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「オイ! ここで舞えるやつがぁ! マジでネジキクリアできんだバカタレェ!」

人気ゲーム実況者の“うんこちゃん”こと、加藤純一氏の咆哮が轟くその配信は、異様な雰囲気に包まれていました。そしてまさに、伝説と呼んでさしつかえのない、すさまじい激闘のドラマが生まれていました。

『絶対にクリアする金ネジキ』と題されたその配信は、2008年に任天堂から発売されたニンテンドーDS専用ソフト『ポケットモンスタープラチナ』のクリア後に解放されるやりこみ要素、バトルフロンティアの施設であるバトルファクトリーのクリアを目指したものでした。

加藤氏は、2020年11月1日に、このバトルフロンティア攻略を始め、実に1年以上を経て、2021年11月15日に悲願を果たすのでした。金ネジキとはなんなのか、なぜそんなに熱狂を呼ぶのか、そして、視聴者数40万に迫った加藤氏の金ネジキ実況の魅力について、お話してみたいと思います。

歴代ポケモン最高難易度のやり込み要素

ポケットモンスター プラチナ公式サイトより

そもそも、ネジキとはなにか。前述したバトルフロンティアに登場するボス達、フロンティアブレーンの1人です。バトルフロンティアには5つの施設があり、それぞれにフロンティアブレーンが配置され、ネジキはそのうちの1つ、バトルファクトリーに君臨するキャラクターです。

バトルファクトリーでは、1周で7人のトレーナーと戦い、これを1セットとして、7周する間に1度も負けずに勝ち続けることを目指します。3周目の最後、つまり21戦目にネジキ1回目が登場します。これを銀ネジキと呼びます。そして、7周目の最後、49戦目にもネジキが登場し、勝つと金バッチがもらえることから、金ネジキと呼ばれています。この金ネジキを倒すことこそ、歴代ポケモンの中でも最高難易度のコンテンツであると言われていて、加藤氏は1年以上もの期間取り組んでいたのでした。

難易度の高さには理由があります。1つは、自分で育てたポケモンを連れていけないこと。本来のポケモンの対戦におけるやり込みでは、個体を厳選するところから始まり、理想のステータスや技構成等を目指し、考え抜いたパーティーを構築していきます。しかし、バトルファクトリーでは、自分のポケモンは連れていけず、1周するごとにランダムに選ばれた6体のポケモンから3体をレンタルしてスタートします。

バトルに勝利すると、相手が使っていたポケモン3体の中から1体を選び、自分のポケモンと交換することができます。そうやって、7人に勝ち抜いたら、交換によって選び抜いたポケモンは返却し、また6体のランダムなポケモンから選択し、2周目が始まるのです。この、ランダムなレンタルポケモンをトレードしながら戦わなければいけないというルールが、安定攻略をきわめて難しくします。

常に最善手を取り続けて、わずかに訪れるチャンスをつかむ

また、このシステムは運の要素を極めて大きくします。ポケモンというゲームは、ポケモン自身や使う技のタイプ相性が大事なゲームです。相性が悪い相手であれば、どうやっても勝てないこともあります。自分でパーティーを組むのであれば、そういった詰む場面が起きにくいように考えるわけですが、バトルフロンティアはレンタルポケモンを使わなければいけません。毎回どんなポケモンを手に入れられるかはわかりませんし、どうしても勝てない組み合わせが出てくる場面があります。

さらには、タイプ相性以外にも運の要素は多く存在します。体力に余裕があるはずが、きゅうしょにあたって1撃でやられてしまった。高確率で当たる技がここ1番で外れる、逆に、めったに当たらない技に当たって負ける。まひやこんらんでまったく攻撃をすることができなくなる、などなど。

では、バトルフロンティアは単なる“運ゲー”なのでしょうか。その言い方は少し語弊があるかもしれません。運ゲーというのは、負けるのも運であれば、勝つのも運であるはずです。しかし、バトルフロンティアで勝つには、実力がいるのです、しかも、圧倒的な。

運悪く負けることは確かにあります、場合によっては理不尽に感じるほど。しかし、49連勝するためには、運が悪くない時に勝ち続けなければ、チャンスすらありません。6体のランダムなポケモンが提示されるのは運ですし、その6体が良い時も悪い時もあるでしょう。しかし、そこから最善の3体を選ぶのは確かに実力なのです。

最善手を選び続けても、負けることはある中、最後のパーツは試行回数です。何度も何度もチャレンジし、できるだけ勝てる確率の高い選択肢を選び続けるしかないのです。時には不運と同様に、幸運が訪れることもあるでしょう。繰り返し挑戦し、わずかに訪れるチャンスを掴みきることができるのか、そういう戦いになっていきます。

これは正直、自分でやるのはなかなかにしんどいと思いますが、人が必死になって顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりしながら、様々なドラマがおこる中で戦い続けるのを観戦するというのは、とても面白いものです。そう、ゲーム実況向きだと言えます。そして、加藤氏の金ネジキ攻略配信は、その最高峰の1つだと言って、さしつかえないでしょう。さあ、彼の金ネジキ攻略達成動画の話に戻りましょう。

ここで舞えるやつがぁ! マジでネジキクリアできんだ!

バンギラスのりゅうのまいと、加藤氏のさそうおどり(?)

