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 IDC実行委員会主催によるインディーズゲーム開発者のためのオンラインカンファレンス「Indie Developers Conference 2021」が2021年8月21日に開催された。このカンファレンスは,個人または数人でゲーム制作を行っている開発者達が技術やノウハウ,知見などを共有し,開発者同士の結びつきを深めることなどを目的としたもの。
 本稿では,カンファレンスの最後に行われたパネルディスカッション「これは知っておきたかった、インディー活動に必要な知識」をレポートする。

画像集#001のサムネイル/インディーズゲーム開発者に必要な知見とは。「サクナヒメ」「グノーシア」などの開発者が自らの経験を語ったパネルディスカッションをレポート

 なお参加者は以下のとおりだ。

パネリスト:

  • なる氏(えーでるわいす)
  • hako 生活氏
  • 川勝 徹氏(プチデポット)
  • 溝部拓郎氏(ポケットペア)

モデレーター:

  • IndieGamesJp.dev 一條貴彰氏

 ディスカッションの最初のテーマは,「これは知っておきたかった! パブリッシャー契約」。すなわちインディーズゲーム開発者が,自分のゲームを配信するためパブリッシャと契約するにあたって,「この知識があればもっと良かった」「契約のこの部分にもっと着目するべきだった」といったことを振り返るものとなった。

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 プチデポットの川勝氏によると,同社ではケースバイケースで,自社でパブリッシングすることもあれば,パブリッシャと契約を結ぶこともあるという。例えば「メゾン・ド・魔王」PS4 / Switch / PS Vita / 3DS)はいくつかのパブリッシャを通しての配信だったが,最新作である「グノーシア」PC / Switch / PS Vita)のNintendo Switch版は自社でパブリッシングしている。
 氏によれば,日本のパブリッシャはインディーズゲーム開発者に優しく,理解を示してくれるとのこと。一方で海外のパブリッシャはワールドワイドでセールスを伸ばすことを考えているため,シビアな交渉になるケースが多いとのことだった。

 ポケットペアの溝部氏は,「Overdungeon」を配信するとき中国のパブリッシャと契約したエピソードを披露した。それによれば交渉自体は原則日本語だったが,最終的な契約書は英語で記されていたとのこと。とくに弁護士などを間に挟むことはしなかったそうで,溝部氏は「本来であれば弁護士に依頼すべきかもしれないが」と前置きしたうえで,「結局,最後に責任を持つのは自分なので,1つ1つしっかりチェックしていった」と話していた。

 えーでるわいすのなる氏は,パブリッシャとのやり取りでありがちなケースを紹介した。例えばスクリーンショットや動画の撮影といった広報素材の制作は,ゲームの特徴や見栄えのする部分を知っている開発者自身がやるべきで,パブリッシャ任せにしないほうが良いそうだ。
 ではパブリッシャと契約するメリットは何かと言えば,ゲームを販売にあたっての手続きやフォーラムのサポート対応,セールの対応など自分でやるには煩雑な業務をすべて任せられることだという。とくに店頭で販売するパッケージ版を作る場合は,雑務が多すぎてパブリッシャがいないとまず無理と語っていた。
 これについて自社パブリッシングでパッケージ版を作った経験のある川勝氏は,プチデポット内に交渉やプロデュースを担当する人材を置き,ゲーム開発と業務を切り分けたいと考えているとも話していた。

 hako 生活氏は,パブリッシング事業も行っているroom6と共にインディーズゲームレーベルを運営している。こうした活動を始めたきっかけは雑務をroom6に任せ,広報素材制作を含むブランディングは開発者自身ができないかと考えたことにあったという。またレーベルを立ち上げてからは,作風が近いゲームや開発者が集まったことでより効果的な宣伝が可能となり,各々のブランド力が向上したとも話していた。

 続いてのテーマは,「これは知っておきたかった! Steamリリース時の手続き」という話題だ。川勝氏は,Steamでゲームを販売するための手続きには型があることを指摘し,それを把握してさえいれば難しくないと語った。

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 溝部氏はパブリッシング手段をスマートフォンゲーム,コンシューマゲーム,そしてSteamに分類して考えた場合に,審査に時間がかかるがスマホゲームが一番簡単だと指摘。2番めに簡単なのはSteamとのことで「やってみれば自分でできる」とし,「各種の審査は緩めだが,面倒なのは多言語対応やグローバルで販売したときの税金の処理」と語った。
 なる氏はSteamでゲームをリリースするにあたり,そのゲームがマウスおよびキーボードへの対応をしていないと炎上しやすいことを指摘した。また溝部氏によると,「クラフトピア」にはコントローラに対応していないことに対するクレームが寄せられているという。

 その一方,hako 生活氏は「アンリアルライフ」PC / Switch)をマウス/キーボード,コントローラ,タッチ入力とすべて同じ画面上で使えるよう最初に設計したことを明かし,「結構大変だったので,1つ1つ対応していったほうが時間がかからなかったかもしれない」と振り返る。
 また「アンリアルライフ」をSteamでリリースするにあたっては,ゲーム内の実績機能のために自身でアイコンを70前後作ったそうだが,そうしたストア関連の業務をroom6とどうやって切り分けるかの線引きは,まだ明確になっていないとのこと。
 加えて「アンリアルライフ」では,サウンドトラックもゲーム本体と同時リリースする予定だったが,これが叶わなかったエピソードも語られた。サウンドトラックのリリースにもストアページの先行公開が必要だとは知らず,ゲーム本体の手続きしかしていなかったため,同時リリースできなかったそうだ。

