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世の中には、効果的な英語指導方法、効果的な英語学習方法など、英語教育に関する情報や教材、書籍がたくさんあります。しかし、学習者にはさまざまな個人差があるため、すべての学習者にとって効果的であるとは限りません。ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、動機づけやモチベーションに関する研究を行う新多 了教授(立教大学)にインタビューを行い、「英語を習得するために重要な学習者のあり方」という記事を公開しました。

<インタビューサマリー>

●新多了教授は、効果的な英語習得のための根本的な問題として第二言語習得における動機づけやモチベーションに関する研究を行っている。

●理想的な学習者に必要な要素は、「学習者エージェンシー」、「自己調整力」、「相転移」、「振り返る力」。

●理想的な学習者を育てるために、教師は適切なチャレンジを促す環境設定と、モチベーションや自尊心など非認知的な要素にも配慮したScaffolding(足場かけ)をしていくことが大事。

●主体性のある学習者は環境に左右されず、向上心を保ち結果的に高い英語力を習得できる。

 立教大学  新多 了教授

優れた教授法も、やる気が低い生徒には効果的でない

ウォーリック大学(イギリス)大学院応用言語学研究所にて修士号、博士号を取得し、現在は立教大学の英語教育プログラムの開発と運営に取り組んでいる新多了教授。「なぜ自分はいつまで経っても英語が苦手なのか?」という疑問から第二言語習得研究の道へ。研究テーマのTask-Based Language Teaching(タスクを使った教授法)は、日本も含め、世界的に広がったアプローチです。ところが、「イギリスに来ている学生にこのアプローチで英語を教えると機能するのですが、日本に帰国して大学で教え始めたときに、思ったようにうまくいかないことを実感した。」と言います。

タスクを使った教授法は、生徒に『英語を学びたい』というやる気があることを前提としたアプローチなので、やる気が低い生徒に対しては機能しない、ということに気がついたのです。ですから、根本的な問題として、動機づけ(モチベーション)が大事なのではないかと考え、この分野の研究を始めるようになりました。」

「モチベーションがあるとかないとか、ということは表面的なことですが、その根本にあるのは、自分をどう捉えているかとか、自分はどんな人間でどうなっていきたいか、英語を使ってどう変わっていきたいか、ということと深く関わってきます。アイデンティティというものは、長い時間をかけてできあがっていき、そして変化していくものです。ですから、学習者が自分の過去を振り返って、その過去をどのように捉えているか、ということが現在のモチベーションに影響し、さらにこの先どうなっていきたいかという将来像も現在のモチベーションに影響します。」と新多教授は言います。

理想的な学習者の姿

同じように第二言語を習得したいと考えている人たちであっても、積極的に学習しようとする人と、そうでない人に分かれます。新多教授によると、その違いは、次の4つの要素をもっているかどうかによって生まれます。

1)エージェンシー : 自分の学びに対して当事者として責任をもつ力。

2)自己調整力 : 計画→観察→自己評価というサイクルでモチベーションや学習を調整する力。

3)相転移:新たなチャレンジをすることによって次のレベルに上がれる力。

4)振り返る力:自分の学習状況を深く分析する力。

理想的な学習者になるために教師ができること    

「授業の中で教師ができることは、大きく分けて二つあると思います。一つは、どのようなタスクや課題(※1)を準備するか、ということです。もう一つは、どういう手助けをするか、ということです。これは、scaffolding(スキャフォールディング)と呼ばれていて、日本語では「足場かけ」と訳されます。Scaffoldingは「〜ing」と進行形になっていますが、これはこの概念をぴったり表していると思います。イギリスにいたときに、建物を立てているところをよく見たのですが、そこに組まれていた足場は、毎日そこを通るたびに変わっていました。ビル建設の進行状況に伴って、足場が上や横にずれていったりしていたんです。これがまさにScaffoldingなんです。」

さらに続けて、「授業では、子どもや生徒をよく観察して、いまどういう助けが必要なのかを判断して、適切なチャレンジをできるような状態に環境設定していく、ということですね。チャレンジというのは、認知的なレベルに合ったものにすることはもちろん大切ですが、モチベーションや自尊心など、非認知的な要素にも配慮したScaffoldingをしていく、ということもすごく大事だと思っています。」と話します。    

新多教授によると、「いまは特に変化が激しいVUCA(※2)と呼ばれる時代ですから、何が正解かわからない中で生きていくためには、自分で考える力はすごく大事です。そして、自分のことだけではなく、何が社会の発展のために大事なのかということを考える能力も必要です。こういう力を身につけられる手段の一つが英語を学ぶことなのではないかと思っています。」とのこと。

学習者には主体性が重要

今回、新多教授からは、「理想的な学習者のあり方」として、1)エージェンシー、2)自己調整力、3)相転移、4)振り返る力が挙げられました。

この4つに共通することは、主体性です。効果的に英語を学ぶにはどの学校がいいのか、どの教師がいいのか、どの教材がいいのか、といった環境面ばかりに目がいきます。しかし、そればかりに囚われていては、モチベーションが低下したとき、学習がうまくいかなくなったとき、すべて環境のせいにしてしまうでしょう。

一方、主体性をもっている学習者は、うまくいっているときもそうでないときも、常に自分を振り返りながら向上心を保ち、結果的に高い英語力を習得することができるのではないでしょうか。

※1:英語を学ぶことそのものを目的にするのではなく、課題に取り組むことを通じて、結果的に英語を使い、英語力が伸びている、ということを目指すアプローチ。

※2:Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)といった特徴をもつ予測不可能な状況

詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

■英語習得のために重要な「学習者」のあり方〜立教大学 新多教授インタビュー〜

前編:https://bit.ly/3Ct5byF  後編:https://bit.ly/3FuxQW5

■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(World  Family’s Institute Of Bilingual Science)

事業内容:教育に関する研究機関

所   長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)

所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 

パシフィックマークス新宿パークサイド1階

設  立:2016年10 月URL  :https://bilingualscience.com/