冒頭ご紹介した加藤氏のこの咆哮が飛び出したのは、そろそろネジキが見えてきた6週目ラスト、42戦目でした。相手トレーナーには残り体力わずかなグランブルと、まだ出てきていない無傷のポケモンが1体。

加藤氏は最後の1体となるバンギラス。相手のグランブルはまひ状態ですが、特性はやあしのためバンギラスに先制して攻撃してきます。バンギラスが攻撃すればグランブルは倒せるでしょうが、その前にグランブルのインファイトによって、バンギラスも相当のダメージを受けると予想されます。そうすれば、相手トレーナーが最後に残している無傷のポケモンと戦うのが非常に苦しくなります。

そこで加藤氏が考えて出した答えは……なんと攻撃をしないということでした。バンギラスの特性によるすなあらしや、もちものいのちのたまの反動ダメージにより、グランブルはターン経過で勝手に落ちると踏んで、あえて攻撃はせず、こうげきとすばやさをあげるりゅうのまいでバンギラスを強化し、グランブルの次に出てくるポケモンに備えます。限界ギリギリの場面、ここで負ければまた最初からやり直し。最善と信じても攻撃しないことには相当の胆力がいります。下手をすればグランブルの攻撃がきゅうしょに刺さってバンギラスが倒されてここでおしまい、そんな未来もチラつきます。

意を決してボタンを押す加藤氏、グランブルの攻撃は、なんとまひによって不発、幸運の女神が舞い降ります。バンギラスのこうげきとすばやさが上昇。そしてさらに加藤氏はりゅうのまいを重ねます。しかし、今度は計算外の出来事が起こります。バンギラスがグランブルに先行してりゅうのまいを使ったのでした。つまり、1度目のりゅうのまいでバンギラスはグランブルのすばやさをぬいていて、ここで攻撃技を選択していれば、安全にグランブルを倒すことができたのでした。後に加藤氏は、この時視聴者も含めて“ネジキーズハイ”の状態にあったと言い、この判断が誤りであったと振り返っています。ネジキーズハイってなんでしょうね……。

バンギラスはりゅうのまいでさらに強化されるものの、グランブルのインファイトが炸裂。もしここでやられれば即終了、すべてが水の泡に。バンギラスがすばやさで追い抜いていたことを見た加藤氏は「(すばやさが)抜けてた~、もうめちゃくちゃだぁ、んじゃぁまひしろ、まひしろまひしろ!」と唱えながら奇妙な動きで敵の攻撃不発を誘います。ポケモンのりゅうのまいではなく、これはドラクエのさそうおどりのようです。

加藤氏のおどりむなしくバンギラスのインファイトが炸裂。すると加藤氏何を思ったか、今度は両手でガードのポーズをとり、ガタガタと震えだします。まるで、グランブルのインファイトを自分で耐えているような。「ん~ん~~、ぐぬぅ~~~ウォオオオオオリャアアアア!!!!」バンギラスの体力はわずか1割ほど残り、グランブルはターン終了時にすなあらしのダメージを受けると、最初の作戦通り勝手に沈んでいくのでした。「オイ! ここで舞えるやつがぁ! マジでネジキクリアできんだバカタレェ!」

加藤氏のガードが通じた……はずはありませんし、2度目のりゅうのまいは選択ミスだったかもしれません、しかしすさまじい何かが起きていることだけは伝わってきます。不運と幸運、ピンチとチャンスがかわるがわる交錯する中、加藤氏の咆哮が轟き、画面から目が離せません。これが、加藤氏の金ネジキ動画なのです。最後に出てきたダーテングをバンギラスがストーンエッジの1撃でやっつけると、いよいよラストの7週目に突入します。

5時間を超える配信のラストで完全覚醒 金ネジキに完全勝利

ツボツボ登場に崩れ落ちる加藤氏

そして迎える49戦目の金ネジキ戦。5時間を超える配信、さあ、どんな叫び声をあげるのかと思いきや、加藤氏は動から静にシフト、覚醒とでも呼びたくなるような、超集中状態に入っています。

静かに思考を練った加藤氏が発した言葉は、まるで予言でした。10万ボルトをエレキブルの特性でんきエンジンで受け、相手の攻撃をまひで止めつつ、じしんはひこうタイプをもつギャラドスで無効に、なまけるにあわせてりゅうのまい。相手が何をしてくるのか、はっきりと宣言して、すべての行動でそれらの裏をかき、幸運も手伝い、気がつけばネジキ側ポケモンの攻撃をただの1度も受けることなく、完封を見せつけます。さっきの咆哮で熱を帯びていた体に、今度は鳥肌が立っているではないですか。そして覚醒状態の加藤氏に対して、最後の最後に立ちはだかったのは、なんとツボツボ。「1年間がんばってきて、最後お前かよお」視聴者も含めて全員脱力していくのが分かります。

意外な展開は極限まで高まった緊張感を笑いへと変え、ギャラドスはたきのぼりでツボツボ撃破、なんとノーダメージ完全勝利で栄光を手にし、幕切れとなります。

金ネジキという、理不尽ともいえる高難易度、1度負ければやり直しの緊張感、幸運と不運にふりまわされながら、懸命に生き残りを目指す面白さは、ゲーム実況の醍醐味がつまったコンテンツで、たくさんの実況者が挑戦しました。実は、この金ネジキ実況の面白さを広めたのは、他ならぬ加藤氏の配信でした。加藤氏が金ネジキ実況をしたことがきっかけとなり、多くの配信者が金ネジキに挑戦していきます。そして金ネジキ実況が多くのファンの間で広まった今また、加藤氏の金ネジキが、興奮と、感動と、そして笑いに包まれた極上のものであることを、知らしめたように思います。この記事で興味を持った方は、ぜひ動画もご覧になってみてください。