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日本の文房具業界とは本当に凄いところで、毎回なにか新しい動きがあるたびに「おお、そう来たか!」と驚かされている。例えばボールペンひとつ取ってみても、最近であれば低粘度油性の超極細化であったり、ゲルインクの多彩化であったりと、様々な“そう来たか”ムーブメントが生まれている。

 

そこへ今秋頃から、新たに文房具メーカーがぶつけてきた“そう来たか”が、これまで「アクロ300」(パイロット)ぐらいしかなかった、単色ボールペンの300円帯という新ジャンルである。

 

これまでの国産単色ボールペンは、だいたい100円~200円と、1000円以上という価格帯で分けられていた。端的に言えば、普通/高級、というシンプルなゾーニングだったのだが、この間にいきなり割り込んできたのが、300円帯なのだ。

 

この300円帯ボールペンが面白いのは、既存の100~200円帯ボールペンブランドを、見た目の高級感ではなく機能面でアップデートさせた、という部分だろう。

 

では、価格が300円前後になったことで、何がどう良くなったのか? 今回は、そのあたりをじっくりと確認したい。

 

300円帯になることで実現した「ユニボールワン」の完成形

まず300円帯という新ジャンルの先陣を切ったのが、2021年9月に発売された三菱鉛筆の「ユニボール ワン  F」。くっきり濃いゲルインクで、昨年大きな話題となった「ユニボール ワン」の新モデル、という立ち位置となっている。

 

搭載インクは黒のみなのに対して、ボディは「無垢」や「茜空」などくすみのある和色という演出も面白い。ボール径0.38mmが4色(消炭=Fブラック、無垢=Fグレー、花霞=Fピンク、日向夏=Fイエロー)、0.5mmが3色(霜柱=Fブルー、葉雫=Fグリーン、茜空=Fレッド)。ちなみにリフィルは従来と共通なので、インク色・ボール径ともに好みで入れ替えが可能だ。

 

三菱鉛筆
ユニボール ワン F
0.5mm径/0.38mm径
各300円(税別)

 

先ほど300円帯に対して「見た目の高級感ではなく機能面でアップデート」と述べたが、とは言え定価120円(税別)の「ユニボール ワン」と比べると、約200円アップした分のルックスの向上は充分にあるだろう。

 

ゴムグリップを廃して先軸を延長したことでなめらかな流線型ボディとなり、ペン先端までの流れがスラッと非常にシャープな雰囲気になった。ワイヤークリップやノックノブなど、目立つパーツは従来と同じなのに、パッと見の印象はずいぶんリッチに感じられる。

 

↑右が「ユニボール ワン F」。先端から口金、軸へと、一続きに流れる流線型が美しい

 

そして機能面での最大の変更が、「スタビライザー機構」と呼ばれるパーツによる低重心化だ。先端からチラリと金属の口金が覗いているが、実はこの口金パーツはグリップ中ほどまで続いており、先端からグリップにかけての重量を稼いでいる。

 

この“グリップ中ほどまでが重い”という前掛かりな重量バランスが、非常に絶妙。重心の取れた位置(スイートスポット)で握ると、不快な重さは感じず、しっとりと吸い付くような握り心地となるのだ。なるほど、これは確かにスタビライザー(安定装置)だと納得させられた。

 

↑グリップまで貫通している金属製のスタビライザーパーツ。これだけでもずっしりとした重みがある

 

↑握るスイートスポットはグリップ中~後側。先側の持ち癖がある人だと、握り位置を矯正されるような感覚があるかもしれない

 

↑「ユニボールワン」(上)との重心位置の比較。10mm以上も低重心化しているのが分かる

 

このしっとりと吸い付くようなバランスによって、ペン先が指の動きにきれいに追随。さらに先端の金属化で寸法精度が上がったことで、リフィルのカチャカチャする先ブレを抑え込む効果(ゼブラ「ブレン」ほどではないが、ブレにくい)も加わり、とにかく書き心地が良い。

 

普段はボールペンの重量バランスなんか気にしたこともない、というユーザーでも、握ればまず「ん?なんか今までと違うぞ?」と気付くレベルで、これは体験的にかなり斬新な製品だと思われる。

