『ダンジョンエンカウンターズ』は遊んでいると悲鳴をあげたくなるゲームだ。パーティーメンバーを決めていざ冒険開始! と思ったら、4Fでいきなり仲間が石化して置いていくハメになり唖然とする。
ダンジョンのなかで新たな仲間を探すのも本作の醍醐味だ。強い剣を持っている犬が仲間になって嬉しい! と思ったら直後にその武器が破壊されて目の輝きが消えたりもする。
あるいは、「探索も安定してきたな」と慢心したら、うっかり強い敵が出るフロアを踏んでしまい、メインパーティーが迷宮の彼方にぶっ飛ばされて途方に暮れる。おまけにその後は、低レベルの仲間でどこかへ消えた者たちを探さなければならなくなるのだ。
このように、“外道”と言いたくなる仕掛けだらけのダンジョンに挑むのが『ダンジョンエンカウンターズ』だ。おまけに本作は探索とバトルに注力した極めてストイックな作りになっており、上記のような苦痛を受けても、いやむしろ苦痛を受けるからこそダンジョン攻略に燃える人に向けられた作品といえる。
寂しく恐ろしいダンジョンには「死ぬより怖い罠」だらけ
『ダンジョンエンカウンターズ』はスクウェア・エニックスが発売、キャトルコールが開発したRPG。ディレクターはFF5のジョブ・アビリティシステム、FF12のガンビットシステム、そしてアクティブタイムバトルシステムなどを生み出した伊藤裕之氏である。
ストーリーはほぼない。キャラクターの設定はあるが公式サイトで見られるそれがすべてで、会話などもない(プレイヤーの脳内には発生しうるが)。では何があるのかといえば、ダンジョン探索とバトル、それだけだ。
プレイヤーはキャラクターを操作してマス目を移動していく。マスには十六進法の数字が書かれている場合があり、白文字の場合は数値に対応したイベントが発生するようになっている。
本作は10階層でひとつのエリアになっており、それぞれで違う苦労が用意されている。毒や石化攻撃を仕掛けてくる敵が出てきたり、罠によって金をとられたり、場合によってはとんでもない強敵が潜んでいることも。探索時はエリアに合わせた環境音が流れるだけで、寂しくて厳しい世界があなたを待っている。
しかし、ダンジョンにあるのは罠だけではない。場合によっては回復ポイントや店も配置されている。また、どこかに落ちているアビリティを見つければ探索はグッと楽になるだろう。たとえばバトル発生マスがわかる「バトル番号表示」があれば厄介な敵を避けやすくなるわけだ。
エリアが変われば危険の中身も変わる。毒になんとか対応できるようになったと思ったら、今度は仲間がモンスターに食われてしまうなんて泣きたくなるような事件も発生する。おまけにどんな出来事もすぐオートセーブされてしまうのだから厄介だ。しかし、それをなんとか乗り越えていく喜びが『ダンジョンエンカウンターズ』の魅力でもある。
また、道中では謎解きも用意されている。数字と場所を利用した問題が存在しており、もし正解を導ければ特殊な装備が手に入る。謎は非常に難しいが、報酬は相応のもの。クイズに関する知識や優れた記憶力があれば、それもまたダンジョンを攻略する鍵になるのだ。
バトルは極めてシンプル、知識と経験で勝利を掴め
バトルはFFシリーズでおなじみのアクティブタイムバトル。各キャラクターのゲージが溜まるとコマンドを選択でき、攻撃などを行う。バトルで登場するリソースは物理防御、魔法防御、HPの3種類とかなりシンプルだ。
バトルではモンスターのHPをゼロにすれば倒せるわけだが、その前にまず物理・魔法防御を削らなければならない。モンスターによってどちらの防御が低いのか、あるいは防御が高くてもHPが極端に低いなどさまざまな種類があるため、対応を見極める必要がある。
武器は単体攻撃で威力が高い剣、全体攻撃の槍、ランダムダメージの斧、遠距離攻撃できる弓、そして魔法など。登場するモンスターによってどれが効果的なのか変化する。
たとえばアンデッドは防御の数値こそ高いがHPが1しかない。飛行している敵には剣や槍が当たらないので、弓や魔法を用意する必要がある。本作は探索して情報を得ておけば、どのマスでどんな敵とエンカウントするか確認できるので、対策を練ってバトルを有利に進められるわけだ。
逆に、対策できていない最初は驚くほど敵が強く感じるかもしれない。探索してモンスターの情報を集め、実際にバトルして何をしてくるか知り、死にかけながらも戦いに挑む。そうすればモンスターたちを制圧できるようになるわけだ。
