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2021年7月からはじまった「電話リレーサービス」というサービスをご存じだろうか。これは、聴覚や発話に困難のある人(以下、聴覚障がい者等)と、きこえる人との電話をスムーズに行えるようにするためのサービスだ。2013年から民間によるモデルプロジェクトが実施されていたが、ついに公共インフラ化し、持続可能な安定したサービスとして新たなスタートを切った。

電話リレーサービスを利用するNyankoさん

具体的なサービス内容は、聴覚障がい者等ときこえる人との間に通訳オペレーターが入り、手話または文字と音声を通訳することで意思疎通を可能にし、24時間・365日、電話を利用することができるというものだ。

電話リレーサービスはどういう仕組みで提供されるのか

電話リレーサービスは、スマホやタブレットなど、ネットにつながる端末から利用できる。

サービスに登録済みの聴覚障がい者等が専用アプリから電話をかけると、通訳オペレーターに接続される。そして、店舗や病院などつないでほしい相手先を伝えると、オペレーターは、きこえない人があらかじめ選択した方法(手話または文字)で会話をし、その内容を音声に通訳。また、きこえる人との音声による会話を、オペレーターが手話や文字に通訳してきこえない人に伝えることで、きこえる人ときこえない人の電話を可能にするという仕組みだ。

電話リレーサービスの仕組み※画像出典:総務大臣指定 電話リレーサービス提供機関 一般財団法人日本財団電話リレーサービス

予約から問い合わせまで、聴覚障がい者等は電話リレーサービスをこう活用している

「本当に便利で、なくてはならないサービスです」と語るのは、モデル・ダンサーとして活躍中の聴覚障がい者、Nyanko(にゃんこ)さん。

Nyankoさん

彼女は、2021年8〜9月に行われた障がい者スポーツの祭典の開会式にダンサーとして出演したほか、高校や手話サークルでの手話講師、ポップスや歌謡曲などの曲に合わせて手話で歌詞の世界観を表現する手話歌パフォーマーとしてイベントなどにも出演している。

普段はレストランや美容院の予約、忘れ物の問い合わせなどの際に電話リレーサービスを利用することが多いそう。「手話歌や手話ダンスの練習のため、公共施設の予約をしたいときにもよく使っています」というNyankoさん。今回はその様子を取材させてもらうことに。

Nyankoさんの練習風景手話ダンスを練習している様子。手前に写っている手は、きこえない人に指で合図を送るカウントマンのもの。「関わるスタッフが多い手話ダンスは会場予約の調整が大変なんです」とNyankoさん

電話リレーサービスの専用アプリから電話をかけ、「手話」か「文字」のどちらで会話をするかを選択。手話を選ぶと、通訳オペレーターが画面に映し出された。

電話リレーサービスの利用イメージ※画像はイメージです

「用件を早く済ませたいとき、あるいは問い合わせたいことがたくさんあってきちんと話したいときなどは、短時間で正確に伝えられる手話通話を選びます。でも、電車内など手話をしづらい場合は文字での会話が便利です。そのときの用件やシーンによって使い分けています」

Nyankoさんが電話リレーサービスを利用している様子

Nyankoさんは自分のスマホを自立できるようにして、アプリから電話番号を発信。公共施設が応答するとオペレーターが電話リレーサービスである旨を伝え、通話開始。Nyankoさんが「ダンス練習のため施設を予約できますか?」と手話で伝えると、オペレーターが音声で公共施設に通訳。施設側の「希望の日時や部屋の種類、代表者の連絡先を教えてください」という返答をオペレーターが手話でNyankoさんに通訳し、それにNankoさんが応える形でしばらくやり取りが続いたあと、無事予約が完了し、通話は終了した。

Nyankoさんが電話リレーサービスを利用している様子

誰かの手を頼らなくても、自分で直接問い合わせができるのがうれしい

Nyankoさんが予約する様子は、オペレーターが担当者へ通訳しているあいだ、少し待ち時間があるというだけで、リアルタイムのやり取りという意味では音声による電話と変わりはない。あまりのスムーズな進み具合やコミュニケーションで、見ているうちにきこえる・きこえないの違いを忘れてしまったほどだ。ちなみに、Nyankoさんは公共の電話リレーサービスがなかったときはどのように予約していたのだろうか。

