2022年8月期は、営業利益70億円のV字回復予想を掲げるサイゼリヤ(撮影:尾形文繁)
2期連続の営業赤字から、本当に脱することはできるのか――。
ファミレス大手のサイゼリヤは10月13日、2021年8月期決算を発表した。売上高は1265億円(前期比0.3%減)、営業損益は22.6億円の赤字(前期は38.1億円の赤字)となった。
コロナ影響が薄れた中国の上海や広州などで好調が続き、アジア事業だけで44.2億円(前期比2.5倍)の営業利益を稼ぎ出した。一方、国内事業は営業時間短縮要請の煽りを受け、営業損益は72.1億円の大赤字に(前期は56.2億円の赤字)。健闘した海外の利益を国内の大苦戦が食いつぶした格好だ。
時間短縮営業に伴う協力金が営業外収益に48.2億円ほど計上されたこともあり、経常利益以下は黒字に転換。当期純利益も17.6億円の黒字(前期は34.5億円の赤字)で着地した。
新年度は営業黒字予想
そんな中、注目を集めたのが決算と同時に発表された新年度に当たる2022年8月期の会社予想だ。
2022年8月期の見通しについて熱弁をふるうサイゼリヤの堀埜一成社長(記者撮影)
売上高は1500億円、営業利益は70億円と3期ぶりの営業黒字復帰をもくろむ。会社側のV字回復見通しを市場も好感し、発表の翌14日の株価の終値は2949円と、年初来高値を更新した。
そもそもこの会社予想は、深夜営業を原則廃止する前提で想定している。サイゼリヤは、コロナ後も繁盛店などを除き22時以降の深夜営業をやめる方針だ。深夜営業を止めるとすると、コロナ前の約85%の営業時間で今回の予想数字を達成しなくてはならない。カギを握るのは店内以外での売り上げ増加と、徹底したコスト管理だ。
売り上げにおいては、引き続きテイクアウトやデリバリーに力を入れる。デリバリー対応店舗は足元で、国内店舗数の2割弱にあたる200店舗ほどにまで拡大した。
ほかにも、サイゼリヤのメニューを自宅用に販売する取り組みも進める。売れ筋の「辛味チキン」の冷凍食品を筆頭に、さまざまな商品を店頭などで展開しており、サイゼリヤの代名詞ともいえる「ミラノ風ドリア」の冷食も、完成間近だという。
あらゆるコスト削減を実行
コストマネジメントも一層の強化を図る。過去の決算会見でも堀埜一成社長は再三、コストカットの取り組みを強調していた。1つが廃棄ロス削減の徹底だ。食材の発注精度の向上はもちろん、時短営業の影響を受けた冬場には一部店舗で生ビールから缶ビールに切り替えるなどの対応にも踏み切った。
水道光熱費についても徹底的にメスを入れた。特にガス代については「下げすぎて家庭用の単価にカウントされた」(堀埜社長・1月中旬の第1四半期決算の会見時)ほどだという。メーカー出身の社員を中心に、エネルギー効率が高い新型の厨房機器も開発し、自社だけでなく他の飲食店などへの外販も行う考えだ。
深夜営業を止めることでのコストメリットもある。従業員が終電を逃さずに公共交通機関を使えるようになることで、従業員のタクシー代や駐車場代といった費用を抑えることができる。「(東京の)お台場などは1カ月で6万円ほど駐車場代がかかる。(看板商品である)ミラノ風ドリア200個分にも及ぶ金額だ」(堀埜社長)。
こうした取り組みにより、損益分岐点をさらに引き下げていく。足元ではパスタやピザなどにも使われている小麦の価格高騰や、食材輸入に関わる原油高もリスクとなっているが、さまざまなコスト圧縮で乗り切る構えだ。なお、値上げについては、昨年価格改定に踏み切ったこともあり、現時点では消極的だ。
秋田や鳥取で初出店へ
単なるコストカットだけでなく、「次の一手」も着々と打つ。従来、現金決済のみを貫いていたサイゼリヤだが、コロナ禍での非接触需要高まりなどを受け2021年の春先にはキャッシュレス決済の全店対応にも踏み切った。
「出店の選択肢」も増やす。今年4月には従来店の約4割の大きさである小型店舗を東京都・板橋区にオープンし、10月には練馬区で2号店を出店した。
こうした40坪ほどの小型店モデルを構築し、コンビニ跡などこれまで出せなかったエリアの開拓を進める。1人や少人数でも利用しやすい新業態「ミラノ食堂」の実験も行っており、利益モデルが確立した際には多店舗展開にも踏み切る構えだ。
サイゼリヤが実験を進めている新業態「ミラノ食堂」(記者撮影)
コロナによるテナント撤退などが相次いだことにより、従来出店難易度が高かった大型のショッピングセンターにも出せるようになった。未出店エリアは東北・山陰・四国・九州に現状14県あるが、2021年12月には秋田、2022年1月には鳥取への出店を行う予定だ。
さまざまな施策を打ち出すサイゼリヤだが、国内の経営環境は依然として厳しい。今期のスタートとなる2021年9月の既存店売上高も、コロナ前の2019年9月比で6割程度の水準にとどまる。年末にかけコロナが再拡大すれば、消費者の外食控えはさらに長期化する可能性もある。打ち出したコスト削減策を着実に実行できるかが、新年度のサイゼリヤを左右しそうだ。