今回もDolby Atmos対応のサウンドバーを取り上げる。もちろん意図的だ。ソフト的にもハード的にも状況は整っており、今こそAtmosやDTS:Xによる最新のサラウンドを始める機会だと思っている。そのため、Atmos対応のさまざまなスタイルのホームシアター機器を紹介し、ユーザーが自由に選択できるようにしたいと思っている。ちなみに次回はちょっとユニークな変わり種を紹介する予定だ。
今回紹介するのは、デノンの「DENON HOME SOUND BAR 550」(実売約8万8,000円)。デノンのサウンドバーの上級モデルであり、Wi-FiとBluetoothに対応し、同社のネットワーク機能「HEOS」対応で音楽配信サービスやインターネットラジオの聴取が可能。AirPlay 2対応やAlexa Built-in、Siri(Apple Home kit)で音声コントロールや機器連携も可能な多機能なサウンドバーだ。
最大の特徴は、デノンのサウンドマスターがHi-FiコンポーネントやAVアンプと同様にサウンドチューニングを行なっている高音質。電気的な高音質処理を使わず純粋な音質の良さを追求した「ピュアモード」も備える。そして、ワイヤレススピーカーの「DENON HOME 150」(実売約3万5,200円)を2台、または「DENON HOME 250」(同約5万2,800円)をリアスピーカーに設定し、本格的なサラウンドシステムへ発展できることだ。最近は、ワイヤレススピーカーを追加して後方のチャンネルの再生まで可能にするモデルが登場してきているが、リアスピーカーの有無でどれほどの違いがあるかが気になる人は少なくないだろう。今回の試聴でも、DENON HOME SOUND BAR 500とDENON HOME 150を2台お借りしている。
真円形状のドライバーを6個と、パッシブラジエーター2個を内蔵
まずはDENON HOME SOUND BAR 550から紹介しよう。横幅は650mmでそれほど大きくはない。40型くらいの薄型テレビと組み合わせてちょうどいいくらいのサイズ感だ。それでいて高さは75mmとやや高め、奥行きも120mmあり、スリムでコンパクトなサウンドバーのイメージからすると重厚感のある形状だ。
その大きな理由となっているのが、真円型ドライバーユニットの採用。19mmツィーターと55mmミッドバス×2という2チャンネル構成になる。低音を増強するパッシブラジエーターは50×90mmの楕円形ユニットが3個内蔵されている。Hi-Fi用のスピーカーではほとんど見かけない楕円形ユニットは、薄型テレビの内蔵スピーカーや小型スピーカーでの採用例が多いが、これは限られたスペースで振動板の面積をかせぐため。振動板が大きいほど空気を動かす量が増え、主に低音方向の音域が拡大するのは、大型スピーカーの低音を担当するウーファーが大口径となっているという点からもわかるだろう。
反面、楕円形の形状だと振動板の前後の動きが大きくなると、歪みが発生しやすくなる。楕円型ドライバーもかなり普及しており、歪みの発生などのデメリットも改善されつつあるが、本機ではHi-Fiコンポーネントと同様の発想で、音質的に有利な真円型ドライバーを採用している。そのぶん、サイズ感としてはやや大柄になっているが、あくまでも音質にこだわった結果と言える。55mm口径のミッドバスドライバーも2連装で十分な能力を備えているが、さらにパッシブラジエーターで低音を増強しているので、サブウーファーなしの単体でも十分な低音再生能力を実現している。
サウンドバー本体のボディもしっかりとした作りで、FEM(有限要素法)による強度解析を用いた設計となっている。不要な振動を抑えることで音の濁りを低減するというもの。このあたりも最近のHi-Fiスピーカーの設計と同様だ。
外観はスピーカーを備えた前面から側面、背面の一部をぐるりとファブリック製のカバーで被われている。天面は、中央部にタッチセンサー式の操作パネルがあるだけのシンプルなデザインで、上級モデルだけに質感もなかなか良い。一般的なサランネットとは異なるファブリック生地の感触も高級感があり、ブラックのボディながら重すぎる印象にならず明るいリビングに置いてもなじみやすいと感じた。
