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自動車開発のオープン化を目指すボルボ・カーズが公開した「Volvo Cars Innovation Portal」。実在する車種の3Dデータを含むUnityプロジェクト「Auto Showroom」を開発者向けに発信するボルボのねらいやUnityとの協業の経緯について、開発のキーマン2人に聞く。

TEXT_神山大輝/ Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

オープン化という開発思想で技術革新を目指す

製造工程におけるデザイン業務や走行シミュレーションから、VR空間で自動車を走らせる、リアルタイム3DCGによって外装や背景を変更するといった顧客体験まで、自動車産業におけるデジタル変革は破竹の勢いで進んでいる。こうした中、業界に先んじるかたちで「自動車開発のオープン化」を進めているのが、スウェーデンで生まれた世界的な自動車メーカーであるボルボ・カーズ(以下、ボルボ)だ。

2021年1月に立ち上げられた「Volvo Cars Innovation Portal」というWebサイトは、ボルボのもつリソースを外部開発者向けに共有し、車載アプリや新規サービスの開発をサポートすることを目的としており、現在はXC40 Recharge(ボルボの実在の車種、コンパクトSUV)の3Dデータを含むUnityプロジェクト「Auto Showroom」やダッシュボードデータにアクセス可能な「Extended Vehicle API」などが公開されている。



▲Volvo Cars Innovation Portal

両社が共同開発した「Auto Showroom」プロジェクトをリードしたのは、ボルボ・カーズのイノベーションリーダー ティミー・ギウラウ氏と、Unityのプロダクトマネージャー エド・マーティン氏。「Volvo Cars Innovation Portalには、新型ボルボ・カーズに採用されているOSやGoogleアプリを再現する、いわゆるエミュレータが含まれており、開発者はコンピュータ上で正確な車載システムを体験することができます。これにより、アプリ開発者は、アプリの設計、開発、テストを行い、直接車載のGoogle Playストアに公開することが可能です。また、公開されたAPIも含まれており、中でもAuto Showroomはデザインや車載アプリケーションなどの分野で外部からの先進的な発想を可能にするオープンAPIになります」(エド氏)。



  • Timmy Ghiurau/ティミー・ギウラウ
    Innovation Leader, Leading Virtual experiences
    Volvo Cars



  • Ed Martin/エド・マーティン
    Director of Verticals Product Management
    Unity

実際のところ、実在の車種の3DデータやAPIを自動車会社が公開している事例は極めて珍しいが、ボルボとしては「外部の開発者が同社製品に向けたアプリケーションやサービスを開発することでユーザーが複数のアプリケーションを選択可能になり、ボルボ車がドライバーにとってさらにパーソナルなものになる」というねらいがある。もともとボルボは「知識・知見を共有すること」に前向きな社内文化をもっており、このことは例えば1959年にボルボが発明した3点式シートベルトが他社にも自由に提供され、現在では主流の方式になっていることからも明らかだ。

また、ゲーム開発の民主化を掲げるUnityも、これまでの3年間で「Unity Reflect」や「Unity MARS」、「Unity Forma」、「Unity Simulation」など、自動車や建築、AR/XR開発やデジタルマーケティングにいたるまで、非ゲーム分野へ向けたサービスを数多くリリースしている。さらに言えば、ティミー氏自身も音楽やファッション、メディア制作、ゲーム開発の現場で活躍したテクノロジストであり、エンターテインメントをバックグラウンドにもっていることから、デジタル分野でのオープン化(例えばオープンソース、オープンプラットフォームなど)の文脈は熟知していると言えるだろう。

「Unityとのコラボレーションは、私たちが似たような価値観をもっていることから始まりました。当社ではもともと自動車開発においてUnityを活用しており、現在では初期のコンセプトデザインからリサーチ、UXや検証、自律走行車、リテールまでのパイプライン構築まで、全工程にわたって非常に役立っています」(ティミー氏)。

実際の自動車モデルを使って現実のような環境で再現

Auto Showroomの開発はティミー氏率いるボルボのイノベーションチームと、数十名におよぶUnityのクリエイティブチームとテクニカルチームのメンバーが参加した。Auto Showroomは、自動車やその他の製品が、様々な環境や照明要件でどのように見えるかを確認するためのサンドボックスであり、ユーザーはフォトリアルなハイエンド製品デモなどを自身で制作する際にライティングやHDRPの設定項目を参考にしたり、あるいは(非商用であれば)プロジェクト自体を無償で自由に扱うことができる。




▲リフレクションやシャドウ、ライティング設定など、リアルタイム環境に最適化して設定されたXC40 Recharge【上】、インテリアショールーム【下】

「HDRPを使用することで、自動車や環境の素材をフォトリアリスティックかつ正確に表現することができました。また、現実に沿ったライトやHDRPの新機能により、テンプレートを使用した没入感のある体験を実現できたと自負しています」(ティミー氏)。どんなケースであれ、最初にクオリティの高いテンプレートが存在するのはクリエイターにとってありがたいことで、それがXC40 Rechargeという実車のインテリアとエクステリアを含むリアルタイム3Dモデルとともに参照できることはさらに大きな意味をもつだろう。Volvo Cars Innovation Portalで提供されるAPIを用いることで車載アプリやサービスの設計が無償でできるため、シミュレータとしての活躍も見込まれる。なお、3Dモデルと環境はベースツールとしてUnity Hubでも提供されており、今後はさらに多くの高忠実度3Dモデルを追加する予定とのことだ。



▲用意された3種類のライティングテーマと環境(左からLuxury、Photostudio、Light Installation)での見映え



▲エクステリアだけでなく、インテリアもリアルタイムに確認できる

「自動車業界には、エンターテインメント業界のようなストーリー性のある体験が必要です。私たちが新製品を開発する方法は、将来的に大きく変わると思います。Auto Showroomは、自動車業界とコラボレーションをしたいと考えている企業や学生、大学機関にとって素晴らしい出発点になると思います」(ティミー氏)。Unityがもたらしたリアルタイム3DCGによる恩恵を自社製品開発に活かすだけでなく、外部の開発者に対して無償で情報を開示することでアプリケーション開発を促進する。このことは近い将来、家庭や個人のデバイスと同じように、ボルボの自動車もよりスマートに、より個々人に合った体験を提供する未来につながっていくはずだ。

Unity
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※Auto ShowroomサンプルテンプレートはUnity Hubからアクセス可能

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