韓国で一時、深刻な影響を及ぼした尿素水「アドブルー」の不足が日本に飛び火しています。いまのディーゼル車には必要不可欠な液体。物流に深刻な影響を及ぼしかねない問題は、解決に向かうのでしょうか。
「対岸の火事」では全然なかった韓国のアドブルー問題
「地元の部品商4、5件に聞いたけど、アドブルーはどこもないし、あったとしても価格が4倍くらいに高騰している。長引いたら大問題になるね」
こう話すのは、関東地方で法人顧客の多い自動車整備工場を経営する30代男性です。2021年12月現在、「アドブルー」と呼ばれる液体が全国的に不足しています。
アドブルーのタンクは青いキャップ(画像:sitthipongg/123RF)。
アドブルーは尿素水のこと。ディーゼルエンジンの排ガスを浄化するため、トラックなどでは燃料とは別のタンクに充填されます。いまのディーゼル車の多くは、このアドブルーが切れていると、エンジンの再始動ができなくなっていることから、物流はもちろん、除雪作業などにも大きく影響するといわれています。
10月頃には韓国でアドブルーの不足が大きく話題になりました。アドブルーは簡単にいうと石炭の副産物ですが、中国がオーストラリアからの石炭輸入を停止、さらに国内の炭鉱が水害で被災し石炭不足に陥ったことから、中国が尿素の輸出を制限しました。韓国は尿素の供給のほとんどを中国からの輸入に頼っていたため、深刻な事態になりました。
一方、この時期には、自国で生産できる日本は大丈夫、という報道もよく見られました。しかし、韓国と似たような状況が11月以降、日本でも起こっているわけです。
「特に地方から、価格が高騰し、手に入りづらいという声が多くなっており危機感を持っています。所管省庁である国土交通省にも窮状を伝えています」
全日本トラック協会は12月17日の時点でこう話し、今後の方策を検討しているといいます。
12月に入って以降、アドブルーの在庫のある店舗では、価格が通常の10倍程度になっているという報道も見られます。また、目立つのがフリマアプリやネットオークションなどへのアドブルーの高額出品。全日本トラック協会の担当者も「足りないところへ回るよう、お金儲け目的の転売はやめてほしい」と話します。
なぜ日本がアドブルー不足に陥っているのでしょうか。
アドブルー不足なぜ? いつ緩和?
経済産業省で石炭関連製品を所管する資源素材課は、次のように話します。
「10月中旬に中国から尿素の輸出が停止されたことと、国内最大手のメーカーが11月末まで定期点検のためプラントを停止していた時期が重なり、国内の需要に対して増産対応が難しくなっていました」
同課によると、メーカー各社には「最大限の増産を要請している」とのこと。また、販社も輸入先の確保に努めているそうです。
一方、フリマアプリなどで見られる高額出品については、「個人間取引アプリの事業者に聞くと、たとえば(2020年の)マスクの転売が目立ったころのような“爆発感”はありません」とのこと。「買い占めて転売しているというより、たまたま手元にある在庫を高値で出品している」という認識だといいます。
給油所のアドブルー供給ポイント。欧州の例(画像:bilanol/123RF)。
ただ、本来は個人間取引に出回らないようなものであるため、違和感があるという見方は、アプリ事業者のあいだで共通して持っているようです。経済産業省資源素材課は、一時的な現象であるため解消に向かうだろうとしつつも、転売対策には今後、事業者と連携していくといい、警戒感をにじませました。
とはいえ同課は、メーカーの増産や海外からの調達により、アドブルー不足は「1月には緩和される」と話します。