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【パリ=白石透冴、ニューヨーク=中村亮】バイデン米大統領は22日、フランスのマクロン大統領と電話協議した。米仏の共同声明によると、マクロン氏は召還していた駐米大使の帰任を決めた。オーストラリアの潜水艦配備をめぐって悪化した米仏関係の修復に一歩近づいた。

両首脳は「信頼確保や共通の目的に向けた具体策の提案に向けて綿密な協議を始める」ことで一致した。仏のフィリップ・エティエンヌ駐米大使は来週、米首都ワシントンに戻って米政府との対話を始める。仏政府は17日、エティエンヌ氏の召還を発表していた。仏大統領府によると、同じく召還していた駐豪大使の帰任がいつになるかは決まっていない。

バイデン氏は電話協議で、欧州連合(EU)が最近まとめたインド太平洋戦略に触れて「仏や欧州がインド太平洋地域に関与することが戦略的に重要だ」とも伝えた。両首脳は10月末に欧州で会談することを決めた。イタリアで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて会談するとみられる。

米国と英国、豪州は15日、原子力潜水艦の配備に向けて協力すると発表した。豪州が協力国であった仏を外したため、仏が猛反発していた。ジョンソン英首相も22日、米英豪の協力は「世界の安全保障のために、大きな一歩となる」と語り、フランス側に理解を求めた。

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「ウソつき」「信頼関係に傷が付いた」――。フランス側は豪州との次世代潜水艦配備計画が破談になった直後から、ルドリアン外相が中心となって米国などを激しく批判した。仏国内ではイラク戦争参戦を巡って米仏関係が悪化した2003年以来の危機だと指摘された。

仏政府は少なくとも3つの理由で激しい怒りをみせていた。1つ目は正式に調印した契約を破棄され、面目を潰されたことに対するいらだちだ。米政権が仏側に決定を通告したのは発表数時間前だったもようで、軽んじた扱いを受けたことが明らかになっている。同様の対応を将来繰り返させないよう米英豪にクギを刺す必要があった。

2つ目は、国内有権者に外交で失敗したとの印象を与えないためのアピールだ。普段はマスコミへの露出が少ないルドリアン氏が、連日メディアで批判を繰り広げた。22年に仏大統領選を控え、悪いのは米英豪だと広く訴えかけた。

さらに仏政府は今回の騒動を、欧州が安全保障で自立性を高めるきっかけにしたいと考えているようだ。フランスのボーヌ欧州問題担当相は21日、「欧州の戦略の独立性を高める時が来た」などと語った。マクロン氏はトランプ前米政権が欧州の安全保障を軽んじる発言を繰り返したことなどを背景に、「欧州軍」創設の必要性を主張している。米英豪批判はEU加盟国に行動を促す呼びかけでもあった。

一方、インド太平洋に複数の海外領土を持つフランスは、中国の海洋進出に強い懸念を持っている。考えを共有する米国と関係悪化が長引くことは、自国にとって不利になるとみていた。激しく米英豪を批判しつつも、振り上げた拳をいつ収めるかのタイミングを計っていた。

マクロン氏はバイデン氏との電話協議をそのタイミングと位置付け、あえて問題発生直後から公の場での発言を避けてきた。22日の共同声明には関係改善に向けた文言が並んでおり、今後フランスは批判を抑え気味にすることが予想される。

問題発生以来、EU幹部からはフランスの立場に肯定的な声が相次いだ。フォンデアライエン欧州委員長はフランスが「容認できない仕打ちを受けた」と語ったほか、ボレル外交安全保障上級代表は「我々はフランスを支持する。EU全体に関わる話だ」と述べている。マクロン氏が望むように、EUで安全保障の独立性を高めるべきだとの議論が今後勢いを持つ可能性もある。