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 IDC実行委員会は2021年8月21日,インディーズゲーム開発者のためのオンラインカンファレンス「Indie Developers Conference 2021」を開催した。このカンファレンスは,個人または数人でゲーム制作を行っている開発者達が技術やノウハウ,知見などを共有し,開発者同士の結びつきを深めることなどを目的としたものだ。
 本稿では,個人ゲーム開発者のhako 生活氏によるセッション「『アンリアルライフ』にも生かされた,ユーザーレビューから読み解く“ゲームクオリティ”の高め方」をレポートする。

画像集#001のサムネイル/ADV「アンリアルライフ」を作ったhako 生活氏が,ユーザーレビューからゲームの品質を高める手法を明かしたセッションをレポート

 hako 生活氏はインディーズゲームを,「どんな制作期間でも良い」「どんな予算でも良い」「個人で作っても良い」「何を表現しても良い」という,「何でもあり」の存在であると説明する。
 しかし昨今はゲームのダウンロード販売が一般化し,インディーズゲームと商業的に作られたゲームがあたかも同じ棚に並べられているかのように見える機会が増えた。すなわち,インディーズゲームや商業ゲームといった括りは開発している側の見方であり,ユーザーにとってはどれも同じゲームなのだ。したがって,インディーズゲームに求められる品質の水準は,以前より高くなっているという。

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画像集#003のサムネイル/ADV「アンリアルライフ」を作ったhako 生活氏が,ユーザーレビューからゲームの品質を高める手法を明かしたセッションをレポート

 ゲーム開発には,時間をはじめ,多くのコストを割かなければならない。そのため,上記のようにインディーズゲームと商業ゲームの品質を一緒に比較されることで機会損失したくない,意図が伝わらないようなことは避けたいところ。そこで冒頭で記したように「インディーズゲームはなんでもあり」であれば,「商業ゲームと並ぶくらい,品質を意識しても良いのではないか」というのがhako 生活氏の見解である。

 それでは品質を誰が評価するのかというと,実際にゲームを買って遊ぶユーザーだ。そのため,品質を高めるには他人の気持ちを想定する必要が生ずるのだという。
 hako 生活氏は「他人と自分は“同じ”かつ“違う”」とし,「開発者である自分が面倒に思うところはユーザーも面倒に思う」が,「自分が面倒だと思わないところであっても,ユーザーは面倒に思うかもしれない」と説明。後者は主観だけで見つけることが困難であり,ユーザーが面倒に思う部分を解消していくことが品質の向上につながると語った。

 他人の評価を知る方法として,hako 生活氏はまず体験版などをイベントに出展した際やテストプレイ・アーリーアクセスの実施時に感想を聞くことを挙げた。この方法は,自分のゲームに対するユーザーの声を直接知ることができるが,回答の母数が少なくなる。

 もう1つは,既存のゲームのレビューから学ぶことである。この方法だと,自分のゲームに対する直接的な意見ではないが,母数が多いので参考になるものもそれだけ増える。レビューに書かれていることを自分のゲームに応用できるか考える必要はあるが,hako 生活氏は参照数を増やすことで“ゲームの仕様あるある”にできると考えているという。

 レビューには良い評価のものと悪い評価のものがあるが,本セッションでは「自分が意図していない批判を避ける」という意図から,バッドレビューからゲームの品質を高める手法が紹介された。

 バッドレビューには,「ゲームや開発者に対する意見や批判」「買わないほうが良いといったような,ほかのストアユーザーへの警告」「ユーザー自身が書くことでストレスを発散」などの内容がある。
 そうしたレビューの文章を,hako 生活氏は「(事実+意見)×感情」という数式に変換。感情の部分を一旦除外し,意見の部分を抽出して分析を進めていくという。

実際に「アンリアルライフ」に寄せられたバッドレビューを解体し,意見を抽出していく
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 それではバッドレビューに書かれる批判は何を対象にしているのかというと,hako 生活氏は「ソフトウェア品質」「UI品質」「恣意性」「ゲームバランス」「ユーザー損失」の5つを挙げた。このうちユーザー損失はゲーム外のことだが,残り4つはゲーム内のことである。それぞれの概要と対策を見ていこう。

恣意性やゲームバランスに関しては,開発者の意図やこだわりが強く反映されていることも説明された
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ソフトウェア品質

