2021年12月7日から9日までの3日間「第2回日アフリカ官民経済フォーラム」が開催されました。経済産業省、ケニア政府、日本貿易振興機構(JETRO)の共同開催による同フォーラムは、日本とアメリカ双方の官民ハイレベルが集まり、貿易・投資、インフラ、エネルギー等の各分野において、具体的なビジネス成果につなげていくための工夫の在り方を議論する場です。さまざまな分野で経験を積んだ専門家による洞察に富んだプレゼンテーション、パネルディスカッションが行われました。
<プログラム[各75〜120分]>
【DAY 1】
Panel 1:COVID-19 でも加速するアフリカビジネスのスタートアップ企業の可能性
Panel 2:AfCFTAの最新動向と、ビジネスからの期待
Panel 3:アフリカの産業化への日本の貢献と日本への期待【DAY 2】
Panel 4:アフリカの電化とクリーンエネルギー導入、通信デジタルインフラ整備への貢献
Panel 5:民間投資の拡大に向けた官民連携の取り組み
MOU(了解覚書)セレモニー【DAY 3】
Panel discussion:日アフリカビジネスリーダーズフォーラム
[1日目]Panel 1:スタートアップ企業の可能性を探る
初日の7日は、最初にJETRO理事・中條一哉氏、ケニア投資庁のOlivia RACHIER氏の開会挨拶から始まりました。Panel 1のセッションは、「COVID-19でも加速するアフリカビジネスのスタートアップ企業の可能性」がテーマです。前半は、起業家の視点でアフリカでのビジネスの可能性が語られました。
まず、JICAの発展途上国の起業家支援活動「Project NINJA」が取り上げられ、そこで実施されたアフリカでのビジネスコンテストへ寄せられたアイデアからトレンドを分析。応募案件は、食品農業分野が30%、保険医療分野が16%と多く、フィンテック分野に資金が集まるアフリカのスタートアップ企業向け投資と、起業家のアプローチの違いが浮き彫りとなりました。
スタートアップ企業が注目するのは、農業と保険医療セクター
続いてその農業と保険医療分野のスタートアップ企業3社がプレゼンテーション。1社目は、ケニアの農業物流に変革をもたらしたTwiga foodsです。アフリカでは多くの小規模小売業者が分散しており、消費者に届くまでに何層もの仲介業者が挟まっています。Twiga foodsは、このフードサプライチェーンの非効率をICTの技術で解決し、より廉価な商品を消費者に届けることに成功しました。成長の要因の一つには、ケニアで携帯電話の通信回線とM-Pesaと呼ばれる電子決済サービスが普及していた点が挙げられましたが、CEOのPeter NJONJO氏は、「通信会社はアフリカ大陸全体で事業の多角化を進めており、他のアフリカ諸国でも向こう2、3年のうちにモバイルマネーをはじめとする多様なサービスが提供されるだろう」と予測しています。
2社目には、前日6日に経済産業省とアイ・シー・ネットの共催で行われたサイドイベントで成果普及セミナーが行われた「技術協力活用型・新興国市場開拓事業(通称:飛びだせJapan!)」に採択された日本の企業キャスタリアが登壇。タンザニアで事業を展開しています。キャスタリアが開発したのは、妊婦の電子カルテと情報提供機能が一体化したスマートフォンアプリ。アプリ上で助産婦が入力する診察カルテをクラウド上に保管でき、妊婦に対しても妊娠周期ごとに必要となる知識や注意点などを配信できるサービスです。
「タンザニアは、急速に増える人口に対し医療の提供機会が足りていません。妊娠出産を契機に亡くなる女性の数はいまだ非常に高い。病院での妊婦検診に時間がかかるため病院を訪れず、必要な知識が得られないので自身や胎児の健康を害してしまいます」とキャスタリアの鈴木南美氏。こうした状況を改善するため2022年夏のアプリ運用開始に向け準備中です。鈴木氏は「アフリカにおけるスマートフォンの普及率は確実に広がっています。我々のような小さな会社でもメディカルの領域に進出できる、それこそがアフリカで事業を行う最大の可能性であり魅力だと実感しています」と力を込めました。
3社目に登壇した日本植物燃料は、先の2社が行う物流改善やヘルステックといったものを包括する「農村のコミュニティ開発」にまで視野を広げています。日本植物燃料は、アフリカの農村部でバイオ燃料事業に参入したことを皮切りに、農民の組合を立ち上げ、フードバリューチェーンの改善を進めました。さらに電子マネーを導入し、日本や現地の企業と現地農家グループをつなぐ、作物、資材、金融、技術の売買マッチングサイト「電子農協プラットフォーム」のサービスを開始。今後は、こうしてできた電子マネー経済圏を用いて、農民の暮らし全体を向上させるマルチソリューションの実現を目指しています。
コロナ禍で加速するデジタル化が、全ての分野でトレンドに