背面にはHDMI入出力を各1系統搭載。4K、Dolby Vision、HDR10のパススルーに対応し、eARC機能も備えている。このほかデジタル入力やアナログ入力、USB端子、ネットワーク端子を用意。基本的にはHDMIケーブルで薄型テレビと接続するだけでいい。試聴に使ったパナソニックのBDプレーヤー「DP-UB9000」がHDMI出力を2系統持つので、映像・音声出力はJVCプロジェクター「DLA-V9R」に、音声出力をサウンドバーに接続している。
あとはネットワーク設定や初期設定となるが、このあたりはすべてスマホ用アプリ「HEOS」で行なう。アプリをインストールすると、自動的に対応機器が検出され、アプリに登録すると、ネットワーク設定などを含めて初期設定が始まる。このあたりはすべてアプリの指示通りに行なえばよく、戸惑うことはない。
HEOSアプリは基本操作だけでなくネットワーク機能全般をコントロールできるアプリで、SpotifyやAmazon Music HD、インターネットラジオなどの聴取もアプリで操作できる。このほか、スマホに保存した音楽、ネットワーク上にあるNASなどにある音源の再生も可能。そして、テレビ音声の再生をはじめとしたDENON HOME SOUND BAR 500に接続した機器の入力切り替えなども行なえる。付属のリモコンでも基本的な操作は可能だが、音楽なども再生するならスマホアプリが便利だろう。
DENON HOME SOUND BAR 500は、機能的にはシンプルで音量調整ほか、サウンドモードの選択、ナイトモードのオン/オフなど、必要最小限になっている。独自のサラウンドモードなどを盛り込まないのは、同社のAVアンプにも通じる考え方だ。このほか詳細な設定で、テレビ台に置くか壁掛けかの設置設定や、低音/高音を調整できるトーンコントロールがあるが、音質に関わる設定や調整はこのくらいだ。
まずは聴き慣れた音楽を再生してみた。見た目は比較的コンパクトなサウンドバーだが、音はなかなか立派でちょっとした小型スピーカーと変わらないくらいのしっかりとした低音も出る。ステレオ音場は決して広くはないが、ボーカルも厚みがあり、なかなか聴き応えのある音だ。
サウンドモードをドルビーサラウンドに切り替えてサラウンド化すると、横方向の音の広がりは増す。広いリビングなどで聴く場合はこのほうが気持ち良く楽しめるかもしれない。しかし、やはりステレオ音源ならば本命は「ピュアモード」。電気的な補正やバーチャルサラウンドなどを行なわず、純粋な原音再生を追求したモードだ。これがなかなかのもので、音離れがよくなり、音場の深みも増す。ボーカルや楽器の質感も良く出て、かなりHi-Fiに近い再生音になる。「ステレオモード」の少しメリハリの効いた元気のいい鳴り方も決して悪くはないが、「ピュアモード」の方が忠実感のある音になり、じっくりと聴き込むには適した音だと思う。
Dolby Atmos映画などを再生すると、サウンドモードも切り替わる。大別すると、「ダイレクトモード」と「ピュアモード」はダウンミックス再生になり、「Dolby Atmos」と「Dolby Atmos(ムービー)」で、「Dolby Atmos・ハイト・バーチャライザー」を含めたバーチャルサラウンド再生になるようだ。そのため、「ダイレクト」や「ピュア」では多少のサラウンド感はあるが高さ方向の再現はほとんどない。横方向や前後方向の音の広がりは「ダイレクト」の方が良好で、「ピュア」ではダウンミックス2.1ch再生かと思うくらい、広がり感はステレオ再生時と大きく変わらない。そのぶん、情報量が豊かで細かない音までよく聴こえる。音場の奥行きが出るので、音の移動感や横や後ろの音の定位を気にしなければ、質の高さでは一番と思えるものだ。
「Dolby Atmos」は、高さ方向の再現もできるし、音場の広がりが圧倒的に大きい。映画館のような音という点では、当然「Dolby Atmos」が良い。「Dolby Atmos(ムービー)」は主に低音の量感を増し、より迫力やスケール感を増した感じになる。筆者は低音の音量調整で「+3」(最大値は+5)に低音を増量していたので、「Dolby Atmos」のままが好ましかった。このあたりは、好みで選ぶといいだろう。低音感としては十分に満足できるが、部屋や床がビリビリと震えるような低音を求めると、さすがにサブウーファーなしでは厳しい。
