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かまどで炊いたごはんは美味しい。それは、“薪による高温の炎で釜を包み込み、釜の中で米をかき混ぜ、踊らせているから炊きムラがなく、粒立ったごはんが炊ける”から。これが日本の炊飯器づくりの常識。だからメーカー各社はこれまでかまどごはんの再現に情熱を燃やし、釜の中でいかに米を踊らせて美味しいごはんを炊き上げるかに腐心してきました。

 

……しかし。

 

「かまど炊きのごはんは、実は踊っていませんでした」

 

アイリスオーヤマの河阪雅之マネージャーが言い切ったとき、発表会の会場には「なんだってー!!!!」というメディア関係者たちの心の声が響き渡っていたに違いありません。いままでの常識が覆された瞬間でした。

↑「かまどのごはんは踊っていませんでした」と衝撃的なことをサラッと言う家電開発部調理家電課の河阪マネージャー

 

色をつけた米を炊いたら、ほとんど移動していない事実が判明

アイリスオーヤマは2015年から炊飯器事業に参入し、“おいしいごはんは水加減と火加減がポイント”という考えのもと、水加減は米の量に合わせて最適な水量を告知する「量り炊き」、火加減は米の銘柄に合わせて自動で加熱調節する「銘柄炊き」機能を開発し、製品に搭載してきました。

 

さらにごはんを美味しく炊き上げる要素として“釜”に注目し、宮城県の自社工場内の研究所で徹底的に研究してきたとのこと。研究メンバーは精米事業やパックごはん事業に携わり、全員が食味鑑定士の資格を持つ米のスペシャリスト。かまど炊きごはんの専門店に何度も通い、最終的には工場の敷地内にかまどを作ってしまったそうです。そうしてかまど炊きを深堀りしている中で偶然見つけたのが、先述の「かまどごはんは米が踊っていない」という事実。

 

「当初は高火力で激しく対流していると思っていましたが、食紅で色をつけた米を炊いたら、ほとんど移動していませんでした」と、河阪マネージャー。ではなぜ踊らないのか。「一般的な炊飯器は釜底にヒーターがあり、下の方から熱せられ上部との温度差が生じて釜の中で対流が起こります。しかし、かまどは釜全体を炎が包み込むことで、全体が瞬間的に均一の温度になる。そのため、釜の中の水は対流せずに米は踊りません」。釜全体の温度が均一だから、米が踊らなくても炊きムラがなくて美味しいというわけです。

↑アイリスオーヤマが実際にかまどでごはんを炊いてみたら、3色に染めた米が混ざらず、きれいな層になっていた

 

LEDの技術を応用し、釜全体に瞬時に熱を伝える技術を開発

このかまど炊飯の仕組みを炊飯器で再現するために、アイリスオーヤマは部門の壁を越えて製品開発に取り組みました。同社はLED照明器具で大きなシェアを持っており、これに使用されている熱伝導技術のヒートパイプを活用したのです。ヒートパイプとは、真空パイプ内部に閉じ込められた作動液と呼ばれる液体が加熱されることで瞬時に沸騰して気体化し、パイプ内を超高速で移動して均一に熱を伝えていく仕組み。

↑LED照明器具に利用されているヒートパイプ。真空のパイプの中で熱せられた作動液が瞬時に蒸発し、パイプ全体に超高速で熱を伝える

 

新開発の炊飯器では内釜を2層化し、層の間に設けた真空層に作動液を注入。ヒートパイプ同様、釜底を熱することで瞬時に釜全体に熱が行き渡る「瞬熱真空釜」を開発しました。これにより、従来の炊飯釜に比べて熱伝導速度はなんと約100倍になったといいます。

 

なお、気体化した作動液は放熱しながら釜上部に到達すると液体に戻り、釜底中央に戻って再度熱せられると気体になって熱を伝導。液体⇔気体の状態変化を繰り返すことで、熱を伝え続けます。真空層は密閉されているので、作動液が減ることはありません。

↑二重になった釜の内部に作動液を封入

 

↑釜底部を加熱すると作動液が一瞬で蒸発して釜全体に熱を伝導

 

↑内釜のカットモデル。真空層は4mm

 

