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ボストンを拠点とするBiofourmis(バイオフォーミス)の創業者、Kuldeep Singh Rajput(カルディープ・シン・ラジプート)氏は、心不全患者が処方箋に加えてウェアラブルセンサーとアプリを持って退院するという未来を思い描いている。そして2021年7月下旬、FDAによる新たな指定により同社はその目標に一歩近づいた。

2015年に設立されたBiofourmisは、患者のケアを「拡張」するためのソフトウェアを開発するデジタルセラピューティクス企業である。これまでに約1億4500万ドル(約159 億円)の資金を調達し、約350人の従業員を抱えているとラジプート氏は説明する。

BiofourmisのBiovitalsHFは米国時間7月29日、心不全の投薬モニタリングのためのプラットフォームとして、FDAのブレークスルーデバイス指定を受けた。ブレークスルーデバイス指定が必ずしもFDAの認可を意味するわけではないが、これにより審査プロセスの迅速化を可能にし、開発中に連邦政府機関から専門知識を得ることができるようになる。

ラジプート氏によると、Biofourmisには大きく分けて2つの注力分野があるという。1つ目は製薬会社と共同でのデジタル治療法の開発(例えば、投薬のためのアプリや、健康状態をモニターできるセンサーなど)。2つ目は、急性疾患の患者に向けた、自宅でのフォローアップケアである。

前者への進出の一例がBiovialsHFだ。これまでに同社は、冠動脈疾患や心房細動などの疾患の「パイプライン」に対するデジタル治療法を開発しており、また化学療法を受ける患者や慢性的な痛みに対処するためのデジタル治療法も計画している。しかし、BiovitalsHFシステムはFDAのブレークスルー指定を受けた最初の製品であり、ラジプート氏はこれを同社の「主要デジタル治療」と呼んでいる。

BiovitalsHF製品は心不全患者の服薬管理を目的としたソフトウェアプラットフォームである。予め決まった処方箋をもらっていても、心不全患者が自宅に戻ってから薬の量を調整する必要が出てくることがあることから、この発想が誕生した。

心不全の治療では医師が複数の薬剤を使用することが多く、また時の経過とともに投与量を変更することも少なくない。特にACE阻害剤とβ遮断剤の2種類の薬の場合は、漸増、つまり患者が低用量で治療を開始し、時間をかけてゆっくりと用量を増やし、最適な「目標」用量を達成するプロセスが必要になることがある。

しかし、漸増は実生活では困難だ。2020年のある研究では、最適な投与量が達成されているのは心不全患者の25%以下だと示唆されている(他の研究では1%以下という結果になっているものもある)。2017年のCardiac Failure Reviewの解説によると、ACEの目標用量を守っている患者はわずか29%、β遮断剤の目標用量を守っている患者は18%と推定されている。

一方、臨床試験では、多くの患者が50〜60%の割合で最適な量を達成することができており、試験中での服用と実際の服用にギャップがあると考えられている。

BiovitalsHFは、ウェアラブルデバイスからデータを収集および分析することで、患者が退院した後の服薬調整プロセスを効率化したいと考えている。そのデータが、患者の健康状態に応じて薬を漸増させるために使われるというわけだ。

患者、ウェアラブルデバイス、外部の検査結果からの情報をもとに薬の投与量を調整するこのソフトウェア。ウェアラブルデバイスが心拍数、呼吸数、ストローク量、心拍出量などのデータを収集し、その一方で患者が自分の症状をアプリに報告、医師は検査結果を入力する。

「センサーを使って患者から収集したデータとモバイルプラットフォームに基づいて、自動的に増量や減量、薬の切り替えを行い、患者が適切で最適な量を服用できるようにします」とラジプート氏は話す。

すると患者には薬の調整が行われることを知らせる通知が届くという仕組みである。

BiovitalsHFプログラムはまだ概念実証試験が一度しか行われていないが(詳細は後述)、Biovitals患者モニタリングプラットフォームはこれまでに他の疾患でもテストされている。

例えば、香港のクイーン・メアリー病院では、バイオセンサーを1日23時間装着した、軽度の新型コロナウイルス(COVID-19)患者34人のモニタリングにBiovitalsシステムが採用されている。Scientific Reportsに掲載された論文によると、このプラットフォームは患者が悪化するかどうかを93%の精度で予測し、入院期間を78%の精度で予測することができたという。

BiovitalsHFシステムはこれとは少し異なる。患者をモニタリングすることを目的としてはいるものの、ラジプート氏が目指すのは、このテクノロジー自体を治療プログラムとして投与するということである。

つまり医師がBiovitalsHFプログラムを3カ月間「処方」し、ソフトウェア自体が患者の治療結果をモニターし、投与量を決定するということだ。

Biovials HFを単なる意思決定支援ソフトウェアとしてではなく、治療レジメンとして販売できるようにすることが目的なのである。わずかな違いのように感じるが、つまり同社は単なるデリバリーデバイスではなく、それ自体が医薬品のような存在になろうとしているわけである。

「デジタル治療用の製品ラベルには、臨床決定支援のための単なるモニタリングツールではなく、実際の治療効果が記載されています」とラジプート氏は話す。

当然、このような主張をするからにはしっかりとした結果が必要だ。同社は2021年3月に終了した概念実証臨床試験で、このコンセプトの初期テストをすでに行っているが、有効性を証明するためには今後さらに多くのテストを行う必要がある。

この試験では282名の患者を90日間モニターし、BiovitalsHFを使用している人と通常の標準治療を受けている人を比較。このプラットフォームが薬の投与量を最適化できるかどうか、つまり、この場合は最適な投与量の50%以内に収めることができるかどうかを判断するというのがこの試験の目的である。

同研究の結果はまだ公表されていない。しかし、ラジプート氏によるとこの研究はそのエンドポイントを満たしており、患者の生活の質や心臓の健康状態の改善にもつながっているようだ。

「3カ月以内に、患者のQOLや心機能が大きく改善され、血中バイオマーカーであるNT-proBNP(心不全のマーカー)も減少しました。これをもとにFDAにデータを提出したところ、ブレークスルー指定を受けることができました」と話している。

同社は査読付きジャーナルへの掲載に向けて、このデータを提出したという。

ブレークスルー指定を受けたことで、BiovitalsHFの開発が急速に進むかのように思えるが、実際はFDAの正式承認はおろか、市販承認に至るまでの道のりはまだ長いと言えるだろう。

「ピボタル試験はすぐにでも開始する予定です。そしてFDAへの正式な申請は、来年の6月か7月頃になると思います」とラジプート氏は話している。

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画像クレジット:Biofourmis

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)