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NHKの大河ドラマ『青天を衝(つ)け』のVFX映像の制作過程や裏話、現場の様子などをご紹介するシリーズ企画。7回目となる今回は「甲板上のシーン」について解説したいと思います。


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TEXT_『青天を衝け』VFXチーム(NHK

EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

[青天を衝け] VFX編 | 激動の幕末をダイナミックに描く舞台裏 | 青天を衝けの世界 | NHK

© NHK

ミッション<7>「実写とCGを組み合わせ甲板上のシーンを完成させる!」

『青天を衝け』では船の甲板上でのシーンが幾度も登場します。ミシシッピ号、順道丸、アルフェー号、長鯨丸、などなど……。本来ならば実際の船の上で芝居を撮影したいのですが、コロナ禍ということもあり、船の上での撮影は行なっていません。では、これら甲板上でのシーンはどのようにつくったのか? 今回はこの甲板上のシーンについてご紹介します。


▲甲板上のシーン例。『青天を衝け』では何度も登場する

放送第2・3回で登場したペリーの黒船来航のシーンではミシシッピ号の甲板上のカットが想定されていました。当初、日本の数ヵ所で稼働、および展示してある古い船のいずれかでロケを行ない、その甲板上でキャストの芝居を撮る計画でした。しかし、コロナ禍で感染者が増えていた時期でもあり、「VFXでなんとかならないだろうか?」という演出からの相談がVFXチームに舞い込んできました。しかし、あらかじめCGで制作していた黒船などはアップになることを想定しておらず、細部までつくり込んでいません。そこで、キャストをスタジオグリーンバックで撮影し、実写で撮影した船を背景として合成することにしました。



▲ミシシッピ号航行シーンの画コンテ


▲ミシシッピ号航行シーンのプリビズ

フルCGカットについては次回ご紹介するとして、今回はこの甲板上のカットについて説明します。

背景として合成するため、船の実写撮影が必要ですが、そこで目を付けたのが長崎市にある復元された「観光丸」(※)です。幕末当時の観光丸は蒸気の力と帆に受ける風の力で航行しますが、復元された観光丸はエンジンで動きます。まったく同じ形の船ではありませんがミシシッピ号と同じ「外輪」があるため、今回は観光丸をミシシッピ号として見せることにしました。


※……1855年にオランダから江戸幕府に贈呈された木造蒸気船



▲長崎市にある観光丸

スタジオグリーンバックで撮影するキャストの背景として合成するため、カメラをFIX(固定)にして素材を撮影する必要があります。また、被写界深度を深くしておきたいので、機材としてはVFXチーム所有のマイクロフォーサーズ(※)のPanasonic GH5と小型三脚を使用しました。それに加え、カラーチャート、グレーボール、測距計など最小限の機材を持ち込み、VFX担当者、プロデューサー、制作の計3名という最小単位のチームで長崎の観光丸で背景素材撮影を行ないました。『青天を衝け』は4KHDR放送(HLG方式)もあるため、GH5での収録もHLG動画で行なっています。


※……レンズ交換式デジタルカメラにおける共通規格のひとつであり、小型レンズに対応したセンサー規格

可能な限り船の周りの現代物を避けて空と海だけにしたいので、長崎湾から少し沖に向かい、航行中や停泊中の素材を撮影しました。何度も観光丸で撮影することはできないので、画コンテにあるアングル以外にも、良さそうなアングルをねらっています。スタッフをスタンドインさせてのリファレンス、人がいないカラ画、カラーチャート、グレーボールを撮影しました。また、レンズの焦点距離やカメラの高さも記録しておきます。これらは後日、スタジオでグリーンバック撮影をする場合に必要な情報です。


▲VFXチームが撮影した素材

背景素材撮影後、スタジオでグリーンバック撮影を行ないました。キャストの芝居はSONY VENICEで撮影するため、Panasonic GH5で撮影した焦点距離から画角を計算し、VENICEの画角もそれに合わせています。また、カメラの高さや向き、照明の向きなども背景にできるだけ合わせています。



▲スタジオグリーンバック撮影

スタジオでは簡易のクロマキー装置を使い、仮合成しながら見え方を確認していきます。背景素材は自然光での撮影のため、本来ならば、合成馴染みを良くするためにスタジオではなく外の自然光でグリーンバック撮影をしたいのですが、スケジュールの関係などでなかなか希望通りにはいきません……。



▲スタジオ収録風景。仮合成しながら見え方を確認している

実写どうしの合成の場合、気をつけることはたくさんありますが、「パースのちがい」が一番不自然に見えるため、カメラの高さや画角などは可能な限り背景素材に合わせる必要があります。また、足元の接地部分が映ると合成馴染み処理の難易度が格段に上がるため、今回は足元を見せないアングルにしました。下記のブレークダウン動画からわかるように、甲板上での芝居のシーンは全てVFXカットです。


▲甲板シーンのVFXブレークダウン

復元された「観光丸」は現代物やそのままだと使えない装飾品などがあるためマット作業で消し込んでいます。



▲撮影プレート



▲現代物などを消した状態

また、帆や後部マストに掲揚する国旗などを合成するため、マスクを描いて煙突より後ろを分離しています。



▲煙突より後ろを分離

帆や旗、ロープなどはHoudiniのVellumを使ってクロスシミュレーションを行なっています。Mayaでモデリングした形状をAlembicでHoudiniに渡し、リメッシュしたあとシミュレーション。その後、AlembicキャッシュとしてMayaに戻しています。Houdiniのノードベースの利点を生かし、別の形の帆のシミュレーションも容易にできます。



▲Houdiniによるクロスシミュレーション


▲帆のシミュレーション

このように甲板シーンでは観光丸の実写映像、帆や旗はCG、そしてキャストはグリーンバック撮影……。これらを合わせることでつくられました。今後もNHKの大河ドラマ『青天を衝け』でのVFX技術をたくさん紹介していきますので、ぜひ放送をご覧ください。(『青天を衝け』VFXチーム)

※現在発売中のCGWORLD vol.277(2021年9月号)では、連載「VFXアナトミー」にて大河ドラマ『青天を衝け』の第22回から第24回までのパリ編のVFXを解説しています。こちらもぜひご覧ください。

info

  • 大河ドラマ『青天を衝け』


    【放送情報】

    NHK 総合 毎週(日)夜 8:00~/[再放送]毎週(土)午後 1:05~

    NHK BSプレミアム 毎週(日)午後 6:00~

    NHK BS4K 毎週(日)午後 6:00~

    公式HP www.nhk.or.jp/seiten

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