情報量の豊かさやセリフの明瞭度、前方の音の定位感などを求めると、「ピュアモード」がなかなか良いが、サラウンド感を求めるならば「Dolby Atmos」がいい。これは手軽に切り替えできるのでじっくりと聴き比べて選ぶといい。個人的な感覚では、アクション映画などならば「Dolby Atmos」がいいし、音楽映画やライブ映像ならば「ピュアモード」が聴き応えがある。サウンドバーでありながら、サラウンド再生だけでなく、ピュアオーディオのステレオ再生のような音も楽しめるというのはなかなか楽しい。これがデノンのサウンドバーの大きな特徴だろう。
DENON HOME SOUND BAR 500単体でのAtmos再生の実力としては、横方向の広がりは十分だし、高さ感もある。120インチのスクリーンで見ていても、映像から感じるスケール感に比べて音のスケール感は十分に釣り合っている。
ただし、前回のJBL Bar 5.0 MultiBeamの方が横方向の広がりは大きいと感じたし、いつもの大型スピーカーでの再生に比べると小型スピーカーによるサラウンド再生というこぢんまりとした感じはどうしてもある。高さ感については、まったく不満はない。ステレオ再生の「ピュアモード」ではサウンドバーから音が出ているのがわかり、画面になるべく近い高さまで持ち上げて聴いているが、映画をDolby Atmosで再生するとしっかりと高さ感が出て、セリフなども画面から聴こえる感じになるし、空から降る雨も天井から降り注ぐ感じになる。
後方の音の定位が曖昧になり、包囲感も後方はやや不足した感じになるのは、前方だけのサウンドバーでは仕方がないが、前方の音場は定位感や情報量が豊かななので画面に集中しやすく、音質的な良さもあって、サラウンド感としても大きな不満はない。上級クラスのサウンドバーだけに、単体でもその実力は十分と言える。
いよいよ上映。今回は悪と悪による勧善懲悪のストーリーが楽しい「クルエラ」
セットアップが完了したところで、いよいよ上映だ。今回はディズニー映画の最新作「クルエラ」。Dolby Atmos音声を採用しているUHD BD版を使っている。名作である「101匹わんちゃん」に登場する悪役クルエラの誕生秘話だ。
音楽やファッションでパンクが流行していた1970年代のロンドンを舞台とし、往年のヒット曲の数々をぜいたくに使って展開する物語も痛快だが、幼いときに母親を亡くし、浮浪児として生きながらもデザイナーを夢見る少女エステラがファッションデザイナー界でのし上がり、母親の仇討ちをするという勧善懲悪の物語も楽しい。なにより、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンの演技が見事だ。やぼったい田舎娘を演じさせたらNo.1というのは筆者の感想だが、そんなエステラが邪悪なクルエラに豹変する様子が見事で、実に尖ったキャラクターを発揮している。
物語はデザイナー界のカリスマであるバロネスに才能を見いだされ、デザイナーとしての第一歩を踏み出したエステラが、バロネスこそが母を殺した犯人であると知り、バロネスのデザイナーとしての地位も名誉もすべて奪おうとするものだ。だから、復讐劇といっても陰惨な事件が起こるわけではなく、幼少期からの浮浪児仲間と組んでの窃盗や仕事の妨害を繰り返していく。見どころのひとつは、バロネスのショーが開かれる場所の近くにある公園で行なうゲリラライブ。ショーに集まった客をすべてうばって、白熱のライブを繰り広げる。
イントロからディストーションを効かせたギタープレイが展開するが、DENON HOME SOUND BAR 500は単体でも音楽シーンの再生は上手で、サラウンドとしての音場はあまり広くはないが、ギターの音の勢いの良さや生々しい響きがしっかりと出て、十分に楽しめる。これがDENON HOME 150を追加した構成になると、音場の広がりが一気に大きくなる。ギターの音は野外ライブのような響きがしっかりとわかるものになるし、バンドの音やボーカルなども厚みのある力強い音はそのままに、音の定位が前後左右に広がり、まさにライブステージの観客の一人のような臨場感が出てくる。
肝心なのは、後方のスピーカーを追加したから後方の音の包囲感が出るとか、後ろにある音の定位が良好になるというだけでなく、前方の音の広がりや奥行きがさらに立体的になることだ。本作は決してアクション映画ではなく、むしろ音楽映画に近いので、もともとむやみに音がびゅんびゅん移動するわけではなく、むしろ前方の音場をしっかりと再現する方向の音作りだ。そのため、前方の音の配置が実はとても広い。
