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 シスコシステムズは、Web会議システム「Webex」を中心とした日本におけるコラボレーション事業戦略について説明した。そのなかで、年内にも提供を開始する日本語文字起こし機能を初めて公開したほか、Webex Instant Connectを通じたオンライン相談の事例、現場でのウェアラブルデバイスとの連携など、最新ソリューションをデモストレーションした。

「リッチなコラボレーション体験の提供」「ハイブリッド化支援」「パートナーリング拡大」の3点でハイブリットワークを加速

 Webexは、2020年9月からの9カ月間で、800以上の新機能を実装しており、その後も多くの機能を追加しているという。今回、発表した新機能は、Webexの継続的な進化を示すものになっている。

 シスコシステムズ コラボレーション・アーキテクチャ事業の大野秀記部長は、「Webexは、さまざまなコミュニケーションツールを統合したプラットフォームであり、ここに認証、カレンダー、メールなどの業務システムをつないでハイブッリドワークを実現することになる。今後も、ハイブリッド化への取り組みを加速したい」とした。

 なお、同社が推進・推奨するハイブリッドワークとは、オフィスワークとテレワーク・リモートワークが共存するワークスタイルだ、会議であれば、会議室からの参加者と、Web会議による参加者が違和感なく話し合い、コラボレーションできる環境の提供を目指している。

シスコシステムズ コラボレーション・アーキテクチャ事業の大野秀記部長

 ハイブリッド化を加速させるための取り組みとして、「対面よりも10倍リッチなコラボレーション体験を提供する」「ハイブリッド化が遅れている業務、業種を支援」「パートナーリングの拡大」という3点から説明した。

108言語対応のリアルタイム字幕や議事録作成機能のほか、10万人規模のイベントも可能なシステムに

 1点目の「対面よりも10倍リッチなコラボレーション体験を提供する」に関しては、Webex Suiteの特徴と新たな機能について触れた。

 「Webex Suiteは、多くのユーザーが、より簡単に、より手軽な価格でハイブリッドワークの体験を行えるようにしたものである。単品で購入するよりも低価格で、全てのサービスがひとつのダッシュボードで管理できる。そして、時代にあわせて進化した機能を、クラウドを通じて提供する」とした。

 ここでは、新たな機能として、日本語を含む108言語に対して、リアルタイム翻訳、字幕、議事録が作成できることなどを紹介した。

 Webexでは、発言者の話している内容をAIエンジンが認識し、日本語で字幕をリアルタイムに表示することができるようになる。画面左下にある下矢印をクリックし、話している言語に日本語を選択し、同様に画面左下にあるCCのボタンをクリックすれば、字幕表示が開始される。字幕の位置や文字サイズの変更も可能だ。この機能は、13言語に対応しているという。

 「録画をしておけば会議後も字幕を確認できる。会議中に表示される『字幕とハイライト』を見れば、これまで会議で話された字幕データの履歴が表示され、見返すことができる」という。

 また、話している日本語の内容を翻訳して、リアルタイムでほかの言語に翻訳して字幕を表示することもできる。これも画面左下の下矢印をクリックし、「字幕で表示される言語」を選択。参加者が別々に異なる言語の字幕を表示することが可能だ。ここでは108言語に対応している。

日本語字幕をリアルタイムで表示する

 さらに、過去に開催したミーティング情報一覧では、文字起こし機能を使用した場合に、ファイルには「議事録」と表示されており、文字起こしのデータも保存していることを表示する。このデータから、会話履歴を確認したり、テキストファイルとしてダウンロードすることもできる。大切な発言には「ハイライトに追加」することができ、ハイライトを見るだけで、効率的に会議内容を確認できるといった使い方も可能だ。これらのデータは、主催者以外に転送することも可能であり、会議に参加できなかった人も短時間で内容確認が可能になる。

字幕表示されたデータも保存できる

 英語の字幕機能や録画の議事録機能は、Webexの標準ライセンスのなかで利用できるが、日本語を含む多言語の字幕機能やリアルタイム翻訳機能、リアルタイム録画機能、録画議事録、ハイライト機能を利用するには、リアルタイム翻訳ラインスを別途購入する必要がある。現時点では価格は公表できないとしている。無償でのトライアルは用意する予定だ。

