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 自民党総裁選で、各候補者が政策を打ち出しているが、その中には霞が関に新しい組織をつくることが含まれている。

 岸田文雄氏は子ども庁や健康危機管理庁、河野太郎氏は厚生労働省の分割、高市早苗氏は情報通信省と環境エネルギー省、野田聖子氏は子ども庁を訴えるなどしている。これらの省庁再編は本気なのだろうか。中央省庁再編のあり方を考える。

「巨大官庁」を新しく作るのか

 最近の新しい省庁は、去る9月1日に発足したデジタル庁である。デジタル庁の新設は、日本のデジタル敗戦を挽回するためにも評価され、政治的にアピールできたことから、これにあやかろうと各候補者が省庁再編を訴えているように見える。

 提案されている新しい組織が直ちに問題だというつもりはないが、こうした組織とデジタル庁とは少々違う。デジタル庁は、従来の内閣官房IT総合戦略室を衣替えした組織である。組織の看板が変わり、人員が拡充されるが、法令上の権限は基本的に従来と同じであり、大臣が新しく生まれたわけでもない。

 また、これまで行政情報化を推進してきた総務省を除けば、各省庁はそれぞれの業務を推進するためにITを活用する立場であり、基本的には横並びである。総務省もデジタル庁の母体となるIT総合戦略室と同様の調整官庁の立場である。

 他方、今提案されている組織は性質が異なる。例えば、子ども庁について考えよう。関連する各種施策(保育所、幼稚園、児童手当、少子化対策、貧困対策など)は、内閣府、文部科学省、厚生労働省が主に所管している。

 また、子育てを支援するためには、大人の働き方・税制・虐待・犯罪取り締まりなど、子ども以外に関するさまざまな施策と連携する必要もある。

 縦割り是正のために、これら関連する施策を担当する現在の部局やさまざまな対策本部(子どもの貧困対策会議など)を全て集めて新しい巨大官庁をつくるのだろうか。

 子どもに関する政策の問題の一つは「幼保一元化」である。幼稚園と保育所は、同じ幼児を対象とするにもかかわらず、歴史的な経緯や子育ての哲学の相違などから、運営基準や職員の資格が異なり、所管官庁も、前者の文科省と後者の厚労省に分かれている。

 これを一元化しようという試みが1990年代以降議論されてきた。これは両省の縄張り争いといった単純な話ではなく、その背後にいる関係業界とその応援団たる自民党の族議員の対立なのだ。

 この対立は何十年にわたるものであり、さんざん議論した上で導入されたのが、幼保一体化施設である「認定こども園」である。と言っても、幼稚園と保育園が統合されたのではなく、この二つを残したままで第3の施設が導入されたのだ。その所管省庁は、文科省でも厚労省でもなく、内閣府である。この新しい施設の導入によって、幼児への公的サービスはますます複雑になるとともに、新しいプレーヤーとして内閣府が加わったため、従来の2者の調整から3者の調整になった。屋上屋を重ねたといってもよい。

 情報通信省や環境エネルギー省などもこれまで議論はあったが、立ち消えになっている。関係する省庁のみならず、業界と族議員が反対したからである。各候補者は、衆議院選挙を控えて、関係業界や族議員の抵抗を抑えて新しい組織をつくるほどの強い意志はあるだろうか。