はじめまして、『青天を衝け』VFXチームです。「日本資本主義の父」と称され、新1万円札の顔としても注目される「渋沢栄一」の人生を描くNHKの大河ドラマ『青天を衝(つ)け』。出身地の埼玉深谷をはじめとした日本各地、フランスパリなどの諸外国、また、幕末から明治、大正、昭和と激動の時代を描くため、コロナ禍のいまVFXによる表現が不可欠です。多くのクリエイターやプロダクションさんとつくり上げていく『青天を衝け』のVFX映像の制作過程や裏話、現場の様子などをたくさんの画像や動画を交えてわかりやすく紹介していきます。このシリーズ企画を通して、多くの方にVFX制作の楽しさ、面白さを知ってもらえると嬉しいです。
TEXT_『青天を衝け』VFXチーム(NHK)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
[青天を衝け] VFX編 | 激動の幕末をダイナミックに描く舞台裏 | 青天を衝けの世界 | NHK
© NHK
ミッション<1>「フォトリアルな蚕たちを踊らせろ!」
記念すべき1回目は、Twitterなどでバズった「お蚕ダンス」についてです。幼少時代の栄一(子役・小林優仁)の目には「お蚕様」がこのように見えていたのではないか?という監督のこだわりシーンです。
オンエアされた本編のカット(第1回『栄一、目覚める』より)
「蚕が踊る? ダンスをする? ……どうする?」と思いながら、まずはCGモデル制作を行います。ドラマにも登場するこの蚕は「小石丸」という種類で、まずは資料や写真を助監督からもらいました。それらを参考につくっていきます。クネクネ曲がるので表も裏も作りますが、どアップにはしないので産毛などは生やしていません。
資料2:本物の小石丸
実際にドラマに"出演"した本物の小石丸たち
ZBrushを使い、デジタルで蚕をスカルプトします
スカルプトモデルをMayaに読み込んで調整します(図はワイヤーフレーム表示)
Arnoldでライティング&レンダリングされた蚕のCGモデル
このシーンのはじめから「蚕が踊っている」という設定でしたので、あえて本物の蚕を外して餌の桑の葉だけを敷き詰めて、子役の小林優仁くんには芝居をしてもらいました。最終的には、「途中から踊り出す」という演出内容に変わったため、ムシャムシャ桑の葉を食べているだけのリアルに撮影できるはずの映像もVFXで作ることになってしまいました。現場で撮れるものは極力現場で撮りたいですね……。
実写撮影の様子
ちなみに桑の葉だけ置くと蚕の重みがかからず、葉が浮いてしまったので後で葉をCGで作ることも考え、撮影現場で急遽、葉だけ写真に撮っておきました。
桑の葉のリファレンス写真
Houdiniのscatter機能でCGによる桑の葉を良い感じに散らばせています。
Houdiniの作業画面
次にアニメーションです。バラバラに向いている数百匹の蚕が栄一少年の歌につられて、タイミングをズラしながら栄一の方に向き、そして踊っていきます。1匹ずつアニメーションをつけるのは現実的ではないため、あるトリガーにより、その時の向きから栄一少年までゆっくりaimしていく仕組みと、あらかじめ設定した踊りの動きに乗り替わっていく仕組みをリガー、アニメーターにつくってもらいました。
リガーとアニメーターに、蚕の動きを説明するために撮影した動画
蚕のリグ
蚕のCGモデルは、複数読み込んだ場合もaim用のコントローラの方を向く仕様にセットアップしています。
複数の蚕モデルを読み込んだ状態。どの蚕もaimで指定した方向を向いていることが確認できます
出来上がった蚕のCGアニメーション
全体で300体程度、配置する必要があったのですが、セットアップされたモデルを一度に読み込むことが難しかったため、50体毎にAlembicキャッシュを取っています。最終的にはキャッシュを複数読み込み、300体ほどの蚕をArnoldでレンダリングしています。
Mayaのレンダリングシーン
蚕棚が狭く、HDRI用のカメラを置けなかったため、RICOH THETAで環境マップを撮影しました。カメラを固定することができず、多段階露出での撮影ができなかったのでハイダイナミックレンジではありません。
RICOH THETAで撮影した環境マップ
「お蚕ダンス」カットのVFXブレイクダウン
あまりのキモ可愛さでバズった「蚕ダンス」は、このようにつくられました。
いかがでしたか? 今後も『青天を衝け』におけるVFX技術をちょくちょく紹介していきますので、ぜひ放送をご覧ください。(『青天を衝け』VFXチーム)
info
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大河ドラマ『青天を衝け』
【放送情報】
NHK 総合 毎週(日)夜 8:00~/[再放送]毎週(土)午後 1:05~
NHK BSプレミアム 毎週(日)午後 6:00~
NHK BS4K 毎週(日)午後 6:00~
公式HP www.nhk.or.jp/seiten© NHK