「国立競技場は、公募により売却し、来年秋以降、民間企業による運営を目指しているのですが、売却先探しは難航しそうです」(スポーツ庁関係者)
日本選手団が金メダル27個を含む、史上最多となる計58個のメダルを獲得した東京オリンピック。賛否両論が沸き起こる中、異例づくしの大会となったが、オリンピック閉幕後もいまだ大会関係者が頭を抱えているのが、メイン会場となった「国立競技場」の管理・運営権をめぐる問題だ。
「国立競技場の管理・運営費は年間24億円にも上ると言われていますが、このまま売却先が見つからなければ、当然ながら、その莫大な費用は国の財源から補てんされることになります」(同前)
現時点で国立競技場を運営・管理している独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)によると、「民間事業者において十分な検討を行ってもらったうえで、必要な手続きを経て、公募を行うことを考えており、現時点では公募を行っていません」という。
しかし、JSC関係者は、かねてより水面下では、国立競技場の売却交渉は進められていたことを明かす。
「コロナ禍以前には、東京ガス(FC東京)、メルカリ(鹿島アントラーズ)、楽天(ヴィッセル神戸)など、Jリーグに加盟するクラブの運営母体にJSCの担当者がヒアリングを行ったが、進展はしませんでした。また、電通が仲介役となり日本サッカー協会とキリンホールディングスが共同運営するプランもありました。
このように当初、JSCは2020年秋までに売却先を決定する予定でオリンピック後の運営計画を進めていましたが、新型コロナの感染拡大により、オリンピックそのものが1年延期になり、売却先の選定も宙に浮くかたちとなっているのが現状です」
国立競技場の運営はキャパシティの大きさなど、民間企業にとってデメリットが多すぎるようだ。スタジアム運営に携わるコンサルタントが解説する。
「仮に売却先が決定しても、いまの陸上競技場仕様のままでは収益は見込めません。今後、サッカースタジアムやコンサート会場として使用するなら、トラック部分に客席を増設したり、屋根や音響、空調設備などの改修が必要になります。つまり、国立競技場の運営権を取得した企業は、年間24億円の管理費に加えて、大規模な改修費も捻出しなければならない。コロナ収束の見通しが不透明であり、有観客でのイベント開催は難しい状況が続く中、短期的には厳しいでしょう」
このままでは早くも赤字を垂れ流す「負の遺産」になりかねない……。今後、果たして売却先は見つかるのだろうか。
「本拠地の東京ドームが老朽化し、また自前のホーム球場を持つことがかねてからの経営課題である読売巨人軍が関心を示すのでは…と期待する声も聞こえてきます。実際、1996年のアトランタオリンピックのメインスタジアムは、大規模改修により野球場に様変わりし、MLBのアトランタ・ブレーブスが本拠地として使用していました。とはいえ、読売グループ単独による本拠地移転、新球場の建設は資金的にもハードルが高い。ヤクルトスワローズが本拠地にしている神宮球場がすぐそばにあるなど、クリアしなければならない障害が沢山ありますから、現実的な話かどうか」(前出のコンサルタント)
いずれにせよ、コロナ禍の長期化もあって、運営問題の決着は、しばらく時間がかかることは間違いない。JSCを所管するスポーツ庁内からは「本当に引き受けてくれる企業は見つかるのか?」と不安視する声も上がっているという。
こうした中、前出のスポーツ庁関係者は、まさかのウルトラCプランを口にする。
「『このまま引き取り先が見つからなかったら、最後はジャニーズ事務所に打診しようか』と冗談半分に話す担当者もいますよ。彼らなら大規模施設を使ったエンタメのノウハウがあります。『嵐』が活動休止前に最後の単独ライブを国立競技場で行ったことも記憶に新しいですから。定期的にアイドルやアーティストたちにライブや運動会などをやってもらい、そうしたイベントの様子をネットで有料配信すれば、ジャニーズ事務所にとっても新たな収益源になるはず(笑)」
スポーツの聖地・国立競技場の行く末はいかに……。
取材・文:大崎量平