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 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の綱川智会長(株式会社東芝取締役会長 代表執行役社長 CEO)は12月17日、会見を行い、2021年を総括。ウィズコロナ、ポストコロナを見据えた新しい社会や生活が定着した1年になった。新しい働き方や新しい暮らしに、デジタル技術が大いに役立っていることが示されたとした。

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の綱川智会長(株式会社東芝取締役会長 代表執行役社長 CEO)

 「先行きの不透明感が少しずつ和らぐ兆しはあるものの、まだ感染防止の取り組みが必要である。また、経済成長と課題解決を両立する豊かな社会の実現に向けて、社会のデジタルトランスフォーメーションを加速させていく必要がある。JEITAは、電子部品やデバイス、電子機器やITソリューションを中核に、ほかの製造業やサービス業などあらゆる業種の企業が集うSociety 5.0の実現を支える業界団体として、社会のDXの一翼を担う責務を果たしていく」との姿勢を強調した。

 また、「電子情報産業の世界生産見通し2021」を発表。2021年の世界生産額は、前年比11%増の3兆3602億ドルと過去最高を更新したほか、2022年も脱炭素化に向けたデジタル活用の追い風によって、前年比5%増の3兆5366億円と、プラス成長が続く見通しを明らかにした。

 「2021年は、ITリモートなどのデジタル化の進展や、巣ごもり需要により、テレビやスマートフォン、サーバーなどが高成長となった。また、テレビの大画面化やデータセンターの増強などを背景とした電子部品デバイスの伸長、データ活用の高度化などによるソリューションサービスの増加が寄与している」としたほか、「2022年は、感染再拡大への不透明感は残るものの、各国での感染拡大防止やカーボンニュートラルの観点から、ITリモートや5Gなどのデジタルインフラ整備などへの投資が進み、ソリューションサービスや通信機器の需要拡大が期待できる」と予測した。

 なお、「ITリモート」とは同協会が定義する用語で、「ネットワークを通じて離れた場所にいる人と人、またはモノをつなげてコミュニケーションを実現するための技術」とされている。

世界規模の「巣ごもり」でデジタル機器が好調

 2022年には、ソリューションサービスや通信機器、電子部品、ディスプレイデバイス、半導体が過去最高を更新する見通しだという。

 半導体の世界生産見通しが、2021年に前年比26%増の5530億ドル、2022年には9%増の6015億ドルと過去最高を記録することについて言及。「2021年はデジタル変革や産業構造の変革、行動様式の変化をもとに半導体の需要が加速している。2022年は、ITリモートの需要は一段落するが、自動車の電動化が進展したり、通信容量の増大化が見込まれたりしており、引き続き伸長すると見ている。半導体不足については、東南アジア地域での工場停止の影響があり、依然として、欠品の影響による混乱は残っている。だが、工場の再稼働、増産の動きも見られており、モノ不足は解消していく方向になると考えている」とし、「国の経済対策に半導体分野への投資が盛り込まれている。各社は個々の技術を生かしながら、全体のバランスを取ることも大切である」と述べた。

 2021年の日系企業の生産額は、海外生産分を含むと、前年比8%増の37兆3194億円。また、海外生産分を除いた国内生産額は11%増の10兆9322億円となり、2017年以来、4年ぶりにプラスに転じた。「日本国内のみならず、世界規模での巣ごもり需要を中心に、テレビやプリンタ、医用電子機器などを中心に好調に推移し、電子部品や半導体、無線通信装置もデジタル化の進展による輸出増の影響を受けた」と分析した。

 2022年の日系企業の世界生産額は前年比2%増の38兆152億円。国内生産額は前年比2%増の11兆1614億円と予測した。「脱炭素化に向けた取り組みとともに、各種データ連携や自動化など、新たな価値を生み出す源泉として、デジタル変革に伴う需要拡大が見込まれる」とした。

カーボンニュートラル実現に向け期待を集めるデジタル技術

 さらに、注目分野に関する動向調査として、「グリーン×デジタル」に焦点をあてた2030年までの世界需要額見通しを発表した。

 JEITAでは、CO2削減への貢献が期待できるデジタル5分野として、「EV・自動運転」「ITリモート」「エネルギーマネジメント」「スマート農林業」「社会インフラモニタリング」を挙げ、これらのデジタル5分野が脱炭素化に貢献するインパクトは、2030年のCO2削減ポテンシャルで、55億9000万トンと試算した。

 綱川会長は、「カーボンニュートラルに向けた工程は、IEA(International Energy Agency)のロードマップである『Net Zero by 2050』がベースになる。これに基づくと、2030年のCO2排出量目標の211億5000万トンにするためには、各国政府が発表しているシナリオよりも、全世界でさらに151億2000万トンを引き下げる必要がある。創電部門においては66億1000万トン、創電部門以外では85億1000万トンが削減目標であるが、創電部門以外の領域において、デジタルを通じた社会変革やエネルギーの有効活用、最適化などでの貢献ができると考えている。デジタル5分野が、脱炭素化に貢献できるインパクトは、2030年においては、55億9000万トンと見通しており、これは創電部門以外の削減目標の66%にあたる。デジタルの貢献度が大きいことが分かる」とした。

 また、「グリーン×デジタル」のターゲット市場は、2030年の世界需要額では335兆円に達し、「グリーン×デジタル」を社会に実装していくためには、年平均14.4%増のペースで投資を継続する必要があると提言した。