米を傷つけず素早く熱を伝えることで、粒立ちの良さを実現

「瞬熱真空釜」により、釜全体に素早く熱を伝えることができるようになり、釜内部で対流を起こさなくてもムラなくごはんが炊けるようになりました。米が踊らないから米に傷がつかず、粒立ちとハリ、ツヤが保たれ、見た目から美味しそうに炊きあがるとのことです。

 

「炊飯によって米が水分を含む度合いを過剰水和率というのですが、これが0~30%ならば粒立ちを感じるごはんとなり、50%以上になるとベチャっとした食感になります。『瞬熱真空釜』で炊いたごはんは、釜底から上層まで、どこをとっても粒立ちが良く美味しい。本物のかまどで炊いたような粒立ち、米本来の旨味、のど越しの良さを再現できました」(河阪マネージャー)

↑従来の釜は加熱している底面から徐々に熱が上がっていくが、瞬熱真空釜は釜全体が加熱して、均一に熱が入っていく

 

↑従来の釜(右)は中の米が激しく踊って撹拌されているが、「瞬熱真空釜」(左)は動きが少なく、米が傷まない

 

↑「瞬熱真空釜」で炊いたごはんは、米の形をそのまま残している

 

↑釜の下から上まで過剰水和率が30%以内と低く、粒立ちを感じるしゃっきりしたごはんが炊きあがる

 

この「瞬熱真空釜」を使った「瞬熱真空釜炊飯器」は同社のフラッグシップモデルという位置付けで、量り炊き機能、50銘柄炊き機能、カロリー表示機能と、同社炊飯器の特徴的な機能が全部入りとなります。実売価格は5万5600円(税込)。

↑「瞬熱真空釜IHジャー炊飯器5.5合炊き RC-IF50-B」は8月6日に発売済。本体サイズは幅249×奥行き353×高さ239mm、質量6.1kg

 

↑内釜の「瞬熱真空釜」は二重になっているため約2kgと重め。水と米が入ったらさらに重くなるために取っ手をつけた

 

↑瞬熱真空釜はフラッグシップモデルとなり、これまで同社が開発した機能を搭載している

 

お米マイスターも「瞬熱真空釜」のごはんを絶賛

この日、東京都目黒区で米穀店を営むお米マイスターの西島豊造氏が登壇し、「瞬熱真空釜」で炊いたごはんを実際に食べた感想を語りました。

 

「従来の炊飯器は圧力炊飯方式が一般的で、もちもちした食感が特徴でした。また、お米を踊らせていたので、ギラギラした眩しい艶がありました。甘みがあって美味しいが、粘り気が強くて食べにくい側面もあったのです。瞬熱真空釜のごはんは、お米の形が崩れておらず、やさしい艶があり、ふっくらした見た目。味はしつこさ、くどさのない甘さ。粒感がありながら硬くはなく、噛むごとに甘さがやさしく広がる。のど越しがよく、身体が半分寝ていてもスルッと入っていく。朝ごはんに最適です」

↑一般的な圧力炊飯に対して、「瞬熱真空釜」は見た目、食感、味、のど越し、すべてが優れていると、絶賛する西島氏

 

なお、同社は2011年3月に発生した東日本大震災の復興支援を目的に、2013年に精米事業に参入しました。東北の美味しい米を世界に届けることで復興を後押ししたい、そんな思いからスタートしたそう。米の鮮度を保つために玄米の保管から精米・包装までをすべて15℃以下で行う低温製法米、厳選した一等米の玄米を低温で精米してパック詰めした生鮮米を開発してきました。炊飯器事業も、そんな日本の米をもっと美味しく食べてもらい、日本の米の消費量を拡大して米農家をバックアップしたいとの思いで始めたものです。

 

今回は、コロナ禍の影響により発表会での試食がなかったので、実際にどんな味、食感がするのかを体験できなかったのは残念なところ。西島氏が「これまでにない、言葉で表現できない新しい食感。ぜひ買って食べてみてほしい」と絶賛するので、期待値が相当上がっています。アイリスオーヤマでは、「同社史上もっとも自信のある製品が完成したことで、これまでにない規模のプロモーションを仕掛けていく」とのこと。コロナ禍が落ち着いたら、ぜひ試食したいですね。特に東北産の米で炊いたごはんを早く食べてみたいものです。

 

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