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脱炭素社会の実現へ向けて、クルマの電動化への動きがにわかに活発化するなか、中国ではテスラをしのぐ人気の電気自動車(EV)が話題を呼んでいます。そのEVとは日本円で100万円前後のEVなのですが、そんな中で特に注目を浴びているのが「宏光Mini EV」(宏光:ホングアン=Hongguang)です。今回はその試乗体験レポートをお届けします。

 

エアコン付きで60万円を実現! “2+2”として使える十分なサイズ

宏光Mini EVは、中国の上海汽車と米国ゼネラルモータースが合弁で設立した上汽通用五菱が開発した小型EVです。中国国内で昨年7月より発売を開始し、エアコンを装備した最上位グレードでも60万円相当で、エアコンレスのベース車なら50万円を切る価格を実現しています。その低価格ゆえに、すでに車種別台数ではテスラ「Model 3」を上回る人気を集めているほどなのです。ちなみに日本では販売されておりません。

↑中国の上汽通用五菱が販売する小型EV「宏光Mini EV」。試乗できたこの車両はエアコン付きのミドルグレードで、価格は日本円換算で60万円前後

 

上汽通用五菱のホームページによると、宏光Mini EVのボディサイズは全長2920mm×全幅1493mm×全高1621mmで、日本の軽自動車と比べると、全長で短く(−480mm)、幅でわずかに広く(+13mm)なっています。そのため、定員を4名とするものの、十分な広さを感じるのは前席だけ。後席は大人2人が座るにはかなり窮屈で、実際には“+2”的な使い方となるでしょう。カーゴスペースとしても、後席をたたんでやっと実用になるという感じです。

↑宏光Mini EVは日本の軽自動車よりも全長50cmほど短くし、タウンユースでの使い勝手を重視している

 

タイヤサイズは12インチ、145/70タイヤを装着し、ブレーキはフロントがディスク、後輪はドラム式。ヘッドライトはハロゲンランプで、左右ドアにはパワーウインドウが備わり、バックドアの開閉は電気式スイッチ式です。

↑サスペンションはフロントがストラット式独立で、リアは3リンク式リジッドアクスルを組み合わせています

 

運転席に座ると車内は無駄がないプレーンな印象です。ダッシュボードは手前を低くしつつ、ライトグレーの配色とも相まって圧迫感もなく、十分な広さを感じさせます。内装はプラスチック感は否めませんが、樹脂成型の工夫で、質感はそこそこ。この日は何故かエアコンが作動できませんでしたが、エアコンの吹き出し口は左右いっぱいに拡がっており、作動時の冷房効率は良さそうです。

↑要所にオレンジを交え、明るくポップなデザイン。ダッシュボードも手前を低くしたため、広々とした空間を生み出している

 

シートは運転席/助手席ともポジションを合わせるのには十分な調整が可能で、シートを倒したときのロックもしっかりとしています。ロック機構は後席にもあり、ロック解除オフ時にはビクとも動きませんでした。この辺りの安全対策は十分ですね。

↑後席はしっかりとした造りのシートが奢られているが、大人が座るにはかなり窮屈。カーゴスペースもシートをたたまないと実用にならない

 

コスト削減の割り切りなのか? 安全装備と呼べるのはABSぐらい

驚いたのが、ペダルの位置です。どういうわけか、全体がかなり右側(助手席側)にオフセットしていて、運転席に座ってペダルを踏むには身体を右側に傾ける必要に迫られるのです。ステアリングシャフトの影響なのかもしれませんが、これは踏み間違えを誘発する原因になるのではないかと心配になりました。だからなのか、ペダルには機能を間違えないように、アクセルが「+」、ブレーキが「-」の表記が大きくされていました。

↑ペダルは運転席正面より右側にかなりオフセットして配置されている。そのため、運転時はやや右に傾いた姿勢が強いられる

 

