東京オリンピック・パラリンピック開催に関し、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため「待った」をかけようとした専門家有志は、政府・与党からの「圧力」にさらされた。感染症の専門家としての立場を貫こうとする一方、開催に突き進む政府側と乖離(かいり)した提言をとりまとめれば国民の混乱を招きかねないとのジレンマもあった。「政治と科学」の溝は埋まるのか。【原田啓之、金秀蓮】
「圧力」受けても「五輪に沈黙はない」
「ルビコン川を渡りますが、深そうですよ」。政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の尾身茂会長(72)ら、専門家有志が五輪についての提言づくりを進めていた今年5月。東京都内で開かれた専門家だけの会合で、メンバーの一人がつぶやいた。「(政府は)五輪に触れてほしくないようだ」。尾身氏もこの時期、渋い表情でメンバーに話したことがある。
6月2日に開かれた、厚生労働省に感染症対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」では、西浦博・京都大教授が「オリンピックリスクを『腫れ物』のようにしてきたが、(開催が近づいており)議論しないと間に合わない」と強調。尾身氏は「五輪にサイレント(沈黙)はない」と引き取った。
尾身氏は翌3日には「パンデミック(世界的大流行)で(五輪を)やることが普通ではない。それでやるなら強い覚悟でやる必要がある」と述べた。周辺には「歴史の審判に耐えられるような提言を作らなければいけない」とも話した。尾身氏の主導で提言策定が本格化した。
専門家にとって、五輪による感染拡大リスクは明らかだった。政府や大会組織委員会は、選手らを外部と遮断した環境に置き感染を防ぐ「バブル方式」を導入したが、バブル外の対策は手薄だった。五輪開催で感染対策に「緩み」が生じ、全国的に感染が広がるリスクがある――と懸念した。
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