京都大が2年後に世界初となる木造の人工衛星「LignoSat」(リグノサット)を打ち上げる構想を進めている。まずは2021年12月、木材を宇宙に飛ばして耐久性を確認する実験を始める予定だ。主流のアルミニウム製人工衛星は大気圏突入時に大気汚染を引き起こしており、突入時に完全に燃え尽きる木材に着目して問題を解決しようという試み。環境に優しい木材が解決の一助となるか、注目されている。
「木造なら大気圏突入時に完全に燃え尽きる。プロジェクトが成功すれば、環境に優しい人工衛星の開発につながるはずだ」
8月下旬、京大で開かれた計画の発表で、住友林業を含むプロジェクトチームのメンバーで、宇宙飛行士として宇宙に滞在した経験がある土井隆雄特定教授は強調した。
リグノサットは、長さ数センチのアンテナや電子回路基板を収納する木造の立方体(各辺10cm)の超小型衛星だ。打ち上げ計画では、23年に国際宇宙ステーション(ISS)から高度約400kmの軌道に放ち、3〜8カ月かけて実用性を検証した後に大気圏に突入させる。チームによると、ノルウェーの民間会社が同様の木造人工衛星の打ち上げ計画を明らかにしている。
40年後に影響顕在化も
背景にあるのは、従来の人工衛星に使われているアルミニウムなどの金属がもたらす大気汚染だ。
宇宙空間は温度変化が激しく、人工衛星は強い放射線を浴びることもある。アルミはそんな過酷な環境にも対応できる素材として多用されてきた。しかし、人工衛星が役割を終えて大気圏に突入する際、酸化したアルミニウムの粒子「アルミナ」が大量に発生。大気中に漂う粒子が太陽光を反射し、気温が下がったり異常気象が起きたりする恐れがあると懸念されている。
「現在の人工衛星の数では地球環境に影響はないが、毎年1.3倍ずつ衛星が増えた場合、40年後には影響が生じる可能性がある」とチームは指摘する。
人工衛星をはじめとする宇宙産業は、ロケットの打ち上げ費用が安価になったことや機器の小型化・高性能化により、通信サービスや物流分野での新ビジネスが次々と誕生。打ち上げられる人工衛星の数も増加している。日本航空宇宙工業会の統計では、13年以降に打ち上げられた人工衛星は年間200機以上だったが、17年以降は毎年400機超に。一方で、大気汚染や宇宙ゴミの増加といった問題も一層懸念される。
半年間の劣化分析へ
チームによると、木造の場合、大気圏突入時に完全に燃え尽きるため、水蒸気と二酸化炭素以外の有害物質がほとんど発生しない。木材は入手しやすいほか、電磁波を通すため、アンテナなどを内部に収納することが可能だ。
ただ、過酷な環境下の宇宙空間では木材の劣化が早まる可能性も。チームが12月に宇宙で行う実験では、ヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバの木材片をISSの外で半年間にわたって宇宙空間に触れさせ、半年後に回収して劣化具合や強度を分析する。
土井特定教授は「木は人間が育てることができ、入手も容易だ。宇宙でも使えるのか、実験を通して可能性を探りたい」と話した。(秋山紀浩)