名古屋大学は12月20日、化学メーカー日本ゼオンと共同で、繊維強化プラスティック(FRP)よりも耐衝撃性に優れたイオン性のゴム材料(熱可塑性エラストマー)の開発を発表した。その耐衝撃性は、通常の熱可塑性エラストマーの3.1〜4.4倍。同様に軽量で強度の高いガラス性繊維強化プラスティック(GFRP)の0.86〜1.22倍とほぼ同等の性能を示した。これは世界トップクラス。
熱可塑性エラストマーは自動車の内外装などに広く使われ、その市場規模は世界で年間2兆円にも上るというゴム材料だが、さらなる強度の向上が求められ、研究開発が進められている。名古屋大学大学院工学研究科有機・高分子化学専攻の野呂篤史氏らと日本ゼオンからなる研究グループは、熱可塑性エラストマーのひとつ「ポリスチレン-b-ポリイソプレン-b-ポリスチレン(SIS)ブロックポリマー」のポロイソプレン部に部分的にイオン性官能基を導入し、イオン性の熱可塑性エラストマー(i-SIS)を開発した。
その引張強度は43.1MPa(メガパスカル)、靭性(粘り強さ)は1m3あたり480MJ(メガジュール)と、従来のSISの4倍以上を示した。だが構造材料として使う場合には、引張強度や靭性よりも耐衝撃性が重視される。そこで、約3kgの棒状の重りを材料に投下して亀裂やくぼみが生じるのに必要なエネルギー量を見積もる耐衝撃性の試験を行ったところ、従来のSISの3.1倍という値が出た。さらに、イオンの種類と価数を変えたi-SISでは4.4倍という結果が示された。GFRPでは、SISの3.6倍という結果だった。つまり、i-SISとGFRPは同等の性能ということになる。
軽量で耐衝撃性が高く、それでいてゴム材料としての熱可塑性や強靭性を兼ね備え、工業的な生産も可能なi-SISは、車や船舶といった移動体のボディーなどに利用することで、移動体全体を軽量化でき、燃費が向上し、ひいては脱炭素社会の実現に貢献できると、研究グループは話している。