もっと詳しく

ソニーがスマートフォン「Xperia」に対応するVRヘッドセット「Xperia View」を、11月19日に発売。その本機で楽しめる、4K/HDR対応の高画質VR映像の実力を、乃木坂46が出演するXperia View専用コンテンツを見て体験しました。そしてソニーがなぜ、いまVRヘッドセットに注力するのか、担当者にねらいを聞きました。

 

Xperia Viewはスマホと組み合わせて使うVRヘッドセット

↑ソニーが発売したVRヘッドセットのXperia View。Xperiaを装着して使用する、ケーブルレスのVRヘッドセットです

 

Xperia ViewはソニーのAndroidスマホ「Xperia 1 III」「Xperia 1 II」専用のVRヘッドセットです。

 

両スマホが搭載する、クアルコムSnapdragonシリーズのシステムICチップには、高性能なCPUが統合されています。このチップの高いパフォーマンスを活かして、最大8K解像度のHDR映像をデコード処理しながら、これまた両モデルが搭載する4K有機ELディスプレイを通して、明るく高精細なHDR対応のVR映像を再生します。

 

VRヘッドセット本体には通電するところがなく、バッテリーにストレージ、通信用のモジュールなどもありません。本体のフロントカバーにXperiaを装着し、VRヘッドセットをかぶった状態でレンズをのぞき込むようにして、VR映像を視聴するシンプルなデバイスです。

 

本機の技術革新は、対角120度の広視野角を実現した、独自開発レンズに集約されています。中心部分はクリアで高解像な視界を確保した非球面レンズで、通常であれば解像感が減衰していくレンズ周辺部分に視線を向けると、明るく鮮やかなVR映像が楽しめるよう、独自形状を採用したフレネルレンズ(同心円状の溝を付けた部分)を組み合わせています。この独自のハイブリッド構造により、広い視野に渡る高画質を実現しているのです。

 

特に最新モデルのXperia 1 IIIのディスプレイは、最大120Hzの高リフレッシュレート表示に対応するので、VR映像を表示した場合でも被写体の精細感を保ったまま滑らかな動画が見られます。

↑ソニーのデジタルカメラ「α」シリーズのエンジニアも開発に加わった、Xperia View専用の対角120度広視野角レンズ。高解像・クリアな中心のレンズと、周辺も明るく高精細な映像視聴を実現するためのフレネルレンズを組み合わせたハイブリッド構造を取り入れています

 

↑一般的なVRヘッドセットのレンズと「画質の違い」を実現しています

 

ソニーが8Kで制作したオリジナルのVR映像などが見られる

Xperia Viewでは、Android OS対応の専用アプリを介してVRコンテンツにアクセスします。発売当初はDMM動画、360Channelが提供するVR動画コンテンツに対応。それぞれのアプリをXperiaにインストールすると、Xperia Viewアプリのランチャーメニューからアクセスして見られるようになっています。

↑Xperia View専用アプリのメニュー画面。こちらに視聴可能なコンテンツや連携するアプリが並びます

 

このほかにもmicroSDカードに保存したMP4(H.264/H.265)形式のビデオや、JPG/PNG形式の静止画をXperiaから読み込み、Xperia Viewアプリで再生すると、VR映像の空間内にバーチャルスクリーンが表れ、2D表示のビデオや写真を再生して楽しめます。

 

さらに、ソニー独自制作のオリジナルVRコンテンツも、Xperia Viewアプリから視聴できます。加えて、製品の発売当初から2022年4月30日まで、Xperia Viewを購入すると乃木坂46が出演するオリジナルVRコンテンツ「いつか混ざりたいものです」が無料で見られます。

↑人気アイドルグループの乃木坂46が出演するオリジナルのVRコンテンツが期間限定で配信されます

 

この特典映像は、ソニーのプロフェッショナル用デジタルシネマカメラ「CineAlta VENICE」を2台使って、前方後方180度ずつの映像を合成して360度全方向に広がるVR映像に組み上げています。乃木坂46が出演する映像の撮影は、ソニーグループの横断型XRプロジェクト「Project Lindbergh」から発進。優れた先進映像が表彰される米国ルミエール賞を、2020年に受賞したチームがコンテンツ制作を担当しています。

↑乃木坂46のコンテンツはソニーの8K/HDR対応プロ用シネマカメラ「CineAlta VENICE」で撮影しています

 

