好きなバント挙げろって言われて真っ先に出てくるのはザ・バンドかもしれない。最初はもちろん清志郎の影響。初めて聞いたのはもちろんアイ・シャル・ビー・リリースド収録のビックピンク。最初から良さの半分もわかったかと言えばそうではないでしょう。だけどティアーズオブエイジのイントロが流れた瞬間、一生付き合うものだとは瞬時に察した。一瞬にして時が止まる。「タイムレス」とか「エヴァーグリーン」って言葉はこういう作品のためにあるのでしょう。時は68年。時代はサイケデリック全盛期。ロックの幻想の真っ只中…オルタモントの悲劇だとか、泥沼のベトナム戦争だとかは全て脇にして、音楽の正解を易々と鳴らしてしまった人達。クラプトンは行き詰まりのクリームを捨ててアメリカと向き合う。多くのミュージシャンが自らのルーツに向き合うきっかけとなった名盤。
もともとディランがバイク事故をきっかけに隠遁生活をしていた頃を供にしていたザ・バンド。母体はロジャーホーキンスというロカビリーマナーなミュージシャンのバックをしていたホークスで、この頃の音源も今は中古で安く手に入りますね。ロビーロバートソンのギターの尖り具合にびっくりした。マーシャルのボリュームを最小に絞って…ってな後年のスタイルからは考えられない(笑)ちなみにこのロジャーホーキンス、なぜだかアトランティック社長のジェリーウェクスラー(アリサフランクリン等の初期のプロデューサー)のテコ入れを受けて、70年代にデュアンオールマンやダックダンも参加したスワンプ盤を出してたり。これも地味ながらスタジオ時代のデュアンオールマンが冴え渡る好盤。
個人的にはザ・バンドの音楽性には凄く世話になっていて…ムーンドックマチネーってカヴァーアルバムから掘り下げもしたし、カフーツでのニューオーリンズへのアプローチはリトルフィートなんかと並んでアラントゥーサンにのめり込む一因になった。アラントゥーサンについてはいずれ書きたいなぁ。ムーンドックマチネーについては、エルヴィスコステロの「コジャックバラエティ」と並んで僕の教科書。
リヴォンヘルムが亡くなった事実は、70年代の一番「良識」に溢れていた、良質な音楽のあった時代の一つの終焉に思う。解散ライブのドキュメントである「ラストワルツ」はディランにニールヤング、ヴァンモリスンにと数え切れない偉人が花を添えてますが…映画の枠の都合で漏れかけたマディウォーターズをねじ込んだのはリヴォンだったと言う。そこに見えるのはまず敬意。こうしてザ・バンドもまた広大なアメリカ音楽の歴史に溶け込んでいく…革新ではなく、それは「更新」だったし、ロックがアイデンティティを確立した後でここに立ち返ること…それはサージェントペパーズに並ぶ「革新」とも言えないか?
全てを終えた後のウッドストックのベアズウェルスタジオ。この周辺に多くのミュージシャンが集まり、良質な音楽を育んだ時代。ポールバターフィールズベターデイズにボビーチャールズ等…その引力の中心にいたザ・バンド。70年代をプログレの時代、グラムの時代、ハードロックの時代と煌びやかにくくる脇で鳴っていた、強靭な骨をもった音楽。この周辺の再発なんかにはかなり日本人が絡んでいたり…嬉しい限りですね。そういえばこの辺をウッドストック系なんて言ってオザケンがプッシュしていたそうな。
歴史は敬意で繋がれていく。