バトルBGMは、クラシック曲をエレキギターでアレンジしたものが採用されている。本作の世界を活かすつもりはあまりないようで、良くも悪くも曲単体で目立つものになっているだろう。なお、ミュージックディレクションは植松伸夫氏が担当している。
このゲームはショップの仕様も独特なものになっている。モンスターを倒すと確率でアイテムをドロップするほか、特定のアイテムが店の在庫に追加されるチャンスも発生する。特定の武器がほしければ、決まった相手を狙って倒していく必要があるわけだ。
本作はとにかく敵の攻撃力が高い。ゆえに敵が何度も動く前に先手を打って倒す必要があり、装備している武器を考慮して誰がどれを狙うか、危険度を考慮してどの敵を優先して処理すべきか考えるのが重要となる。もし倒すのが難しければ撤退の判断も必要になるし、その後は欲しい武器を集めなければならない。
まさしく「殺される前に殺す」かのようなバトルであり、勝敗はほとんど戦う前に決まっている。バトル中に戦術を練るというより、またたく間に勝負が決まる独特のアレンジが施されたアクティブタイムバトルといえるだろう。
このように、『ダンジョンエンカウンターズ』では知識と経験が武器となる。何も知らないからこそ敵や罠にやられて頭を抱えるような出来事に遭遇し、それを知ることで克服でき勝利の喜びを味わえる。RPGのなかにあるそのおもしろさだけを研ぎ澄ました作品なのだ。
中盤を越えたところで感じる“息切れ”
しかし、残念なことに本作は中盤から終盤に差しかかるあたりから息切れしてしまう。確かに序盤の探索でははじめて遭遇する奇妙な出来事に衝撃を受けるのだが、そのうち「問題行動を起こす敵・罠が出てくる → アビリティで解決」の流れに慣れてしまう。
私が明確に飽きを感じたのは60階あたりからだ。このエリアはすべて見えない床で構成されており、しかも作りが複雑で歩くのすらとにかく面倒すぎる。もちろん「透明床発見」というアビリティがあるのでこれもなんとかなるのだが、それを入手するのがかなり大変で、はっきりいってここは楽しさよりも苦痛のほうが上回っていた。
バトルも序盤は考えることが多いのだが、特定のアビリティを取得するとただ殴り続けるだけになってしまう。終盤にバトルが単純化するのは一概に悪いともいえないものの、しかし単調になるのが少し早い。結局、探索もバトルも60階あたりで魅力が底をつきかけているのだ。
また、探索とバトルを重視しているがそれでもまだ欲しいものがある。バトル時は2種類の武器しか使わないので2番目の武器を即選択できるショートカットボタンがほしかったし、モンスターの状態異常耐性や攻撃に関する情報もあればより遊びやすかった。面倒な場面で役立つアビリティ「ランダムワープ」のテンポも改善してほしい(たとえ意図的な調整だとしても、だ)。
確かに、初見殺しだらけのダンジョンを黙々と潜るのは楽しい。しかしこのダンジョンは99階構成ではなく、50階くらいで作られていたらと思わずにはいられない。筆者はひとまずのクリアまで23時間ほどかかったが、これが半分になったとしてもミドルプライスの作品としては問題なかっただろう。
ニッチかもしれないが、確かにRPG好きが求めていた作品
とはいえ、『ダンジョンエンカウンターズ』のような作品は非常に歓迎したい。スクウェア・エニックスというさまざまなRPGを手掛ける大手ゲーム会社から、新たな可能性を探る作品が出るのは素晴らしいことだからだ。
やはりRPGといえば豪華なグラフィックや重厚なストーリーが注目されるものだが、こういったダンジョン探索とバトルも重要な要素である。いやむしろ、メインを張れることを本作で証明したといえるだろう。
『ダンジョンエンカウンターズ』は注目に値すべきゲームだ。多くの人に届くべき作品とは言い難いが、ゲームに対して「われに七難八苦を与えたまえ!」といえるタイプのRPG好きには刺さる。刺されて喜ぶ人は、このダンジョンに行かねばならない。
『ダンジョンエンカウンターズ』は探索とバトルだけに着目した、ともすればシンプルすぎると思われるようなRPGだ。ダンジョンのなかには目眩がするほどひどい罠と敵が存在するが、プレイヤーは知識と経験でそれを乗り越える達成感を味わえる。中盤あたりから息切れしている印象は拭えないものの、それでも注目すべき一作であるのは間違いない。
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