思わず後ずさりしてしまうVR映像の美しさ

ソニーが11月中旬に実施したオリジナルVRコンテンツの発表会にて、筆者もXperia Viewの映像を初めて視聴しました。Xperia Viewの4K/HDR映像は、粒の粗さやノイズ感がまったくありません。映像の切れ目はほとんどなく、シームレスにつながるVR空間のリアルな広がりが感じられます。

↑筆者も乃木坂46のVRコンテンツを体験してきました

 

試聴したVR映像は乃木坂46のメンバー、齋藤飛鳥さん、梅澤美波さん、賀喜遥香さん、遠藤さくらさんと共有する学校の教室の空間だったのですが、まるで空間が目の前にあるかのような臨場感。奥行き方向にも空間の広がりが生々しく感じられます。4人のメンバーが視聴者に向かって前のめりに身を乗り出しながら語りかけてくる演出もまたリアル。手を伸ばすどころか、思わず恐縮して後ずさりしてしまいました。

↑第1弾のコンテンツ「いつか混ざりたいものです」に出演する乃木坂46のメンバー。左から遠藤さくらさん、齋藤飛鳥さん、梅澤美波さん、賀喜遥香さん

 

8K映像をベースとした4K/HDRのVR映像なので、4人が着ている衣装の細部などディティールの情報量がとにかく豊富です。部屋の奥の壁に張り出されている“お知らせ”の紙に書かれた文字も読めそうなほどでした。さらに、4人のメンバーは肌の透明感がしっかり表現されていることに加え、髪の艶には色合いや明るさの強調感がなく自然なまま描かれています。

↑コンテンツの撮影現場の様子。2台のVENICEで360度周囲の景色を撮影します

 

↑メンバーが身を乗り出してくる映像に思わず後ずさりしてしまいました

 

今回体験したコンテンツはXperia Viewを装着しているユーザーの視点が固定されるタイプの映像ですが、例えば美しい自然の風景や街並みを、カメラを移動させて撮ればさらにリアルな旅気分が味わえるかもしれません。

 

好感が持てた快適な装着感とシンプルな操作方法

画質以外では、Xperia Viewの装着・操作方法がとてもシンプルだったことが好感触でした。VRヘッドセットは後頭部を上下から支えるナイロン製のバンドで固定します。面ファスナーで長さ調整も可能なので、慣れればベースボールキャップをかぶるような感覚で人の手を借りずに着脱できます。

 

質量は約400gと、ハイエンド級のオーディオヘッドホンぐらいの重さです。ただ、スマホをパネルに装着すると少し前に比重が偏る感覚もあります。とはいえ、バンドをしっかりと固定してソファなどに腰掛ければ、気にならないレベルだと思います。

↑Xperia Viewは後頭部のバンドを調節して装着します。質量は約400g

 

Xperia Viewは内部のレンズ側の空間を広く設計しているので、フレームのスリムなメガネであれば、かけたままXperia Viewを上から装着できました。また、人それぞれに異なる目の中心間距離については、VRヘッドセットの本体底面に設けられているレバーで瞳孔間の距離調整が可能。

 

操作面では、Xperiaを装着した状態で側面のボタンが操作できるように、Xperia Viewにスリットが設けられています。このとき、Xperiaの音量キーはカーソル移動、カメラキーは決定ボタンになり、別途リモコンを使わなくてもコンテンツの選択・再生操作ができます。さらにVRヘッドセットを装着した状態で首を左右に振るジェスチャー操作でカーソルを移動したり、本体側面を2回軽くタップすると決定になったりといった操作も可能です。

↑VRヘッドセット側面のスリットから3.5mmヘッドホン端子に有線接続のヘッドホン・イヤホンをつなぐことができます。また、Xperiaの内蔵スピーカーからの音もこのスリットから出力される仕組みです

 

↑VRヘッドセットの底面に設けられているレバーで瞳孔間の距離調整ができます

 

Xperia Viewは高画質VR映像の視聴に特化したデバイス

今回は発表会の機会に、Xperia Viewを担当するソニーの木山陽介氏に新製品が誕生した背景や今後の展望を聞くことができました。

↑Xperia Viewを担当するソニー株式会社 モバイルコミュニケーションズ事業本部 モバイルコミュニケーションズ事業部 第1ビジネス部 統括部長の木山陽介氏にインタビューしました