リアルタイム翻訳により英語の字幕を表示

 「これらの機能は、会議中に文字起こしをするだけでなく、会議前、会議後も利用でき、効率化することを目指している点が特徴だ」と述べた。

 また、Webexの新機能として、特定の人物のみを配信したり、話者だけを配信したりといったことも可能にした。これは、テレビのようなレイアウトで配信したいというニーズに対応し、主催者が見せたいレイアウトに自由に変更できたり、見せたい画面を強制的に配信するなど、イベントに合わせてカスタマイズできるものだ。

 さらに、Webex EventsとSocioとの組み合わせによって、最大10万人規模のハイブリッドイベントの運営と配信が可能になるという。

 「他社のツールでも10万人規模や1万人規模のイベント開催、ウェビナーの開催は可能だが、Webexでは、Socioでは申し込みページの作成やアンケート集計などの機能をパッケージ化しており、経験がない人でも簡単に大規模イベントが開催できるようにしている点が特徴だ。11月18日から開催するオンラインイベントのWebexOne 2021は、Socioを利用してイベントを開催する」という。

 さらに、シスコの大野部長は、「ハイブリッドワークになったことで、新たな問題点が生まれてきた」と指摘。「それぞれが家から会議に参加する場合には、誰が話をしているのかが明確だが、オフィスの会議室から複数人が参加してオンライン会議を行うと、誰がしゃべっているのかがわかりにくく、誰が参加しているのかがわからないという状況が生まれる。その理由は、80%の会議室は、3~4人の参加者に最適化したカメラやマイク、スピーカーが設置されていない点にある。シスコでは、要件や予算にあわせて選んでもらえるようなデバイスをラインアップしていく」と述べた。

 WebexOne 2021においては、会議室への持ち運びが可能なコンパクトタイプのデバイスと、画面に直接書き込むことができ、大人数でも会議が行いやすいデバイスなどを発表する予定だという。

 また、「これまではひとつの会議ツールにしかつながらないという制限があったが、シスコでは、これを改善していきたいと考えている。新たなデバイスは、オフィスの会議室に入った際に、Webexだけでなく、Zoom、Teams、Google Meetにも接続できるようにしていく」と述べた。

 加えて、自宅のネットワーク環境やセキュリティ対策が求められるハイブリッドワーク化の進展に伴い、情報システム部門には、トラブル対応、運用管理、セキュリティ強化といった課題が生まれていることを指摘。シスコでは、無償のコントロールハブを利用して、管理者が、利用率や端末の状態、会議のコンディションを全て確認できるとし、「Cisco MerakiやThousand Eyesとも連携し、エンド・トゥ・エンドで、通信を全て可視化することで、どこに問題があるのかを検知できるようになる。安定したオンラインコミュニケーションの実現を支援することができる」と述べたほか、「新たなPersonal Insights機能を利用すると、いつ、どこで、誰とコミュニケーションをし、会議ではどれぐらい発言しているのかといったことも可視化できる。よりよい働き方を見つけることにもつなげられる」と述べた。

 シスコでは、東京本社のほか、札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡の各拠点に、Collaboration Show Caseを開設し、Webexソリューションを体験できるようにしていることも示した。

LINE WORKSや既存予約システムとの連携により、営業と現場など組織を超えた情報共有を支援

 2点目の「ハイブリッド化が遅れている業務、業種を支援」に関しては、営業部門と現場におけるハイブリッドワークの提案を行った。

 営業部門では、LINE WORKSとWebexの連携機能を活用して、LINE WORKSのチャットから、ビデオ通話、資料共有といったWebexの機能をそのまま利用。オンライン商談時のチャットや会話などを、全てデータベースに蓄積し、営業活動における生産性の最大化を実現することができるとした。「将来的には、録画したものをAIで分析し、トップセールスはどんな提案をしているのか、どんなタイミングでコンタクトをしているのかといったことが分かるようになる。営業のデジタル化だけでなく、DX化にもつなげたい」とした。

オンライン相談窓口の事例

 また、現場とエキスパート間のコラボレーションをハイブリッド化する取り組みでは、デバイスメーカーとの連携で、ウェアラブルカメラを活用し、作業現場とエキスパートをつなぎ、作業効率を向上する提案を加速。将来的には、ホログラムやAI、コンタクトセンターを組み合わせて、生産性を最大化するという。「工場や現場では、リアルでしかコミュケーションができない環境が多い。この領域でのハイブリッド化を進めることで、日本の生産性を高めることができる」と述べた。

 また、アプリ不要で、ワンボタンで簡単につながるWebex Instant Connectを活用することで、既存の予約システムとの連携、バーチャル相談窓口の設置などのソリューション提案ができるという。

