果てなきロマン。
1983年に、天文学者マイケル・ロワン=ロビンソン氏は、太陽系の10番目の惑星(冥王星がまだ惑星だったので)を探すために、当時最新鋭だった赤外線天文衛星IRASを使って調査を行ないました。
ロワン=ロビンソン氏の研究は残念ながら空振りに終わり、1991年頃には第10惑星はおそらく存在していないと結論づけるほかありませんでした。少なくとも、彼が探していた天空の領域のかぎりでは。
その後も未知の惑星探しはほかの研究者によって続けられ、「プラネット・ナイン(第9惑星)」が隠れていそうなところが調べられてきました。カイパーベルト天体群の一部に不可思議な挙動が見られるのは、惑星か、惑星ぐらい巨大な質量と重力を持ったなにかが太陽系の外縁に存在しているからに違いない…そう考える宇宙物理学者が少なからずいたからです。
そうやって脈々と受け継がれてきたプラネット・ナイン探しに、ここにきてロワン=ロビンソン氏が新たな一石を投じました。これまで調べたことのなかった宇宙の範囲に狙いを定め、あらためて38年前のIRASデータを見返してみたところ、プラネット・ナインとおぼしき赤外線源が3つ見つかったそうなのです。
ロワン=ロビンソン氏の研究は、次号の「王立天文学会月報(Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)」に掲載される予定となっており、現在プレプリントサーバーのarXiv上にもホストされています。
ただし、可能性としてはかなり低いかも…とは本人談。ロワン=ロビンソン氏は、一体何を見つけたのでしょうか。
海王星の軌道を乱す「なにか」
その前に、プラネット・ナインについてちょっとだけ。
1781年、かつて太陽系の惑星が6つしかないと思われていた時代に、まずは第7惑星・天王星が発見されました。すると、天王星の観測された位置が軌道計算から予想される位置とズレていたため、もしかしたら未知の第8惑星が天王星の軌道に影響を及ぼしているのでは? と期待されるようになりました。
この期待どおりに第8惑星・海王星が発見されたのは1846年のこと。そして、海王星の軌道にも同じようにズレが生じていることから、もうひとつ惑星が存在しているかもしれないと予想され、1930年に第9惑星・冥王星が発見されました(のちに準惑星に降格)。
でも、残念ながら冥王星だけではまだ海王星の軌道のズレを完全に説明しきれなかったんですね。それで今でも真の第9惑星、プラネット・ナインが存在してるんじゃないか? と期待されているわけです。プラネット・ナインの質量は地球の数倍で、公転周期は数千年だと言われています。
おもしろいのは、プラネット・ナインは必ずしも惑星だとは限らないそうで、デブリ円盤なんじゃないかとか、ボウリング球ぐらいのブラックホールなんじゃないかとか、諸説あるようです。
天空を移動する「なにか」
で、ロワン=ロビンソン氏の研究でしたね。
彼は40年近く前の研究を改めて精査し、1983年夏の観測データに注目しました。そのうち3つの赤外線源が、天空を移動する何某かの天体をほのめかしていたというのです。
ただし、赤外線源は3つとも銀河面に対して低い位置にあったため、IRASの赤外線センサーには宇宙塵やら星雲やら、たくさんの赤外線源からの光も届いていてかなりの混線状態だった模様。データが汚染されていた可能性もあります。
要するに、この点のいずれかがプラネット・ナインだという可能性はかなり低いってことらしいです。ロワン=ロビンソン氏本人もそのことは重々承知で、
IRASの検出精度の低さを所与として、さらに探索計画の限界、また天空の位置からして赤外線検出には非常に難しい場所にあったことも加味すると、今回挙げられた候補が真のプラネット・ナインである可能性は圧倒的なものではない。
と非常にイギリスっぽい言い方でコメントしています。
でもプラネット・ナインを諦めるのはまだ早い。だって、実際問題としてまだ海王星の軌道のズレを数学的に説明しきれていないわけですからね。
1781年に天王星を発見したハーシェルは、自作の反射望遠鏡を使ったそうです。それから240年経った今、私たちには天文台も、宇宙望遠鏡も、宇宙から届くシグナルを自動検出してくれるAI技術だってあります。現在チリに建設中のベラ・ルービン天文台には、人類史上最大のデジタルカメラが搭載される予定です。
これだけ観測技術が進展しているのですから、きっとそのうちプラネット・ナインの尻尾をつかめるはず。「そのうち」が「すぐ」だったら嬉しいんですけどね。
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