この話題は一般のメディアでも大々的に取り上げられると思うので、「隈研吾建築図鑑の執筆者」×「早大卒」である私(宮沢)だから書けることを中心にリポートする。本日(2021年9月22日)午後、報道会見が行われた「早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)」だ。
会見には村上春樹氏、国際文学館を支援する柳井正氏(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)、建物の改修設計を担った隈研吾氏(建築家、本学特命教授)が出席した。柳井氏は今回の費用12億円を全額寄付した。柳井氏と村上氏は早大の同級生。
プロジェクトの全体像は、10月1日(金)から同館で始まる企画展「建築のなかの文学、文学のなかの建築」の説明文(下記の太字部)を読んでほしい。職業柄、こういう前書きを読むと赤を入れたくなるのだが、この文章は国際文学館だけあって、分かりやすく、頭にとどまる。
どこにでもある“普通”の建物だった早稲田キャンパス旧4号館。村上春樹の作品世界との呼応を意図する建築コンセプトのもと、建築家・隈研吾氏(1954-)によるリノベーションを経て、大きく様変わりしました。象徴的な流線形をした外観トンネルや階段本棚、家具や館内サインのひとつひとつに至るまで、何度も話し合いが重ねられ、その都度、方向転換をしながら進められてきました。
そう、既存の旧4号館は“普通”の建物だった。私が三十数年前に在籍していた政治経済学部の建物で、研究室などの小さな部屋が集まっていた。講義に使っていた旧3号館は2014年に建て替えられて、立派な建物になっている。旧4号館は南側の旧3号館と空中ブリッジでつながっていたらしいが、記憶がない。あまりに普通の建物だった。企画展で展示されている工事前の写真を見れば、その普通さが分かる。
なぜ、さほど歴史的価値があるとも思えないこの建物を、建て替えではなく改修して使うのか。案内してくれた館の職員に尋ねると、建物が敷地の際に立っており、建て替えると斜線制限などにより、現在と同規模のものは建たないという。なるほど、そういうことか。
建物は過去に耐震補強しており、今回の工事に当たっても、新設した吹き抜けまわりを補強している。だから耐震上問題はない。今回の構造設計は金箱構造設計事務所だ。
それにしても、このどうということのない建物をリノベーションして「村上春樹」の名にふさわしい建築に変えるというのはかなりの難題だ。普通なら気合が入り過ぎて、全部変えたくなりそうだ。
私は隈氏をリノベーションの名手として高く評価している。隈氏の新築は正直、当たりはずれがあるが、リノベーションははずれが少ない。このプロジェクトもなかなか。OBの1人として異論はない。特に「うまいな」と思うのは、既存の建物の“普通さ”を生かしている点だ。こんな流れでプロジェクトは進んだ。
外装の“波”に使っている木材はアコヤ材。今回調べて知ったのだが、アコヤというのは樹種ではないようだ。木材に酢酸を用いてアセチル化を起こすことにより、耐腐性能を飛躍的に向上させたものを言う。樹種としては主にマツ。国中に水路が張り巡らされているオランダでは、水辺にアコヤを多用しているという。
では、館内の村上春樹ワールドへ
内部を地下1階から上へと見ていこう。まずは中央の大階段で地下1階に降りる。内部のアーチはアコヤ材ではなく、ナラ材。
2階の企画展「建築のなかの文学、文学のなかの建築」は10月1日から2022年2月4日まで。入場無料。詳細はこちら。
隈事務所のプロジェクトはサインもいい。ここはこんな感じ。
ついでに大隈会館のパネル展示も…
ところで、この施設ができた早稲田大学の早稲田キャンパスには、道路を挟んだ東側(大隈講堂側)に大隈会館という施設がある。この施設の1階供用部分に、現在、こんなパネル展示コーナーができている。
ここに、宮沢が「早稲田学報」に描いたイラストのパネルが! ね、本当に早大卒でしょ。
入るのにちょっと勇気がいるが、展示は誰でも見られる。展示期間は未定だが、当面は展示されているそうなので、時間に余裕のある人はついでに見てほしい。(宮沢洋)
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