KDDIは東京混声合唱団とともに、2021年NHK全国学校音楽コンクール(以下・Nコン2021)の課題曲を収録した“音と映像で近づける”デジタル教材コンテンツを、「新音楽視聴体験 音のVR」アプリで公開した。
「Nコン」は多くの小・中・高等学校の合唱部が目指す大会のひとつだが、昨年は新型コロナウイルスの影響で残念ながら中止となってしまった。その2年ぶりの開催に、「Nコン」の課題曲をコンサートで発表している「東京混声合唱団」と、「音のVR」技術をもつKDDIが共鳴し、学生がひとりでも自宅でもスマホで練習ができる合唱教材をつくることになった。
「新音楽視聴体験 音のVR」アプリのダウンロードはこちら
※2021年6月21日現在、iOSのみでの配信となります。
今回の収録で指揮を執ったのは原田慶太楼さん。欧米を中心に活動し、2020年シーズンのアメリカジョージア州サヴァンナ・フィルハーモニックの音楽&芸術監督を経て、今季より東京交響楽団正指揮者に就任する若きマエストロだ。そして東京混声合唱団のコンサートでも数多くの伴奏を務めるピアニストの鈴木慎崇さん。
原田さん、東京混声合唱団からは、小・中・高等学校の各課題曲を練習するうえでのアドバイスもいただいた。参考にして、ぜひ「Nコン2021」を楽しんでください。
「音のVR」とは
「音のVR」とは、KDDI総合研究所による独自の技術。スマホやタブレットで専用アプリを使い、演奏中の好きなパートを画面上でピンチアウト(拡大)すると、映像と同時に、その歌声や楽器の音色にも近づいて視聴することができるというもの。KDDIの独自技術だが、au以外のスマホでも体験いただける。ただし、今のところiPhone、iPadのみ。
ステージ全体の映像を見れば、合唱曲の渾然一体となったハーモニーを聴くことができ、それぞれのパートをズームアップすれば、合唱全体を聴きながらそのパートの歌声に近づいて聴くことができる。合唱している舞台上を自由に移動しながら、それぞれの歌声に耳を傾けるような感覚を体験できるのだ。
つまり、プロ合唱団が歌う旋律を聴きながら合唱練習することができるのである。
「音のVR」の収録は、周囲360度の音をすべて録音できるマイクと、周囲360度の映像をすべて収録するVRカメラで行う。マイクとカメラをスタンドで一体化した機材をステージの中央にセットし、それを取り囲むようにして歌うのである。
「Nコン2021」小・中・高等学校課題曲へのアドバイス
●高等学校の部「彼方のノック」
作詞:辻村深月 作曲:土田豊貴
気鋭の合唱作曲家・土田豊貴さんの重層的で繊細なメロディーに乗せて歌うのは、直木賞作家・辻村深月さんの詞。実際に描かれている言葉の裏側に様々なイメージが秘められた1曲だ。
原田さんが導入の大切さを指摘する。
「まずイントロ。ここの弾き方で、実は曲全体の世界観が決定づけられます。きちんと先生と会話して、この曲で伝えたいのが『希望』なのか否かを考えながら進めてください」
また、歌詞をいかに解釈するかでも表現に違いが出るとも。
実際に歌った東京混声合唱団のテナー平野太一朗さんも歌詞の解釈の重要性を語る。
「視点の重なりや変化が面白い曲です。詞に出てくる“わたし・私・僕・あなた”は実際の存在なのか、不特定の誰かなのか、それとも自分がもつ人格のひとつなのか……歌詞の一つひとつにあらゆる解釈を認めていくことで、より完成度の高い歌になると思います」
●中学校の部「足跡(あしあと)」
作詞:Little Glee Monster 作曲:KOUDAI IWATSUBO、Carlos K. 編曲:上田真樹
女性ボーカルグループ・Little Glee Monsterが描いたのは、不安ななかでも歩みを止めずに進んでいこうとする若者の姿。彼女たちの中学時代を思い返した詞を、孤独、不安、期待、希望など人生に入り交じる様々な要素を音色として表現したメロディーに乗せて。