 

↑ただ重いのではなく、安定感の高さを感じる。正直、これは体験してみて欲しい

 

書いていて感じたのは「コスト的に『ユニボール ワン』ではできなかったこと(シャープなデザインやスタビライザーの搭載)が、価格帯のステージをひとつ上げることで可能になったんだな」ということ。

 

もしかすると、三菱鉛筆が開発時にまず想定していた「ユニボール ワン」の完成形こそが、この「ユニボール ワン F」というモデルなのかもしれない。価格は上がっているものの、むしろ「これが300円台で買えていいの?」という驚きすらある仕上がり具合である。

 

“ラインナップ全部黒”の「ボールサインiD」も300円化

サクラクレパスから2021年10月下旬に発売された「ボールサインiD plus」も、注目の300円帯ボールペンだ。こちらも、先行して発売されている「ボールサインiD」のアップデートモデルという立ち位置となっている。

サクラクレパス
ボールサインiD plus
シルバー軸(0.4mm径)/ブラック軸(0.5mm径)
各350円(税別)

 

6色のカラーブラック系ゲルインクでラインナップを揃えたことで、人気の高い「ボールサインiD」だが、後ろ重心めのバランスや、やたらとツルツルしてグリップ感の弱いボディは、筆者個人として少し残念に感じていた。

 

ところが「ボールサインiD plus」として300円帯にステージを上げたことで、このネガティブをスパッと解決してしまったのである。

 

↑「ボールサインiD plus」(右)は先端視界を確保するためか、段差をつけて先を絞った口金が特徴的。軸と口金の結合部で段差が減っており、先持ち癖の人にも使いやすくなった

 

↑「ボールサインiD」(上)との重心位置の比較。なんと15mm近くも低重心になっている

 

↑口金は単体で約4.0gと、かなりズッシリ

 

バランスについては、先端をプラから金属の口金に変更することで低重心化。やや後ろ重心気味だった「ボールサインiD」と比べると、書き味がかなり良くなったように思う。先端だけに重みがかかるため、早書きをする際には多少振り回される感覚はあるが、使っているうちに慣れるだろう。

 

実は、口金による低重心化に関しては、「ボールサインiD」のデザインを担当したUOデザインから、口金を金属化する「ステンレス製先栓」というカスタムパーツが今年6月に発売されていたのである(しかもサクラクレパス公認)。デザインした事務所に続いて、メーカーも同じ方向でアップデートしてきたということはやはり、これが本来あるべきボールサインiDの完成形だった、と考えるべきだろう。

 

↑個人的にはこれが最高にありがたい、軸のグリップ力アップ

 

さらに、これまでツルツルだったボディには、全体にマットなゴム系の塗装が施された。実のところ、改善点としてはこちらの方がとても嬉しい。

 

なにしろ「ボールサインiD」は、手汗をかくと握るのがつらいレベルでツルツルしていたため、インク色などは非常に気に入っていたものの、夏場には使えないなぁと感じていたのである。対して、新たに塗装されたボディは手触りもしっとりしており、握った指先に気持ちの良い摩擦がかかるようになった。これなら安心して握れて、長時間筆記でも指の疲労が減るはず。

 

↑価格は150円以上も上がるが、書きやすさの点でplusを選ばない理由はない! と感じるほど優秀

 

ただし、残念なことがひとつ。「6色全て黒」が話題だった同シリーズだが、「ボールサインiD plus」ではカラーラインナップを絞り、ピュアブラック(ブラック)、ナイトブラック(ブルーブラック)、フォレストブラック(グリーンブラック)の3色のみとなってしまった。価格を上げるうえで人気の高い色に絞った、ということは理解できるが、ミステリアスブラック(パープルブラック)を愛用していた筆者としては、削り落とされちゃったなー、という寂しい気持ちにもなった。

 

もちろんリフィルは従来と共通なので、入れ替えてしまえば済む話ではあるのだけど……とはいえノックノブのパーツカラーと齟齬が出てしまうのは、もったいないところである。

 












 

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