 

Xperiaといえば、まずソニーのスマホをイメージする方が多いと思います。ですが、実はこれまでにもコミュニケーションロボットの「Xperia Hello!」やスマートプロジェクター「Xperia Touch」、コミュニケーションデバイスとしての性能を強化したワイヤレスイヤホン「Xperia Duo」などの先進的な製品を送り出してきました。

 

木山氏によると、Xperia Viewの開発は今から数年前に始まり、ソニーグループのVRに関連するテクノロジーやノウハウに横串を刺す形で連携を図りながら進めてきたそうです。この時期に商品として発売を迎えた理由を、木山氏は次のように説明しています。

 

「8K/HDR映像のデコードがスムーズにできるモバイル向けの高性能チップセットが使えるようになり、さらに5G対応の高速・大容量通信ができるネットワークインフラが整備されてきたことに背中を押される格好で、Xperia Viewの商品化が実現しました。頃合いを同じくしてVR/XR体験や、メタバース(仮想空間)への関心が高まってきたことも追い風になりました」(木山氏)

 

ソニーでは、VR体験による高い没入感を得るためには「画質」のレベルを上げることが特に重要と考えたそうです。そこで、まずは高画質4K/HDR対応のディスプレイを搭載するXperia 1 IIIとXperia 1 IIに対応する形でXperia Viewの設計を練り上げてきました。

 

コアとなる対角120度の広視野角レンズの開発には、ソニーのデジタル一眼レフカメラ「α」シリーズのEVF(電子ビューファインダー)を担当するエンジニアが深く関わってきたそうです。

 

そして360度映像の撮影にはシネマカメラのVENICEだけでなく、ソニーグループとして研究開発に注力する、実空間をまるごと360度視点からのデジタル映像としてキャプチャする「Volumetric Capture」の技術、あるいは空間再現ディスプレイ「ELF-SR1」の開発から得たノウハウなども投入されています。

 

なお、ソニーには「PlayStation VR」というリアルなVR体験が楽しめるもうひとつのゲーミングデバイスがあります。そこでXperia Viewはあえてゲーミングコンテンツに踏み込まず、最大4K/HDR対応の高精細なVR映像をシンプルに視聴することに特化したデバイスとしてすみ分けることにより、ソニーグループ全体として広範囲なユーザー層にそれぞれの期待に合うVRエンターテインメントを届けたいと木山氏は意気込みを語ります。

 

VR対応の映像コンテンツについては、乃木坂46が出演するソニーオリジナルの作品を今後も配信予定ですが、木山氏は「今後もパートナーシップの拡大にも力を入れながら、多くの方々にXperia Viewを使って楽しんでもらえるコンテンツを届けたい」とコメントしています。

 

来年以降は国内でもさらに5Gモバイルネットワークのインフラが普及を広げるはずです。そこで例えば、Xperia Viewで4K/HDR対応のVRライブストリーミング視聴も楽しめるようになれば、さらに盛り上がりそうです。

 

対応するスマホやバラエティ豊かなコンテンツの拡大は今後に期待

Xperia Viewを体験すると、VRエンターテインメントによる本物の感動を味わうためには「画質」がとても大事な要素であることが実感されます。また、ソニーが考えるベストな高画質VR体験を実現するためには、4K/HDR対応のXperiaが欠かせないこともよくわかります。

 

一方で、ほかのXperiaシリーズのスマホにも最適化された高画質体験を提供できるようになれば、Xperia Viewにより多くの関心が集まるはずです。コンテンツについても、特定のアイドルやアーティストのファン以外にも広くVR体験の価値が伝わるように、雄大な自然の風景、街並みなどを撮影したVRコンテンツなどもぜひリストに加えてほしいと思いました。

↑スマホを装着するフロントパネルが簡単に着脱できる機構になっているので、もしかするとこの機構により、ほかのスマホとの互換性を確保しているのかもしれません

 

最後に、Xperia Viewはスマホを装着した状態で、スマホのカメラが露出するデザインになっています。もしかすると将来、ヘッドセットを装着した状態で、カメラで外の様子を撮影しながら、現実の風景にCGを合成して映像を見る、AR/XRエンターテインメント的な使い方もありそうです。発売後も続報に注目したくなるような製品と言えるでしょう。

 

【フォトギャラリー】※画像をタップすると閲覧できます。一部SNSからは閲覧できません。