Vol.108-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonの自律走行ロボット「Astro」開発に至るまでの経緯を推察。
Amazonの「Astro」は、同社内で開発されたオリジナルロボットだ。Amazonには「Lab126」というセクションがあり、常にさまざまなハードウェアの開発が進められている。すぐに発売されるものもあるが、コンセプトなどを検証するためのものも多いようだ。そのため、内情は秘密の部分が多い。
そんな技術開発をくぐり抜けてきたものが、世の中に製品として出てくる。電子書籍リーダーの「Kindle」やスマートスピーカーの「Echo」も、Lab126で開発されたものだ。
また、Amazonには配送設備内で使うロボットを開発する「Amazon Robotics」という部門があり、自律走行するロボットの開発では世界最先端の知見を持っている。そうした部分でのノウハウをLab126に持ち込み、家庭内で使うロボットへと落とし込んだのがAstroである。
ただ、Amazonの消費者向けハード事業の責任者であるデイブ・リンプ氏は、「なぜAstroを開発することになったのか」という筆者の問いに、こう答えている。
「Astroのようなロボットを消費者のニーズに合う価格で販売できる目処がついてきたから、開発を本格的に進めることにした」と。
これは具体的にはどういうことなのか? 実際、筆者もAmazonの配送設備内で動くロボットを見たことがある。非常に素早く、正確に動いていた。人は判断に集中し、モノを運ぶのはロボットに任せる方向性だった、といっていい。
それをするには高度なAIを処理できるシステムや、周囲の状況を把握する技術が必要になる。産業用なら高くても元が取れるが、家庭用ではコストダウンが必須になる。
一方で、ハイエンド・スマートフォンの差別化のために技術開発が進み、自動運転車のためにセンサーなどの高品質化・低価格化が進行すると、以前なら産業用でないと使えなかったような技術を、より低コストに使えるようにもなっていく。
実際、Astroの使うプロセッサーはQualcomm製のハイエンドプロセッサーで、2つ搭載して処理を賄っているという。Qualcommとはロボット向けのAI開発でも協力体制にある。LiDARは自動車に使われるものを応用した。ほかの産業での変化をうまく捉え、自社が持っている技術と組み合わせてできたのがAstroなのだ。
ただ、製品化まではまだだいぶ時間がかかる。
Astroは、今後アメリカでベータテスト的な販売を経て市販される。日本での販売はまだ決まっていない。テスト期間は長くなる可能性も指摘されている。家の中のレイアウトは千差万別であり、多くの家で問題なく動くかどうか、開発を継続したいからだ。日本での販売について言及がないのも、アメリカと日本では住環境が異なるからである可能性が高い。
実際、ルンバのような掃除用ロボットも、日本の家屋に対応したものが出てくるにはちょっと時間がかかった。だから、動作速度が速くてより技術難易度の高いAstroも、ちょっと「経験値を貯める」時間が必要だろう。
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