 3つめのテーマは,「これは知っておきたかった! 開発の大変さ」だ。このテーマでは,技術的な側面を筆頭に,チームマネジメントや外注管理などの大変さが語られた。
 川勝氏はテストプレイを挙げ,「回数をこなすほどゲームのクオリティが上がると思い込んでいるので,体力的にしんどいけれども職種を問わずメンバー4人全員で1000回2000回と頑張っている」と説明。
 またhako 生活氏は「アンリアルライフ」を普通に遊んで7時間,リアルタイムアタック(RTA)なら4時間でクリアできるゲームにすると決めていたという。そのため開発中は,何か1つ直すごとに本当に4時間でクリアできるか,いちいちテストプレイしていたとのことだ。

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 加えて川勝氏は「ボタンを押したときの効果音」を挙げ,「これが気持ち良くないと,何千回とプレイしているうちにイライラしてくる。音のタイミングやフェードイン/フェードアウトなど,かなりチューニングした」と話していた。

 なる氏は,「メンバーに逃げられる」ことを挙げ,「メンバーに何かを頼むと音信不通になることがある。契約書を交わさない場合は,逃げられることを前提に考えたほうが良いかもしれない」と語った。
 また川勝氏は,チーム内の相性やメンバー各自の考え方を知るために,最初に小規模のゲームを1本とにかく完成させると良いという持論を披露。実際,プチデポットではこの方法を試したそうだ。

 溝部氏は,「クラフトピア」を開発するにあたりパフォーマンスが重要になると考え,Unityの中核基盤DOTS(Data-Oriented Technology Stack)を導入しようとしたエピソードを披露した。しかしDOTSはまだ再構築中の未完成な状態だったので,ポケットペアのスタッフの手に負えるものではなかったそうで,溝部氏は「当たり前のことだが,技術的な部分は無難なものを選んだほうが良い」と振り返っていた。

 加えて溝部氏は,リリーススケジュールの公開についても言及。安易に考えて日程を決めると延期しなければならなくなり,プレイヤーの期待を裏切ってしまうこと,また延期したら可能な限り早くリリース日を再設定するべきだが,現実的には難しいことなどが挙げられた。
 またhako 生活氏は「自分の中で99%できたと思ったら,そこから完成までに半年かかる」と話すと,川勝氏も同意。一方なる氏は,「ゲームが完成したらリリース日を公開する」というPlay, Doujin!の考え方に賛同すると話していた。

 そのhako 生活氏は,カメラ用コンポーネント「Pixel Perfect Camera」が出るまでは,Unityとドット絵の相性が良くなかったことを指摘。そのため「アンリアルライフ」の開発にあたっては独自のフォント表示機能を作らなければならず,「なぜこんなに遠回りしているんだろう」と思っていたそうだ。

 最後のテーマは,「これは知っておきたかった! 税金・控除・助成金」。溝部氏は「クラフトピア」が80万本セールスを記録しており,単価2500円なので単純計算では20億円の売上になるが,実際にはそんなに儲かっているわけではないことを引き合いに出した。
 その理由はSteamでは国や地域に応じて自動的に価格調整がなされるためで,同作の場合,中国では日本円換算で2000円未満,ほかの国では1000円程度と,2500円よりも安い価格で販売されているという。さらにSteamの手数料と各国での販売時の消費税を控除した時点で売上は半分になり,そこから日本での税金を支払うと,また半分になるイメージだそうだ。

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 川勝氏は,プチデポットではメンバーの生活費がそのまま開発費であるとし,「貯金通帳の記載額が心の余裕。このゲームの開発がうまくいかなくても,ほかに仕事があるから大丈夫と思える状態でないとやってられない」と語った。
 また儲かったら儲かったで後から税金を納めなければならないので,きちんと予算管理するべきとアピールしていた。

 hako 生活氏もまた,開発中に貯金を切り崩すごとに身体が動かなくなるという経験をしたことを明かした。ただ,事前に「ゲーム開発が難航したらプランB,それでもダメならプランCで行く」といったようにいくつか対策を検討していたため,乗り切ることができたという。
 またパブリッシャから資金提供を受けることも考えたそうだが,お金が絡むと縁を切りにくくなり,実際にそうした悩みを抱える同業者がいることから「安易に援助を求めないほうが良い」とも話していた。

 なる氏は過去にSNSで発信したとおり,「天穂のサクナヒメ」開発中に貯金が尽きかけたというエピソードを披露。「お金に関しては,あまり考えていない」と,聞く側が不安になるような話も飛び出していた。

 話題はゲームの価格設定にも及んだ。hako 生活氏は「高めに設定して最初はユーザー数を絞ったほうが,レビューの質が上がって結果的に買ってもらいやすくなる」という持論を示した。
 溝部氏は,「競合タイトルに合わせる。場合によっては,それより安くする」とのこと。なる氏は「どう設定しても,高いという意見と安いという意見の両方が出る」とし,Unityの大前広樹氏による「双方の理解が得られる範囲で,可能な限り高い価格にすると,お互い幸せになれる」という発言を紹介し,話題をまとめた。