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2021年、ティム・クック氏が、故スティーブ・ジョブズ氏の後を継ぎ、AppleのCEOに就任してから10年を迎えました。当初の期待を良い意味で裏切り、クックCEOはこれまでの10年で素晴らしい業績を達成。同社は2018年に民間企業として世界で初めて時価総額が1兆ドル(約110兆円※)を超え、2021年8月には2兆5000億ドル(約275兆円)を突破。クックCEOはAppleを時価総額世界一の企業に成長させました。しかし、その裏で同社がさまざまな問題を抱えていることも事実。先日のApple EventでクックCEOが言わなかったことは?

※1ドル=約110円で換算(2021年9月17日時点)

↑さまざまな問題が顕在化してきたApple

 

1: Apple Payは使ってる?

9月上旬に発表された、金融やフィンテックなどの専門メディアPYMNTSの調査で、Apple Payのユーザー数が伸び悩んでいることが明らかになりました。アメリカの消費者3671人に行われた調査から、iPhoneでApple Payを設定している人のうち93.9%が店頭での買い物にApple Payを使用していないとのことです。

 

アメリカでApple Payがリリースされたのは、2014年10月。それから1年後、スマホ決済におけるApple Pay利用率は5.1%でしたが、2021年の利用率は6.1%と、わずかな上昇にとどまっています。

 

PYMNTSでは、アメリカの金融機関が非接触型のクレジットカードやデビットカードの普及を始めたことが、Apple Payの利用率が伸びていない原因と分析。コロナ禍で非接触の決済方法の需要が高まりましたが、消費者にとっては普段から使っているクレジットカードやデビットカードが、そのまま非接触システムになったので、そちらを利用するほうが便利なようです。

 

2: 競争を抑制している?

最近Appleは、人気ゲーム『フォートナイト』の開発元であるEpic Gamesとの訴訟問題でヘッドラインを賑わせています。アプリのディベロッパーはiPhoneやiPadでアプリを配信する際、30%の手数料をとるApp Storeを経由しなければならず、そのうえ、アプリ内の課金についても30%の手数料がかかります。同社はこの仕組みが競争を制限しているとして、反トラスト法(独占禁止法)違反で訴えたのです。

 

これに対してカリフォルニア州の裁判所は先日、App Storeは独占禁止法に違反していないと判断し、Epic Games側の訴えを退ける判決を下しました。しかしEpic Gamesはこれを不服とし、上訴しています。

 

Epic Gamesは、アプリ配信やアプリ内課金でAppleが徴収する30%の手数料を「Apple税」と呼び、業界内でも共感を呼んでいるそう。世界で3億5000万人を超えるプレーヤー数を誇る超人気ゲームとAppleの裁判の行方は、これからも注目を集めることは間違いないでしょう。

 

3: 従業員による「#AppleToo」運動

Apple社内でも新たな問題が起きています。それが、従業員が労働環境について抗議する活動です。上司からハラスメントを受けた従業員が声を上げ、それによって全米労働関係委員会が調査を行う事態に発展しています。さらにAppleに対して労働環境の変化を求める従業員の声を集める「#AppleToo」サイトが立ち上げられ、人種などの差別、賃金格差、秘密主義などの問題が浮き彫りになっています。

 

4: まだ成長できる?

アメリカでは、企業が訴訟問題を抱えることは決して珍しいことではありません。ただし、現在のAppleは行き詰まっている感もあり、そのような状況で、このような問題が顕在化しています。

 

先日のApple Eventに対して、Apple最大の魅力である「革新性」がなくなりつつあるという見方があります。このような指摘は「これからAppleは、どうやって成長していくのか?」という本質的な問題につながります。Apple製品は漸進的な発展を遂げていますが、スマートグラスや自動運転車といった「次の大きな開発」は難航している模様。同社がこれからも業界のトップでいるためには、将来iPhoneみたいなイノベーションを再び生み出す必要があると言われています。

 

また、Appleは地政学的な問題も抱えています。設計を除けば、Apple製品の多くは中国で作られています。2000年〜2010年代のグローバリゼーションが全盛の時代に、Appleは中国でサプライチェーンを構築しましたが、現在、同社はそれを本国アメリカに戻すことを進めています。それでも中国はAppleにとって非常に重要な国。米中の対立が深まれば、同社と中国の関係にも影響を及ぼすと考えられます。

 

これまでクックCEOは、故ジョブス氏が生み出したiPhoneなどの事業を維持しつつ、見事に発展させてきましたが、上記4つの問題は、Appleが今後、本格的に直面する問題と言えます。故ジョブス氏が1997年に倒産直前だったAppleに復帰し、同社が再生してから24年が経過。会社の寿命30年説で考えれば、これらの問題は差し迫っていると言えるかもしれません。英経済誌The Economistは、クックCEOはこれまでの10年間、大きな成功を収め、故ジョブス氏の「偉大な後継者」になったと誉めつつ、「次の10年は難しいだろう」と予測しています。「創業は易く、守成は難し」と言いますが、クックCEOの真価が問われるのは、これからかもしれません。