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 菅の不出馬表明前に名乗りをあげた岸田は、政策発表でもネットの情報発信でも入念な準備を積み上げてきた。一方、河野はボスである麻生と会談を重ねて出馬会見に臨んだが、国民から見ればなかなか出馬させてもらえなかったようにも映る。

 今回の総裁選は自民党にとって、いわば自社制作の大河ドラマのようなものだ。菅の不出馬表明という衝撃的なオープニングから始まり、腕に自信のある者が名乗りを上げ、戦を繰り広げる。ラストは誰が最高権力者となるのか……

 野党は完全に蚊帳の外である。

 この大河ドラマはかなり長い。菅が不出馬を宣言した3日に事実上始まり、投票までは27日間もある。普段は他党を支持する、あるいは政治に関心がなく選挙に行かないような人々でも、次期総理大臣が決まるドラマとあっては注目せざるを得ない。総理大臣を決める選挙は、その後すぐに行われる総選挙に向けて党をアピールする、またとないチャンスでもある。

 そこで、このドラマに大衆の目を引き付けて離さないよう、いくつもの見せ場を作らなければならない。そこでは、どんな役者がいつ登場するかが大きな鍵の一つとなる。

 しかし、河野は告示から一週間も前に登場。

 岸田は早々に出馬宣言をしたが、キャラの地味さは隠せない。

 高市は河野に先立って会見を行い、勇猛果敢さを喧伝したが、総裁選の投票日まで20日も残して主要な役者が舞台に上がってしまったのだ。

 これではドラマが間延びして注目されなくなってしまうのでは……という危機感が党内に生じ始めていた。ドラマをより盛り上げるためには、役者が足りない。

 そこに現れたのが、野田聖子だ。

「タカ女(じょ)vsハト女(じょ)」

 野田はこれまで3回の総裁選で立候補を模索したが、20人の推薦人という壁は高く、断念に追い込まれてきた。自民党という男社会で、ジェンダーという「ガラスの天井」に阻まれた側面もある。

 それが今回、告示日前日まで推薦人集めに駆け回り、なりふり構わず頭を下げた。単に推薦人が集まらなかっただけなのか、劇的な演出を狙ったのかは今後明らかにするとして、間延びしかけたドラマを再度盛り上げたと、支持するか否かは別にして党内での評判は上々だ。

 野田が今回の推薦人として照準を合わせたのは、引退間近と思われる老議員たちだった。名前が明らかになる推薦人に名を連ねることは、政治の世界では将来の軋轢を生みかねない。その点引退が近いとなれば誰を推薦しようとあとくされがない。二階派、竹下派の老議員が名を連ねた。

 本来なら岸田を応援するはずの古賀誠・前宏池会会長を味方につけたとも言われている。

 これまでジジ転がしと言われてきた野田が、ここに来て見事に伏線を回収した。

 党員党友票を競う一回目の投票では、おそらく高市と野田は票を食い合う。3位争いになる公算大だが、日本初の女性総理をかけた戦いは、世界からも関心を集める。

 しかも政策を見ると、高市がタカ派と称されるのに対して、野田はハト派。党内では「タカ女(じょ)vsハト女(じょ)」の女の争いだと見る向きもある。これで政策面の議論も盛り上がるだろう。