テーブルナイフは、ステーキを切ったり魚を切り分けたり、安全でありつつも切れ味が良いことが求められます。一般的なテーブルナイフには、鉄にクロムなどを含有した合金「ステンレス鋼」が使われていますが、最近、木製のステーキナイフが米国で開発されました。しかも、ステンレス鋼より23倍も硬いというのです。
木材の欠点を補う新プロセスとは?
木材は、自然にある木を原料としており、リサイクル率が高いことから、サステナブルな素材のひとつとして捉えられています。しかし、木材は軽量で耐久性や強度がある一方、成形しにくいという難点があります。金属やコンクリートなどは液状にして型に流し込んで冷やし固めれば、さまざまな形のモノを形作ることができますが、木材ではそれができません。
そんな木材の問題を解決するため、米国・メリーランド大学で材料工学を専門とする研究チームが、新しい木材の開発に挑みました。このチームが取り入れたのは「ウォーター・ショック・プロセス」という工程。木材にはリグニンと呼ばれる成分が含まれており、このリグニンは木材の繊維を強く結びつける、接着剤のような役割を果たしています。しかし、リグニンは木材を硬化させるため、ウォーター・ショック・プロセスでは、最初にこのリグニンを木材から除去。さらに圧縮して木材の繊維や気孔をつぶして、水分をしっかり蒸発させてから、再び水分を吸収させて膨潤させます。こうすることで自由に成形できるような素材ができあがったと同時に、このプロセスを経た木材の硬度は、当初の23倍にも増したそうです。
また、硬さとは別の強度については、できあがった素材は従来の木材の6倍も強くなり、アルミニウム合金などの軽量素材に匹敵するとか。さらに、従来のテーブルナイフの3倍も切れ味が鋭いと言われています。電子顕微鏡で内部を確認すると、木材に多くある空洞がなくなっていたことから、「ウォーター・ショック・プロセス」の工程で天然の木材の欠陥をカバーし、強度を上げることに成功したと考えられます。
木材は水に濡れて腐りやすいという欠点もありますが、オイルでコーティングすることで、洗って繰り返し使えるよう耐久性をアップ。使い捨てカトラリーに替わるものとして、この木製素材が注目されるのではないかと、この研究チームは期待を寄せています。
ナイフなど従来の合金製のカトラリーは、製造時に高温にする工程があり大きなエネルギーが必要となります。しかし今回の木製素材ではそのような高エネルギーは不要という点でも、サステナブルな素材として注目されることになりそうです。
【出典】Chen, B., et al. (2021). “Hardened wood as a renewable alternative to steel and plastic”. Matter. https://doi.org/10.1016/j.matt.2021.09.020