人間社会には、特権によって生み出される格差がたくさんあります。
たとえば、裕福な家系では、学校教育や仕事のコネ、親からの遺産相続など、社会経済的な優位性が得られます。
しかし、こうした特権の相続は、人間に限定されたものではないようです。
アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、ミルズ大学(Mills College)の研究チームはこのほど、富や資源の世代間相続が動物界にも広く存在することを明らかにしました。
その特権により、メンバー間の不平等が著しく助長されているとのことです。
研究は、12月7日付で学術誌『Behavioral Ecology』に掲載されています。
目次
- 動物界の「特権」とは?
動物界の「特権」とは?
動物における特権の概念は、研究者いわく、「継承された資源へのアクセスの差」を意味します。
言い換えれば、土地や食料、道具の知識といった、種の繁栄にとって重要な資源の相続のことです。
ある種の特権的なメンバーは、他のメンバーよりもこれらの資源へのアクセスを得ることができます。
一般にはあまり知られていませんが、研究チームが言うように、「動物社会にも驚くほど特権的な現象が存在する」という。
動物のある世代から次の世代に相続される資源は、巣や土地、食物、道具が主なものです。
こうした相続のプロセスは、昆虫から魚類、鳥類から霊長類に至るまで、さまざまな領域で起こっています。
たとえば、キタリスの親は、蓄えていたドングリや松ぼっくりを子どもに譲り渡します。
結果、リスの子どもたちの間で「適応度の差」が生じ、その効果は何世代にもわたって続くのです。
また、ある種のクマノミは、最も大きな(つまり安全な)イソギンチャクの中に避難する「権利」を継承し、このアクセスの差は、次世代の利益の格差をもたらします。
同様に、ライチョウのオスの子は、父親が近くにいると、競争的な求愛行動で優先的な位置を占めることができます。
このため、父親がいなくなったオスの競争相手と比べて、より良い交尾の機会を得られるのです。
それから、ブチハイエナの子どもは、母親から社会的地位を受け継ぎ、食料を得る際に優先権を得られます。
その結果、”特権的な”ハイエナの家族は時間とともに大きくなるのに対し、”持たざる者”の家族は数が減り、しまいには全滅のリスクも高くなるのです。
同様のパターンは昆虫にも存在し、女王蜂の巣を受け継いだメスは、そうでないメスに比べ、子孫を残す可能性が高くなっています。
さらに、霊長類では、チンパンジーやオマキザルの一部の種が、親から石のナッツを割る道具を受け継ぎます。
これらの特権的な霊長類は、主要な食糧資源へのアクセスだけでなく、貴重な社会的情報(この場合は道具の使い方)の習得といった点で圧倒的に有利になるのです。
チームは「相続による様々なメリットは、複数の世代にわたって複合的に作用するため、優位性は世代とともにさらに加速される」と指摘しています。
こうした特権の理解は非常に重要です。
最近の研究では、人間社会と同様に、動物種内の不平等が、健康や生存といった結果に悪影響を及ぼすことが明らかになりつつあります。
これは「人間を含む多くの社会的動物において、富と資源へのアクセスがいかに幸福を支配しているかの証明である」という。
また将来的には、動物界の特権と相続のメカニズムを深く知ることで、人間社会についても何らかの貴重な知見が得られると考えられます。
平等な権利は、生物が社会性を持った時点で、消え去るのかもしれません。
参考文献
New study finds that “privilege” exists in the animal kingdom too
New study finds that “privilege” exists in the animal kingdom too
元論文
The nature of privilege: intergenerational wealth in animal societies
https://academic.oup.com/beheco/advance-article/doi/10.1093/beheco/arab137/6454996