「民間の電話リレーサービスを利用していましたが、利用できる時間帯が決まっていたので、時間外のときはFAXを送るか、友人などにやり取りをお願いしていました。FAXだと翌日まで返事を待たなくてはいけないので、なかなか予定が決まらなくて。

誰かに代わりに連絡してもらうにしても、予約を希望した日時が空いていなかった場合はその都度、私と空き日時をやり取りすることになり、手間がかかることから相手に負担をかけるのが心苦しかったです。24時間利用できる電話リレーサービスがあれば誰かの手をわずらわせなくて済みますし、『自分でやれている』という感覚もすごくうれしいんです」

Nyankoさんインタビューカット

いまでこそ、ネットやSNSなどで予約や問い合わせができる店やサービスが増えたが、細かい問い合わせは「やはり電話で直接尋ねたい」と言う。

「たとえば、自分のペットと一緒にホテルに宿泊したい場合、どういう条件があるか、こちらで準備が必要なものはなにかなどを、細かく問い合わせておきたいです。また、『部屋を開けたときにわかるサプライズプレゼントを用意したいが、どんなことができるか』といったような、人を介するともどかしい相談ごとなどは、電話リレーサービスで直接話せるようになって、とても便利になったと感じています」

緊急時は手話が必須だからこそ110番や119番が利用できるのは大きな安心感

公共サービスになったことで、110番や119番などの緊急通報ができるようになったのも安心感があるそう。

「以前、突然息が苦しくなって倒れたことがあり、たまたま手話ができる友人がそばについてくれたので事なきを得ましたが、自分ひとりだったら救急車を呼ぶのも難しかったと思います。災害時や命に関わるような緊急事態のときに、すぐに通報できるというのは本当に助かります。自分のことだけでなく、両親も年を重ねて高齢になっていくので、万が一のことがあってもすぐ連絡できると思うと両親も守れるという安心感がありますね」

Nyankoさんインタビューカット

通信のチカラで、誰もがコミュニケーションを取りやすいバリアフリー社会へ

世界を見てみると、電話リレーサービスは25カ国以上で公共サービスとして導入済み。特に先進国では浸透していて、2021年7月のサービス開始までG7では日本のみ未導入だった。遅れてはじまったぶん、「この先、もっと使いやすくなることを期待しています!」とNyankoさん。

「今後は、習いごとなどのシーンでも利用できるようになったり、複数人との会話にも対応したりしてくれるとうれしいです。また、将来的に技術が発達したら、3者通話のように、電話をかけたい相手の表情も画面に映し出されるようになるととても助かります。

現在は、通訳オペレーターの方のみ画面に表示されていて、通話したい相手の顔までは見ることができません。きこえない人たちは、相手の表情やしぐさもコミュニケーションの大事な情報になります。相手の状況が見えれば、悩んでいるのか、なにかを確認しているのかなどがわかり、返答まで時間がかかっても安心できるので、今後はより使いやすいサービスになっていくことを期待しています」

まだまだ可能性を秘めた電話リレーサービス。ちなみに、電話リレーサービスの運用にかかる費用は、固定電話・携帯電話などの電話提供事業者(auもこれに含まれる)が、電話番号数に応じて負担することが義務付けられている。

そのため、auを含む電話提供事業者は、2021年7月利用分(2021年8月請求分)から全利用者に対し、「電話リレーサービス料」として1番号あたり1カ月1.1円(※)の負担をお願いしている。直近の請求明細を見て「電話リレーサービスなんて契約したり利用したりした覚えはないけどなあ……」と思った人もいるかもしれないが、サービスをスムーズに運営していくためだと認識しよう。
※2021年7月利用分から2022年1月利用分まで。2022年2月利用分から3月利用分までは請求がなくなる。また、年度ごとに料金は改訂予定。

2021年11月末 時点で、電話リレーサービスの登録者数は7,933。さらに登録者数が増えれば、電話リレーサービスから着信を受ける、きこえる人も多くなるだろう。そのときには「通訳をはさむから余裕をもって会話をしよう」と心がまえをしておくと、慌てずに済む。また、もし周りに電話リレーサービスを必要とする人がいたら、伝えてみるのもいいだろう。

きこえる人ときこえない人の垣根をなくす電話リレーサービス。通信のチカラが、誰もが自由にコミュニケーションをとれるバリアフリー社会へと変えていく。