 綱川会長は、「次のデジタル化の地殻変動となるのは、カーボンニュートラルであると認識している。そして、カーボンニュートラル実現の鍵は、デジタルを組み合わせることにある。社会全体で脱炭素化に向けた行動をしていくためには、グリーン×デジタルの社会実装が極めて重要である」と指摘。

 「日本政府による2050年のカーボンニュートラル宣言を実現するために、IT・エレクトロニクス産業は、デジタルの力をフルに活用して課題解決に貢献し、地球環境に配慮した持続可能な社会を構築するために、力を尽くす必要がある。デジタル技術による社会変革によって、脱炭素化を推し進めることが求められるなかで、IT・エレクトロニクス業界はこの期待と責務に応えるべく、取り組みを進めていかなくてはならない」と述べ、「IT・エレクトロニクス産業にとって、カーボンニュートラルは大きなチャンスになる」とした。

業界を超えたカーボンニュートラルへの取り組み

 また、「世界中で打ち出されているカーボンニュートラルは、グローバル市場での選別や金融資本市場からの格づけを意味するものであり、それらに対応できなければ、事業継続ができなくなるといっても過言ではない。日本の産業界がプレゼンスを発揮していくためには、デジタルを使ってエネルギーの全体最適を図り、産業の枠を超えた取り組みを、海外へ示していくことが重要である。個々の企業で取り組むのではなく、全体構想を見据えて進めていく発想が必要である。JEITAはその橋渡しの役割を担うことができる」とも語った。

 JEITAでは、2021年10月に、「Green×Digitalコンソーシアム」を設立。IT・エレクトロニクス企業のほか、化学などの素材産業をはじめ、物流、金融、サービスなど、85社が参加している。

 「カーボンを軸とした世界的な潮流のなかで、世界市場で戦う幅広い企業が集い、国際的なルール形成をリードしていくことが、Green×Digitalコンソーシアムの目的である。サプライチェーン上のCO2の見える化に向けて、各社のデータを揃えるフォーマットの検討などを進め、デジタルを使ったエネルギーの最適制御策を各業界に広めるほか、企業の再エネ調達手法の選択肢を増やすこと、再エネ利用を合理的に証明する仕組みづくりなどに取り組んでいる」と述べた。

デジタル田園都市国家構想の実現へ

 一方、綱川会長は、JEITAの活動状況についても触れた。

 「2021年は、リモート技術が積極的に活用されるとともに、感染防止に配慮しつつ、リモートでは代替できない対面を組み合わせた試みも動き出した。JEITAも、リアルとリモートをバランスよく融合させた取り組みを推進している」とし、2021年10月に開催したCEATECが完全オンライン開催となった一方で、11月に開催したInter BEEは、幕張メッセ会場とオンライン会場を組み合わせて開催したことを報告。「Inter BEEは、2年ぶりの幕張メッセ開催となり、『実物を見ながら、担当者と直接話ができる価値を再認識した』という声が多かった」と振り返った。

 また、JEITA自身の働き方改革についても触れ、「事務局の新たな働き方は、すっかり定着した。オフィスをフリーアドレス型に改装し、活動そのものをリモート主体に切り替え、数千回の会議や講演会をオンラインで開催し、職員のテレワーク推進やペーパーレス化の促進など、デジタル技術を活用した業務が浸透している。デジタル技術を活用することで場所にとらわれずに効率よく働くことが可能になっている」と語った。

 「政府のデジタル田園都市国家構想にも関連するが、デジタル技術によって、日本の働き方はまだまだ変えられる余地がある。『隗より始めよ』というように、デジタル化の推進を担う業界として、われわれ自身が新しい働き方を率先して実践し、トライ&エラーを重ねていくことが大切である。リアルだけでもなく、リモートだけでもない、目的に合わせた最善のバランスを目指した改善を今後も続けていく」などと述べた。

 さらに、「Society 5.0 実現に向けたルール策定や標準化など、業種や業界の枠を超えた課題解決にも積極的に向き合っている」とし、JEITAが設立した5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアムでは、IT・エレクトロニクス業界や機械メーカーだけでなく、建設業や小売業、自治体など、131社/団体が参画。5Gのユースケースの社会浸透やビジネス領域の拡大、研究開発の促進など、業界や業種を超えた共創を推進していることを紹介した。

 「カーボンニュートラルを契機に、デジタル化の壁が高いとされてきた産業分野もデジタル化が不可欠になり、工場などにある各機器や設備からの大容量のエネルギーデータを、リアルタイムに把握し、全体を制御する必要がある。そのためには、超高速、超低遅延、同時多接続などの特性を持つローカル5Gの整備が欠かせない」とし、「ローカル5Gの導入を後押しする5G導入促進税制が、2022年度与党税制改正大綱に盛り込まれたことには感謝したい。JEITAは今後も、幅広く事業環境整備に取り組んでいく」とした。

 また、地方活性化に向けて、JEITAでは、2014年に「IT・エレクトロニクス×地域活性化百選」としてデジタルを活用した全国各地の先進導入事例をまとめたことをきっかけに、地方自治体による技術活用支援事業に参画したり、CEATEC において、全国の自治体首長が登壇するシンポジウムやコンファレンスを開催。地域におけるデジタルの社会実装を後押しする取り組みを実施してきたことを紹介。「地方活性化は、国内における事業成長の鍵になる。2022年に開催予定のCEATECでは、地方活性化の取り組みをさらに拡充し、デジタル田園都市国家構想の実現に向けたショーケースにしたいというアイデアもある。Society 5.0につながる取り組みとして、今後も地域におけるデジタルの社会実装を後押ししていく」と述べた。