 ソフトウェア品質は,「バグ」「実行品質」に分類される。

・バグに関しては「バグが入り込みにくい基盤の作成」「十分な第三者テスト」「デバッグ」といった方法で取り除くことが可能だ。
・実行品質は,例えば「挙動が遅い」「ロードが長い」といったものを指す。こちらは「最適化」「実機テスト」「コンフィグの実装」などで解消できる。

UI品質

 UI品質は,「アクセシビリティ」「ユーザビリティ」に分類される。

・アクセシビリティは「赤が見えにくい」「画面酔いする」といった身体に影響を与えるもので,「調整機能の設置」「事前の注意喚起」「多人数による第三者テスト」「パブリッシャなどからの知見共有」などで回避できる。
・ユーザビリティは「思ったように動かない」「意図しない方向に動く」といった,操作に関するもので,「ボタンの配置見直し」「キャラコントロールの見直し」「カスタマイズ機能の実装」などが対応策となる。

恣意性

 恣意性は,「説明不足」「冗長」「未回収・一貫性」に分類される。

・説明不足は,「何をすれば良いのか分からない」「理由が分からないまま死んでしまう」といったようにユーザーが納得できない状態なので,「チュートリアルの作り込み」「画面に操作を表示する」「第三者による初見テストプレイ」などで解消可能だ。
・冗長は,「不必要な移動が多い」「会話をスキップできない」といったもので,「第三者による見直し」や「同じジャンルのゲームの分析」で回避できる。なお「アンリアルライフ」には「移動が遅い」という批判が寄せられたが,hako 生活氏のこだわりにより,あえてそのままにしているという。
・未回収・一貫性は,ユーザーのやって来たことが何だったのか示されなかったり,ストーリーや設定などに一貫性がなかったりすることを指す。また作者の自己満足に終わっていることも含まれるが,インディーズゲームなのでどこまで妥協するかは難しいところである。ともあれ,こちらは「シナリオや通しテストプレイの感想を聞く」ことにより解消できる。

ゲームバランス

 ゲームバランスは,「ボリューム」「難易度」「作業化」に分類される。

・ボリュームは「思ったよりすぐ終わる」「同じことの繰り返しで飽きる」といったようなもので,小規模開発が多いインディーズゲームには付きもの。こちらは「やり込み要素の導入検討」「ゲームループの見直し」「事前の規模説明」で回避可能である。
・難易度は,「ターゲット層の見直し」「多層向けのゲームデザインを検討」「第三者によるテストプレイ」などで対応できる。
・作業化は,「ゲーム全体の見直し」「面白さの言語化」「テストプレイの感想を聞く」などで対処することになる。

ユーザー損失

 ゲーム外のこととなるユーザー損失は,「ミスマッチ」「説明不一致」「倫理観」「価格設定」「プラットフォームによる損失」「競合」の6つに分類される。

・「自分には合わなかった」というミスマッチが多い場合,これは「ターゲットにあったプロモーションや記述の見直し」が有効だ。
・説明不一致は事前の説明と内容が一致していないことで,「プロモーションやストアの記述との乖離をチェック」することで修正を図れる。
・倫理観は,インディーズゲームなので何を表現しても構わないのだが,自分の意図していない部分に指摘があった場合には「テストプレイヤーやパブリッシャからの意見収集」で対応できる。
・価格設定は,「テストプレイヤーからの意見収集」「パブリッシャとの相談」「リリース済みの開発者との相談」といったところが参考になる。
・プラットフォームによる損失は,例えば「特定のプラットフォームには特典や新機能がある」といったようなもので,「パブリッシャと相談」するほかない。
・競合は,「別ゲームのパクリ」「このジャンルなら,別のゲームをやったほうが良い」といったもので,対策として「同ジャンルゲームの事前リサーチ」「詳しい人への聞き込み」が挙げられた。

「作家性が嫌い」という「ヘイト」対策として,「SNS運用の見直し」が必要になることも
画像集#008のサムネイル/ADV「アンリアルライフ」を作ったhako 生活氏が,ユーザーレビューからゲームの品質を高める手法を明かしたセッションをレポート

 セッションの最後に,hako 生活氏は「レビューはあくまでも意見であり,それがすべてではない」とし,「インディーズゲームでは,自分がやりたいことをもっとも優先すべきである」と語った。その上で,気になる部分に本セッションで示したことを適宜応用していくと,自分の作ったゲームの品質が向上するのではないかとまとめた。