ギャンブルにハマる人は、往々にして「無謀な賭け」にチャレンジするようになります。
実際、パチンコの勝率を理解していてもやめられない人や、低確率の課金ガチャに大金をつぎ込む人は多いです。
また運よく勝ちが続いた人は、いわば調子に乗って、その後に無謀な賭けをしやすくなると言われています。
しかし、京都大学大学院教育学研究科に所属する田岡 大樹(たおか だいき)氏ら研究チームは、勝ち続けた経験だけでなく、多くの負けの経験もまた無謀な賭けにつながると発表しました。
研究の詳細は、10月11日付の学術誌『Journal of Gambling Studies』に掲載されています。
目次
- 無謀な賭けをしてしまうギャンブル依存症
- 日本人63名によるギャンブル実験
- 勝っても負けても「無謀な賭け」にチャレンジすると判明
無謀な賭けをしてしまうギャンブル依存症
最近日本では、カジノ導入に対するさまざまな意見が飛び交うようになっています。
反対意見として特に多いのは、「ギャンブル依存症の人が増える」というものでしょう。
私たちが実感しているように、ギャンブルには人々を依存させる大きな力があります。
とはいえ、すべての人が依存症になるわけではありません。
そのため無謀な賭けを行う人の心理的メカニズムを解明するなら、ギャンブル依存症を未然に防げるかもしれません。
そこで研究チームは、ギャンブル依存症の大きな特徴2つに焦点を当て、分析することにしました。
その1つは「無謀な賭け」であり、これは負けが見込まれる勝負において多額の賭けを行うことです。
そしてもう1つは、「負け追い」と呼ばれるもので、損失を取り返そうとして、賭けを続けたり賭け金を増やしたりする行動のことです。
研究チームは、ギャンブル中の感情がメリット/リスクの判断にどのように関係するのか、またそれらが無謀な賭けや負け追いにどのようにつながるのか調査することにしました。
日本人63名によるギャンブル実験
今回の実験には、日本人の大学生・大学院生63名(男性35名、女性28名、平均年齢21.4歳)が参加しました。
そして参加者は勝率が変化するギャンブルに対して、所持チップをいくら掛けるのか自分で考えながら挑戦しました。
彼らは事前に行われた第1セッションでの実験操作により、次の3つのグループに分かれました。
- 多くの勝ちを経験したグループ
- 多くの負けを経験したグループ
- 中間の勝敗を経験したグループ
そして本番の第2セッションでは実験操作が行われず、どの参加者も同じチップ数でスタート。
もちろん参加者は皆、より高い報酬を獲得することを目指してギャンブル実験に挑戦しました。
これにより、事前の経験がギャンブル中の感情や賭け方にどのような影響を与えるか分かります。
そして結果は、ギャンブルをする人にとって、やはり依存症が身近であることを示すものとなりました。
勝っても負けても「無謀な賭け」にチャレンジすると判明
実験の結果、主に3つの点が明らかになりました。
1つ目として、事前の経験によってギャンブル中の感情は異なると判明。
そしてその感情は確かに当人の判断にも影響を与えていました。
2つ目に、ギャンブルの初期段階では、ポジティブな感情が高くネガティブな感情が低いほど、「この賭けはメリットが大きい」と判断するようになり、無謀な賭けにつながると分かりました。
つまり多くの勝ちを経験した人ほど、最初の段階で無謀な賭けを行いやすいのです。
3つ目に、事前に多くの負けを経験したグループは、ギャンブル実験の終盤にかけて集中的に無謀な賭けを行うと判明。
これには「負けを取り戻そうする感情」が関係していると考えられます。
つまり、多くの負けを経験した人は、負け追いを行ってしまう可能性が高いのです。
さて、これらの結果から「勝ちばかりでも負けばかりでも、結局は無謀な賭けにつながる」と分かりました。
これはギャンブルを行う人が、勝っても負けても依存症へと誘導されることを示唆しています。
もちろん、今回の研究だけでは無謀な賭けに至るメカニズムが完全に解明されたわけではないので、さらなる研究が必要でしょう。
とはいえギャンブルをしようと考えている人は、「勝っても負けても冷静な判断はできなくなる」ことをあらかじめ知っておくと良いかもしれませんね。
参考文献
勝ちばかりでも、負けばかりでも、「無謀な賭け」につながる -望み薄なギャンブルに賭けてしまうのはなぜか?-
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-10-20
元論文
Role of Affect and Risk–Benefit Perception on Reckless Betting: Prior Wins and Losses Both Lead to Risky Bets
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10899-021-10077-4