後半のパネルディスカッションでは、投資家の視点からアフリカ市場の可能性が語られました。技術イノベーションに対する投資が急増するアフリカでは、ナイジェリア、ケニア、南アフリカ、エジプトがBIG4と呼ばれ市場を支配しています。特にナイジェリアは、スタートアップ企業のエコシステムが機能する最大の市場です。
「特にフィンテック分野は、全体の50%を占めます。次にヘルスケア、eコマース分野が続きます。コロナ禍で世界的にデジタル化が加速しましたが、ケニアやアフリカも例外ではありません。ケニアでは遠隔医療も可能になりました。取引のデジタル化というトレンドは全ての分野で起こっています」と新興国での投資育成事業を行うAAICの石田氏。
アフリカの投資会社からは、「40億ドルがアフリカのベンチャーキャピタル向けに資金調達されていますが、60〜70%が欧米からの資金。日本の投資家や企業も本格的に参入すれば、アフリカのマーケットについて学習できます」と日本への期待を述べました。
最後に、モデレーターを務めたアフリカビジネス協議会事務局長の羽田裕氏が「道路がつながる前に通信網がつながり、歴史上経験のない全く新しいパターンの経済発展が生まれるだろう」と話しセッションは終了しました。
[1日目]Panel 2&3:アフリカ大陸の統合は不可欠。巨大市場が寄せる日本への期待
続く2つのセッションでは、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の最新動向やアフリカ産業化に向けた日本への期待がテーマとなりました。AfCFTAには、アフリカ連合(AU)55カ国中54カ国が署名、39カ国が加盟し、インフラの連結や人々の自由な移動も進んでいます。特に製造業の成長にとっては、生産拠点から人口の多い市場に製品を提供できることは大きな利点です。より活発に投資や貿易を行うためにアフリカ大陸の統合は不可欠であり、自由貿易協定が重要な役割を果たすことが述べられました。
また、アフリカの産業化を進める上での人材開発と技術移転の重要性も、多くのスピーカーから語られました。電力供給などのインフラ整備や物流強化、生産性を高めるための機械化を進めると同時に、途上国の能力構築のための教育や職業訓練が、日本の官民とアフリカ各国政府との協力によって進められることが求められています。「アフリカ大陸の統合により投資環境を整え、産業化を進めるためにも日本から学ぶ必要がある」とPanel 3のモデレーターを務めた京都精華大学学長ウスビ・サコ氏が語りセッションが締めくくられました。
[2日目]Panel 4:アフリカのデジタルインフラ整備は、電化無くして実現しない
2日目の最初のセッションPanel 4では、前半にアフリカの電化とグリーンエネルギー導入について、後半では通信デジタルインフラ整備をテーマにプレゼンテーションが行われました。アフリカでは人口の56%にあたる6億人の人々が電力にアクセスできず、インターネットにも6割の人々がまだ接続されていません。デジタルインフラの整備だけでなく、経済成長を遂げて人々の生活の質を高めるためには安定的な電力供給が必須です。
オフグリッドで電力を地産地消。分散化が電化の鍵に
まず国の電力系統が弱いという課題を解決する取り組みとして「オフグリッドによる電力開発」をテーマにプレゼンテーションが行われました。ポイントは小規模発電です。アフリカの水力発電企業「Virunga Power」は小規模の水力発電所の運用により、電力が行き届かない地域の電力需要を満たすとともに電力を国や企業に販売しています。
「エネルギー分野において最も大事なことは分散化、多角化である」というCEOのBrian Kelly氏は、電力供給を国に依存しすぎることなく、かつ国の電力公社と協調して事業を進めることが必要であり、電力網を分散化させていくことで堅牢な電力系統をアフリカで持つことができると語ります。
また、関西電力は、セネガルのスタートアップ企業と組んで小型太陽電池と携帯通信を組み合わせて提供する事業について説明しました。防災などの視点から日本で拡大する自立型自給自足の小規模電源を応用したものです。さらに、現地の学校にソーラーパネルを設置し分散電源を届けることで、教育コンテンツを遠隔配信していきたいと考えています。
技術力の提供だけでなく、教育により持続可能な仕組みに
ケニアの発電会社KenGenは、パートナーシップが一番必要な分野として「技術スタッフの能力構築」を挙げました。発電所の設計技能、また発電所の運営技能を持つ人材を育てていきたいと語ります。1985年から日本の地熱用タービンを導入したことに始まり、地熱発電所設備の供給を全て日本企業から受けていることに触れ、日本企業による現地スタッフの研修訓練に期待を寄せ、大学などの教育機関との連携も視野に入れたいと話しました。
