自民党総裁選は17日、告示を迎えた。新型コロナウイルスの感染者は減少傾向にあるものの、依然として医療体制は厳しい状況だが、テレビは連日、総裁候補の動向をトップ級のニュースとして伝える。政権運営に行き詰まり、つい2週間前に退陣を表明した菅義偉首相は露出も減り、現職なのにまるで過去の宰相のようである。自民党が生まれ変わったかのごとくの雰囲気を国民が抱きがちな現状に、元財務相の藤井裕久さんは警鐘を鳴らす。御年89歳の老政治家が口にする、その危惧とは。
まだセミの声が響く9月の昼下がり、東京都内の藤井さんの個人事務所を訪れた。平日は毎日、来客対応などをこなし、夜は自宅での晩酌を欠かさないという日々だそうで、至ってお元気な様子だ。2012年の衆院選には出馬せず、旧民主党最高顧問を最後に政界を引退した藤井さん。「私はもう『元政治家』ですから」と自らを評するが、今の政治状況についてどう思っているのだろうか。「社会で一番怖いのは空気なんです。国民は空気によって動くんです。自民党がまた盛り返しているというご意見もあろうかと思いますが、したたかな政党ですね」
菅首相が退陣表明する前に実施した毎日新聞の世論調査(8月28日)では、内閣支持率は過去最低の26%。「危険水域」とされる20%台の半ばまで落ち込んだ。コロナ対応への国民の不満が募り、「菅離れ」が著しい状況での次期衆院選は、自民党が大苦戦すると、識者はこぞって予想していたのだ。
しかし、首相が総裁選不出馬を明らかにした後、状況は一変した。コロナの感染状況よりも、選挙に名乗りを上げる次期首相候補の動向が報道の中心となり、そのため衆院選では自民党は議席を減らすものの、「負け幅」は小さくなるだろうというのが、今の永田町かいわいの一致した見方なのだ。「コロナ対応で政権与党に大きな前進がありましたか? 何も変わっていないのに、さも自民党が良くなったかのような雰囲気が出てきた。これが空気なんです」
…