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PayPalはかなり前から同社の「スーパーアプリ」の話をしていたし、最近では投資家たちに、デジタルウォレットと決済アプリに対してゴーサインを出したといっていた。米国時間9月21日、そのアプリの最初のバージョンが公式に披露され、口座振込や自動引き落とし、デジタルウォレット、個人間送金決済、ショッピングツール、暗号資産対応といった金融ツールが提供された。また同社は、その新しい高利回りの貯蓄預金PayPal SavingsのためとなるSynchrony Bankとのパートナーシップも発表した。

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これらの変化によってPayPalは、いろいろな既存金融機関を利用するほぼ単なる決済ユーティリティから、よりサービスが揃った金融アプリに変身する。PayPal自身は「銀行」を志向しているわけではないが、新しいアプリはChimeやVaroなどのように、金融サービスからネオバンクへの変身を狙っている企業と競合する一連の機能を提供する。つまりサービスには、給与支払い小切手Direct Depositsや、PayPalの銀行パートナーによる2日前アクセス、自動引き落としなども含まれている。

これらの機能によってPayPalの競争力は増す。というのも給料日前に入金しているという機能は、従来の銀行と比べてデジタルバンクを志向するアプリの大きな魅力の1つであるためだ。

給与の振込先がPayPalになることに加え、顧客のPayPalファンドを使って、彼らの請求書の支払いや貯蓄、ショッピングなど日常的なサービスもできる。

PayPalによると、強化された自動引き落とし機能によって顧客は、何千もの企業や公益企業からの請求を調べて、見て、そして支払える。その中には、テレビやインターネット、保険、クレジットカード、電話などもあるだろう。2021年初めに自動引き落としが導入されたときは、数千の請求者が利用できたが、現在ではおよそ1万7000の企業などが利用している。また顧客は、インテリジェントで改良された検索機能から請求者を確認し、支払い期限の事前通知や自動引き落としのスケジュールなどを求めることもできる。支払いはPayPalのアカウントからだけでなく、PayPalのアカウントにリンクしているその他の資金源からも行われる。

同じくPayPalによると、PayPal SavingsはSynchrony Bankとの提携により、年利率0.40%の高利率貯蓄を提供する。それは米国平均である0.06%の6倍以上だ。しかし ならそれでもデジタルバンキング市場の上位ライバルたちに比べると低い。たとえばChimeは0.50%、Varoは0.20%から最高3.00%まで、Marcusは0.50%、Allyは0.50%、ONEはAuto-Save取引により1.00%または3.00%などとなる。しかしPayPalの利率は、もっと利率が低い従来の銀行から乗り換えた人には魅力的だろう。

PayPalによると、その高利回り貯蓄の強みは年利率だけでなく、それに結びついているサービスにもある。

画像クレジット:PayPal

PayPalの消費者担当上級副社長Julian King(ジュリアン・キング)氏は「たしかに米国の顧客の約半分は貯蓄口座すら持っていないため、年利率の有利性なんて話は関係ありません。だからこそ、プラットフォーム上にフルセットのソリューションが揃っていることの方が、個人顧客を獲得する競争において有利でしょう」という。

PayPalのアプリはすでに、新機能と今後の機能に対応して再編されている。

ウォレットタブでは、ダイレクトデポジットを管理し、銀行口座やデビットカード、クレジットカードなどを、PayPal独自のデビットカード、クレジットカード、キャッシュカードへの登録機能とあわせて利用できる。また、「ファイナンス」タブでは、高利回りの貯蓄やBitcoinやEthereum、Bitcoin Cash、Litecoinの購入・保有・売却が可能な以前からある従来の暗号資産機能にアクセスできる。

一方、決済タブにはPayPalの従来からの機能の多くがあり、それには個人間決済や国際送金、慈善や非営利の寄付、そして自動引き落としと双方向のメッセージ機能があり、支払いの連絡やお礼に利用する。それは友だちや家族間でもいいし、商業者対顧客でもよい。このコミュニケーション機能によりPayPalは、決済にコメントなどを付けられるPayPal保有のVenmoに似てくる。

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メッセージ機能は、PayPalの新機能であるShoppingハブにも結びついている。同社が2019年に40億ドル(約4380億円)で買収したHoneyも、ここで活用される。Honeyの中核的な機能はPayPalのモバイル体験の一部になり、それには個人化や特別報奨などが含まれている。

画像クレジット:PayPal

PayPalユーザーはアプリで割引や特売などを調べて、そのアプリ内ブラウザから買い物や決済取引もできる。PayPalのポイントなどはウォレットに貯めておいて、今後のショッピングで使える。ユーザーは、買い物に対するキャッシュバックやPayPalのショッピングクレジットといったロイヤリティの対象にもなる。同社によると、このようなパーソナライズは今後もっと改良されるという。

その点に対してキング氏は「AIや機械学習を利用して、買い物のおまけやお買い得企画として今、何に人気があるのかを探り、それを今後も開発していきます。そんなAIツールは、使えば使うほど賢くなるでしょう」という。ユーザーが好む企画を見つけて、それと似たものを今後展開するということだ。

また、今回のモバイルアプリには、2021年末に開始したPayPalのクラウドソーシング型資金調達プラットフォーム「Generosity Network」が新たに追加されている。このネットワークは、GoFundMeやFacebook Fundraisersに対するPayPalの回答であり、個人が自分自身のため、困っている人のため、あるいは中小企業や慈善団体などの組織のために資金を集めることができるツールを提供している。また、このネットワークは、ドイツと英国を皮切りに、さらに多くの国で展開されている。

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PayPalが述べているように、この新アプリは、今後数四半期間に開発する他の新プロダクトの基礎となる。そのロードマップの中で最大の構想は、Robinhoodのような他のモバイル投資アプリに対抗して、投資分野に参入するというものだ。これが登場すれば、株式や端株、ETFを購入する機能をサポートすることになると、PayPalはいう。

また、オフライン環境でのQRコードによる支払いや、店舗でのPayPalを使った節約術なども追加される予定だ。

アップデートされたアプリは、米国では本日より順次リリースされ、今後数週間で完了する予定だ。ただし「PayPal Savings」はすぐには利用できない。「PayPal Savings」は、ショッピングツールや特典ツールの一部と同様に、「数カ月後」に米国で提供される予定だ。

画像クレジット:PayPal

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(文:Sarah Perez、翻訳:Hiroshi Iwatani)