金融機関でクラウドサービスの導入が進みつつあるものの、相変わらず法規制やレガシーシステムの複雑さがその進展を妨げている――。これはGoogleからの委託を受けて、市場情報機関Harris Insights and Analyticsが実施した調査で明らかになった事実だ。日本と米国、カナダ、フランス、ドイツ、英国、シンガポール、オーストラリアの金融機関で働く1300人以上のリーダーがこの調査に回答した。
回答者の83%はクラウドサービスを「最も重要なITインフラ」として利用していると答えた。38%の回答者がオンプレミスシステムとクラウドサービスを併用するハイブリッドクラウドを採用している。単一のクラウドサービスを利用していると答えたのは28%だった一方、複数のクラウドサービスを併用するマルチクラウド戦略を進めている回答者は17%だった。マルチクラウド戦略をまだ採用していない金融機関の回答者のうち、今後12カ月以内にマルチクラウド戦略への移行を検討していると答えた回答者は88%に上る。
調査レポートは、金融機関のクラウドサービス移行を遅らせている原因を幾つか指摘している。Googleが挙げる原因は、
- レガシーシステムの複雑さ
- クラウドサービスの信頼性への不安
- 法規制の難解さ
- コンプライアンス要件の細分化
などだ。金融機関がクラウドサービス導入を進めるには、証券取引の事務処理や顧客口座の開設といったバックオフィス業務を中心に、法整備やレガシーシステムの複雑さを解消することが必要だと同社は指摘する。
これまでに「かなりのワークロード(アプリケーション)」をクラウドサービスに移行させた金融機関でも、中核となるバックオフィスアプリケーションをクラウドサービスに移行させることについては、まだ抵抗がある。引受業務(企業が発行した新しい証券を証券会社が取得すること)のような中核業務では、欧州全体でクラウドサービスの使用率が低く、英国では30%しか利用されていないとGoogleは説明する。
調査レポートは「法規制に起因する課題」が、金融機関各社のクラウドサービス移行を遅らせていると指摘している。回答者の84%は、複数の規制機関にまたがって規制が細分化されているため、各機関の審査と承認に時間がかかり過ぎるという意見で一致している。さらに78%がクラウドサービスの利用に関する規制が一義的に解釈できないため、クラウド技術の導入を妨げていると回答している。
クラウドサービスの導入コストを課題とする企業もある。自社でオンプレミスインフラを優先して利用する38%の回答者は、クラウドサービスを利用しない理由の一つとして、規制を順守するためのプロセスやコンピューティングリソースに多額の投資が必要になることを挙げている。
調査会社IDC Financial Insightsでリサーチ部門のバイスプレジデントを務めるジェリー・シルバ氏は、今回の調査によって金融業界全体のクラウドサービス導入の進行状況に大きなばらつきが生じていることが浮き彫りになったと語る。「多くの銀行が既にハイブリッドクラウドを採用する一方で、計画や導入作業の段階にとどまる銀行もある」とシルバ氏は考察する。
「金融機関が重点を置く必要があるのは、最新のITインフラを導入して事業の効率や回復性、俊敏性を確保することだけではない」とシルバ氏は話す。クラウドサービスのセキュリティやコンプライアンスなど、システムを管理するために必要な手順を踏むことにも注力する必要があると、同氏は指摘する。
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