理解を深め、横断の予測を行うことが望ましいという見方があります。そこでオーストラリアのグリフィス大学では、コアラの外見と動きから個体識別する顔認証技術を開発しました。
道路を横断するコアラをカメラが捉えると、その画像が同大学のサーバーに転送され、コンピューターと機械学習システムがコアラの個体を識別します。この方法により、どのコアラが動物用に設けられた地下道や橋を渡るかを観測するとか。
この顔認証技術が使われる前は、道路を横断したコアラが以前カメラで撮影されたコアラと合致するか、人が確認していました。顔認証技術の導入によって、関係者はこの作業から解放され、より正確なデータを得ることができると見られます。
2: 犬の識別というより監視社会の拡大?
中国の都市部では、ペットの糞を道路にそのまま残した場合、飼い主に罰金が科されるそう。そんな公共衛生の取り締まりに利用されているのが、犬の顔認証技術です。
犬の鼻にあるシワは「鼻紋」と呼ばれ、犬によりその形や長さが異なるため、人間の指紋と同じように個体識別に使うことができます。そこで、中国のスタートアップが、異なるアングルから撮影した犬の鼻の画像をもとに、AIが個体識別する技術を開発。これまでに登録されている鼻紋を95%の高い精度で識別することができると言われています。
この技術を開発したスタートアップは、中国でECの最大手アリババの傘下にある企業。中国政府は監視社会を構築していますが、その体制は人間以外の動物にまで及んでいるのかもしれません。
3: ディープラーニングで熊を識別
野生動物の生活や行動パターンを観察するためには、個体の識別が欠かせないのはこれまで説明したとおり。しかし斑点や縞のような模様がない動物では、人間の目視での識別に限界があります。そんな動物の個体識別のために、カナダのビクトリア大学は熊専用の顔認証技術「BearID」を開発。熊の画像数千枚を使って深層学習を行うことで、84%の精度でクマの個体識別ができるようになったそうです。熊は、成長したり季節が変わったりすると顔が変化しますが、この顔認証技術はそんな変化にも対応できるように進化していく計画です。
このように、人間の目を頼りに行われてきた動物の個体識別の世界にも顔認証技術が使われ始めています。監視社会の拡大は気になりますが、このテクノロジーが動物の保全活動などの役に立つといいですよね。