例えばゲリラライブでのコーラスやパーカッションなどの音は、スピーカーの外側に音が定位する。ステレオ構成のシステムではなかなか再現できない定位だ。これが、サラウンドスピーカーがあることで、スピーカーの外側から音が出ているような感じになる。このように、単純に見る者を包み込むような音場を再現できるだけでなく、もっと自由な音場設計ができるのがDolby Atmosなのだ。
仮想的になんとなくスピーカーの外から音が出ている感じではなく、しっかりとスピーカーの外側の音の定位まで感じるようになると、空間の再現がいっそうリアルになるのは言うまでもない。
クルエラ一味はこのように、突発的に出現してバロネスのショーを妨害し、自らは最先端のパンクファッションで世間の注目を集めていく。エステラとしてバロネスの動向をすべて見ているのだからそれも簡単だ。
しかし、バロネスの逆鱗に触れたクルエラは正体を暴かれてしまい、隠れ家を焼かれて一度は死んだと報道されてしまう。そこからの逆転劇がクライマックス。バロネスの豪邸でのパーティーに侵入し、大混乱を引き起こしてしまう。このあたりは、怪盗が活躍するピカレスクロマンのような展開も楽しいし、それを音楽と奇抜なファッションで彩っている。
音楽とファッションの映画だから、DENON HOME SOUND BAR 500の忠実感のあるサウンドは音楽を実に豊かに再現してくれるし、細かな音の質感もしっかりと描く。空間の広がり感も自動音場補正のような技術を使っていないので、各スピーカーのつながりなどが心配だったが、基本的な設定(距離と音量の設定。きちんとしたスピーカーセッティング)を行なえば、もともとひとつのシステムとして設計されたと思えるような完成度の高い空間再現力を発揮する。
実は、DENON HOME SOUND BAR 500は4月発売で、DENON HOME 150は2月発売だ。当初から両者を組み合わせてリアルサラウンドのシステムに発展できるとされていたが、秋のアップデートでようやく実現できた。これだけ時間がかかったのは、システムとしての完成度を高めるための改善も含まれていたと思われる。かなり前からデノンには借用をお願いしていて、筆者自身も首を長くして待っていたのだが、その甲斐のある完成度だったことは実にうれしい。
まず、基本的な音質が優れていることが一番の魅力だが、サラウンドでの空間再現でも、音の厚みがなくならず実に広い空間でのくっきりとした音の定位を再現できている。絶対的なクオリティとしては差があるのは当然だが、音質の良さと空間再現のリアルさはデノンのAVアンプに通じるものがある。そういう意味でもかなり本格的なサラウンドシステムだと思う。また、高さ感の再現にしても、後方のスピーカーが加わったことで、前方のスピーカーの上の方で鳴っている感じが視聴位置の真上や後方を含めて天井全体が鳴っている感じに変わるのもDolby Atmosらしさをよく実感できると思う。炎上する隠れ家でクルエラが炎に包まれるシーンもかなりの迫力がある。
映画がますます楽しく! 映画好き、音楽好きなら、ぜひともAtmos導入を!!
BDやUHD BDに限らず、Atmosは動画配信サービスでも採用されているし、空間オーディオで音楽も楽しめる。そして、サウンドバーならば4~5万円くらいから実現できる。DENON HOME SOUND BAR 500はそのなかでも音質にもこだわりたい人のための上級システムで、後から本格的なサラウンドシステムへの発展もできるのも魅力だろう。
もちろん、その一方で、AVアンプとスピーカーによるシステムもある。こちらは決して手軽ではないし、知識や経験も必要になるが、絶対的な音質の良さを追求でき、スピーカー選びなどで自分好みの音に仕上げることもできる趣味としての広がりもある。このように、Atmos時代のサラウンドも予算や環境に合わせてかなり自由にシステムを選べるようになってきた。
この秋から年末にかけては映画館でも話題作が目白押しだし、ソフトの方も音響面で実に素晴らしいと感じた作品の発売が控えている。そんなソフトはやはり映画館と同じ最新鋭のサラウンドシステムで楽しんでほしい。これまでの名作も含めて、きっと映画がもっと楽しくなるはずだ。
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