 「従来の会議システムでは、会議をスケジュールし、主催者が発行したリンクをクリックし、アプリが起動して利用する。その際に、参加者は氏名やメールアドレスなどを入力するが、オンライン診療やオンライン診断では、こうした作業が障壁になる。Webex Instant Connectはアプリが不要で、ログインが不要で、モバイルデバイスからもアクセスができる。オンライン相談の予約をすると、専用URLが生成され、そのリンクをクリックするとアプリケーションが起動して、相談が開始できる仕組みになっている」とした。

ウェアラブルデバイスやドローン、チャット機能とも連携

ウェアラブルデバイスで撮影したデータをWebexに表示

 3点目の「パートナーリングの拡大」に関しては、ウェアラブルデバイスやドローン、チャット機能を提供しているパートナーとの連携により、ハイブリッドワークを実現するソリューションを提供。Webexコミュニティを通じた活動を積極化させるという。

現場に設置したサーモカメラで収集したデータを共有している様子

 一方、シスコでは、2020年3月から、オフィスを閉鎖し、全ての社員を対象にした「フルテレワーク」を実施してきた経験に触れながら、「デジタルの活用により、業務効率が向上したこと、バーチャルセールスの充実などによる商圏の拡大、通勤や移動時間が削減したことによるワークライフバランスにおけるメリットがある一方で、デモストレーションを活用した顧客体験の提供が行いにくいこと、中途採用の社員や若手社員とのエンゲージメントを高めるのが難しい点、始業や終業時間がコントロールしにくいという課題もあった」とする。

 その上で、「対面だけ、あるいはオンラインだけという一択ではなく、対面でも、オンラインでも、自らの生産性が最も高く出せる場所を選んで働けることが、ハイブリッドワークである」と定義した。

 同社の調査によると77%の従業員が、ハイブリッドワークによる柔軟なワークスタイルを受け入れると回答。シスコ社内ではさらに高い比率の回答があったという。「ハイブリッドワークは、日本における今後の働き方のスタンダードになっていく」と述べた。

銀行やスポーツ業界でのハイブリッドワーク事例を紹介

 シスコでは、いくつかのハイブリッドワーク実現に向けた事例を紹介した。

 あおぞら銀行では、シスコのクラウドPBXを導入することで、オフィスでも、自宅でも、どんなデバイスでも、会社への電話を受けることができるように、電話業務をハイブリッド化。千葉興業大学では、キャンパスでも、自宅でも、出先でも、大学の講義に参加できるように、授業をハイブリッド化。JR東京総合病院では、Webexを利用して、オンラインでも、患者と家族がつながる入院面会のハイブリッド化を実現。遠く離れた家族が入院している場合にもタブレットを通じてつながることができたという。

 プロ野球のパシフィックリーグマーケティングでは、球場と自宅をつなぎ、Webexを通じて野球観戦をしながら、コラボレーション型のスポーツ観戦を実現。eラーニングアワードでは、Webexを活用するとともに、リアルタイムにアイデアを収集や投票ができるSlidoを組み合わせたインタラクティブなイベント開催を実現。さらに、近日公表する自治体の事例として、休眠している施設や、乗客が少ない時間帯のバスを利用して、市役所の職員が、どこでも住民サービスを提供する活用方法を紹介した。

 シスコシステムズ 執行役員 コラボレーション・アーキテクチャ事業担当の菊池政広氏は、「シスコのコラボレーション事業の重点戦略は、『ハイブリッドワーク』、『コミュニケーションプラットフォーム』、『カスタマーエクスペリエンス』の3点にある。働き方改革を通じて、インクルーシブな社会を実現することに貢献するのが、シスコのコラボレーション事業の目的になる」とした。

シスコシステムズ 執行役員 コラボレーション・アーキテクチャ事業担当の菊池政広氏

 その上で、「コロナ禍でテレワークが普及したが、今後はオフィスとテレワークが混在することが、当たり前の働き方になる。シスコのハイブリッドワークは、オフィスの場所やデジタルツールだけに依存せず、成果にフォーカスするものになる。ビジネスアウトカムにつながる働き方が大切である」としたほか、「オフィスの固定電話に縛られたり、個人のスマホの番号を公開せずに利用できるといった新たなコミュニケーションプラットフォームの提供、顧客体験をコミュニケーションによって、ベストなタイミングでカスタマエンゲージメントを実現することを目指す」と述べた。