三井物産はCO2の発生量が少なく発電効率の高い「超々臨界石炭火力プロジェクト」をアフリカで初めて実施したり、豊田通商は日本の風力発電事業国内シェア1位を誇るユーラスエナジーと再生可能エネルギーの開発を進めるなど本セッションでも日本の技術を活かしたグリーンエネルギーによるインフラ整備への貢献が語られました。それらの取り組みを持続可能なものにするためにも教育による技術移転が望まれています。
ブロードバンドで平等な接続性を全ての人に
セッションの後半は、アフリカ地域のデジタル化推進を目指す官民連合「Smart Africa」の取り組みが紹介されました。アフリカ 32 カ国等から構成され、廉価なデジタルインフラを構築することで2025年までにアフリカのブロードバンドの普及率を、現在の2倍となる51%にする目標です。さらに全ての学校をインターネット接続し、スマートデバイスを提供します。
この取り組みには、ソフトバンクの技術が活用されています。アフリカでのインターネットの平等な接続性を実現するためには、光ファイバーが、量、質の面から考えて適したソリューションだと言いますが、ソフトバンクはさらに光ファイバーの敷設までの一時的な課題解決手段として衛星通信を活用した「空からの接続性」というものも提案しています。これにより、サービスが提供されていない地域もカバーできるからです。
NTTも同様に、光ファイバーは設置コストを下げられるためモバイルネットワーク構築の重要な要素であると述べました。しかし地域ごとに技術格差があるため、技術の標準化を進める必要性を示唆。配線や建設技術の研究開発にも力を入れ、無線のアクセスポイントのカバー率を広げようとしています。
モデレーターを務めた神戸情報大学院大学特任教授・山中敦之氏は、本セッションを振り返り「目先の利益を追い求めるのではなくアフリカのデジタルインフラにどう貢献できるのかが大切」と述べたスピーカーの姿勢に賛同しセッションを終えました。
[2日目]Panel 5:両国の関係強化とリスクの軽減で優良な投資環境を作る
ここまでに伝えられたようなアフリカでのビジネスを促進するためには、多くの資金が必要です。民間投資への期待も高まりますが、民間企業がアフリカのようにカントリーリスクの高い国に参入するには障壁が多くあります。この課題を解決するため、最後のセッションでは、両国の金融機関や企業、公的資金提供機関や国際機関の代表者により「民間投資の拡大に向けた官民連携の取り組み」についてセッションが行われました。最後は、15のMOU(了解覚書)の調印セレモニーが行われ、出席者への感謝の意が述べられこの日のプログラムが終了しました。
[3日目]Panel discussion:世界有数の投資国・日本とアフリカの可能性
12月9日に予定されていた全体会合は延期となり、スペシャルセッションとして「日本アフリカビジネスリーダーズフォーラム」が開催されました。世界有数の投資国となった日本。国連の2018年、2019年の調査では投資額が世界No.1となる一方、アフリカへの投資はその全体の0.5%にとどまっています。アフリカへの投資をどう上げていくのか。最後に、課題を含めたその可能性を話し合い、第2回日アフリカ官民経済フォーラムが幕を閉じました。
「第2回日アフリカ官民経済フォーラム」を振り返って
アフリカは日本から地理的、心理的な距離感があるためか、日本語で入手できる現地情報は非常に限られています。一般的な日本人が持つアフリカのイメージが30年前からほとんど変わっていない中、アフリカでは急速な変化が起こっており、ビジネスで解決できる社会課題が沢山あります。本フォーラムやサイドイベントでは貴重な現地情報が紹介されており、日本企業にとってアフリカが有望な市場であることが再確認できました。
また、フォーラムやサイドイベントでは、アフリカでビジネス展開されている日本企業も紹介されていました。こうした企業に共通していたものが、ローカライズです。機能や品質を現地に合わせるようなローカライズはもちろんのこと、ビジネスモデルそのものをローカライズしているケースもあります。ビジネス環境が整備された中で事業ができる日本と異なり、環境そのものを自分たちで作っていったり、現地の購買力に合わせてサブスクリプションで料金回収するなど、革新的な取り組みをしている企業がありますが、こうしたチャレンジをするには、会社の体質やメンタリティも変える必要があるでしょう。
12月6日に開催されたサイドイベント「日本×アフリカで挑む、加速するアフリカビジネスの現在地」で、立命館大学の白戸教授が言っていた言葉が印象的だったので、最後に記します。「アフリカビジネスは日本企業にとってのリトマス試験紙」。アフリカビジネスに適応していくことが、日本企業がグローバル企業に変わっていく最初の一歩になるのかもしれません。
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