指揮者の原田さんは「『足跡』は歌詞がすごくたくさんあるので、言葉をはっきりと発音できていることがキーポイントになります。メロディーやハーモニーの美しさはもちろんのこと、歌詞の中身をきちんと伝えないと、曲の魅力は半減すると思います」とアドバイス。
この曲を歌った東京混声合唱団のバス德永祐一さんは、毎年地元の中学校でNコンの指導をしているそう。そして、やはり「注意すべきは歌詞」だという。
「歌詞の感じ方は人それぞれですが、そこでどう感じたか、ということをきちんと自分で把握することが大事です。曲に関しては、メロディーがすごく滑らかで、あんまり跳躍する部分がなく進んでいく。その気持ちよさを存分に感じて歌ってくださいね」
●小学校の部「好奇心のとびら」
作詞:原ゆたか 作曲:田中公平 編曲:横山裕美子
児童文学の超ヒット作「かいけつゾロリ」の作者・原ゆたかさんが詞を担当し、アニメ「ワンピース」の主題歌「ウィーアー」を手がけた田中公平さんが曲を担当。躍動感にあふれ、楽しいリズムと個性的な和声に彩られた1曲。
指揮者の原田さんによると、この曲のキーポイントはまさに「ワクワク感とドキドキ感」。ピアノの音色で作り出していくことが重要なのだとか。歌う側は、歌はもちろんのこと、手足や表情で感情を表していこうとアドバイス。
この曲を歌った東京混声合唱団のソプラノ松崎ささらさんも、この曲の「ノリ」を生かすことをおすすめしてくれた。
「リズミカルな曲なので、そのリズムにしっかり乗ると楽しいです。最後に『バーン!』っていうキメのフレーズがあって、その着地点に向かって歌っていきます。楽しんで歌いながら、同時に楽譜をよく見て、表現を追求していってほしいですね」
先端テクノロジーで人と人の心をつなぐ
KDDIは東京混声合唱団と連携しつつ、昨年春から、満足に歌う環境が得られない合唱部のみなさんにできることはないか、できることを模索してきた。「音のVR」の開発者であるKDDI総合研究所の堀内俊治に話を聞いた。
「昨年の3月、全国の卒業生の皆さんに卒業合唱曲をお届けして以来、東京混声合唱団の皆さんと『音のVR』を活用した共同制作を行ってきました。
ステイホーム期間中のリモート合唱や新日本フィルハーモニー交響楽団とのバーチャルコンサート、中学・高校合唱部の皆さんとのリモート合唱のライブ配信、そして藤巻亮太さんと高校生の皆さんとのリモート合唱など、コロナ禍による社会課題を解決したい、歌で勇気づけたいという思いで取り組んできました。
今回は、昨年中止となった合唱コンクールの開催決定を受けて、学生の皆さんが練習できる教材を作ろうと自然に決まりました。3作品とも場の響きは残しつつ、各パートに近づいたときにはそれぞれの歌唱が際立つように工夫しています。
練習も十分にできない状況だろうと思います。『音のVR』アプリを活用いただき、ひとりでもみんなと一緒の感覚で、皆さんの練習の一助になりましたら幸いです。今後も、通信技術や五感技術を活用し、お客さまに寄り添った新しい体験価値を生み出していきたいと考えています」
いつでもどこでも、ひとりでも、自宅でも、音のVRを活用すれば、みんなと一緒にいて声を合わせているかのような体験ができる。合唱のハーモニーと併せてそれぞれのパートに近づいて聴くことができるので、自主練でも曲全体のなかで自分のパートの立ち位置を把握しながら歌うことができる。合唱練習の新たな境地を開くことになるのが、音のVRである。
KDDIは通信のチカラで、多くの人々が生活の不安や困難を減らし、心を満たせるような、これまでにない体験価値を提供し、社会の持続的な成長・発展を目指していく。