一方で日本では、装備が一般的となっているエアバッグや衝突被害軽減ブレーキといった安全装備は非搭載です。それでもABS(Anti-lock Brake System)は搭載されていますが、この辺りも低価格を実現するための割り切りなのだと思います。聞くところによれば欧州のラトビアでは、この車両に安全装備を加えて販売する車体メーカーがあり、その状態での販売価格は130万円ほど。日本でも安全装備を加えれば、やはり最低限そのぐらいにはなるのかもしれませんね。

 

バッテリーは最上グレードのみが13.9kwhですが、試乗できたグレードは9.3kwhとかなり控えめ。電圧も93Vと、EV用としてはかなり低めで、かなり低価格のバッテリーを使っていることがわかります。ただ、100kg近くあるバッテリーを載せているにも関わらず車体重量は700kg未満。そのためか、スペック上の航続距離は120kmと容量の割に長めです。しかも最高速度は100km/hで、中国では高速道路も走れます。なお、充電機能は普通充電のみで、急速充電器には非対応でした。

↑元々駆動用プロペラシャフトが収まっていたフロアには電池総電気量9.3kWhのバッテリーが収まる

 

↑フロントグリル内にある充電口。充電時は車内のコントロールダイヤルで充電モードに切り替えてから行う

 

踏み込みにリアルに反応。加速感も想像以上にスムーズ

さて、いよいよ試乗です。電源ONするには、キーシリンダーに鍵を挿入して回す懐かしい形式となっていました。思わず「EVなのに?」と思ってしまいましたが、古くても使えるものはそのまま活かす、コスト切り詰め感が伝わってきますね。運転モードはセンターコンソールにある回転式ダイヤルでR(後退)N(中立)D(前進)を選択し、あとはパーキングブレーキを解除してアクセルを踏めばスタートします。

↑折りたたみ式のリモコンキーを付属。電源をONにするには、このキーをキーシリンダーに差し込んで回す方法を採用する

 

走り出すとフロント付近から「クォーン」という擬音が聞こえてきました。日本でいう車両接近通報装置に相当するものだと思いますが、これは走行中の車内でもはっきり聞こえてきます。うるさく感じるほどではないですが、遮音についてはあまり配慮されていないのでしょう。また、電動車ならではの回生ブレーキは装備されず、エネルギーを回収する機構は装備されていません。この辺りはコストを徹底して切り詰めた感アリアリですね。

↑駆動力を発生するモーターは、ベース車となるガソリン車のデフギアボックスにダイレクトに取り付けた

 

試乗では決められたコースを数回走ることができたので、最初は控えめにアクセルを踏み、後半は少し強めにアクセルを踏み換えて試してみました。走り始めた印象は踏み込みにリアルに反応し、パワフル感はないものの、スムーズにスルスルッと走り出す感じです。足回りもそれほどヤワな感じはありません。アクセルを踏み込むと、それでもスムーズさは変わらず、ストレスなく速度が上がっていきました。

↑走行時のメーターパネル。速度は中央に、右上がバッテリー残量、その下に航続可能距離、左が駆動状況が示されている(限定エリア内で安全を確かめて撮影)

 

最高で40km/h+αまで出してみましたが、加速に不満は感じませんでした。ただ、試乗コースはそれほど広くはないので、アッという間にコースの終端に到着し、そこでブレーキ。この時は踏みしろの遊びがやや大きめかな? と思いましたが、制動そのものはスムーズで不安はありませんでした。割とキツメのブレーキングでもフロントが大きく沈むことなく停止。これならタウンユースで使う分には十分な能力を発揮してくれると実感した次第です。

↑センターコンソールにある回転式走行モード切り替えスイッチ。パーキングモードはなく、駐車中はハンドブレーキで駐める

 

試乗した印象は、価格以上によくできたEVというのが正直な気持ちです。衝突時の衝撃吸収がどの程度まで仕上がっているかはまったく不明ですが、少なくとも機能的には日本が来年から本格的に一般販売する超小型モビリティで十分に参考になると思いました。より高い信頼性の下、日本らしい小型EVのカテゴリーが発展していくことを期待したいと思います。

↑元々エンジンが収まっていたボンネット内はスカスカな印象。モーター制御ECUとインバーター、エアコン用電動コンプレッサーなどが収まる

 

 

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