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オーディオスタートアップSyng(シング)は、平均的な新参のハードウェアスタートアップよりも少し華々しい。それは主に、同社を率いているチームのためだ。創業者でCEOのChris Stringer(クリス・ストリンガー)氏は、Jony Ive(ジョニー・アイブ)氏がApple(アップル)で最初に雇った人物であり、同社で21年間働いた。インタビューでストリンガー氏は、ステレオオーディオを初めて聴いた時のことを「最も感銘を受けたプロダクトデモだった」と述懐した。そして同氏の会社は、空間オーディオを使ってホームリスニング体験を刷新することができる「triphonic(トリフォニック)」オーディオハードウェアを作ることでその感銘を具体化しようとしている。

「究極的には壁にかかっている画像にすぎないステージ / オーディエンスの静的なエクスペリエンスから、実際にあなたの家の一角をステージにするという、ステージ変革なのです」とストリンガー氏は話す。

Syngはパロアルト拠点のEclipse Venturesがリードした4875万ドル(約54億円)の「組み合わさった」シリーズAをクローズした、とTechCrunchに語った。他の投資家には、Instagramの共同創業者Mike Krieger(マイク・クリーガー)氏とLionel Richie(リオネル・リッチー)氏、そしてAirbnbの共同創業者Joe Gebbia(ジョー・ゲビア)氏がいる。Syngは、デザインと高度なテックにかなり特化したオーディオハードウェアスタートアップを運営するためにこれまでに計5000万ドル(約55億円)を調達した。

同社のハードウェアは、消費者がHomePodのようなプロダクトで目にしているテックに似ているコンピューター計算のオーディオテクノロジーに頼っている。このテックではスピーカーは置かれた空間に合わせて音を調整することができる。しかしSyngのプロダクトは何よりもまず空間オーディオのためにデザインされている。同社の初のプロダクトであるSyng Cell Alphaは1799ドル(約20万円)する高級スピーカーで、20世紀中盤のモダンな宇宙船の仲間のような外観だ。Appleのデザイン精神は、Jony Ive(ジョナサン・アイブ)氏がデザインしたHarman Kardon SoundSticksにみられるように、プロダクトにはっきりと表れている。現在超ハイエンドなオーディオと区別されているブルータリストなタワースピーカーとしてよりも家具のように扱われることを意図している、とストリンガー氏は話す。

筆者はそのハードウェアが出す音を聴くチャンスはなかった。なので意見は控えておくが、1799ドルは確かにスピーカーとしてはかなり高価で、ほとんどのユーザーが1つのだけ購入しただけではその恩恵を最大限引き出せないことは明らかだ。Cell Alphaスピーカーは互いに連動するようになっていて、ユーザーのためにダイナミックなサウンドステージを作り出しながらフィードバックも受ける。自動調整の最大の長所は、スピーカーが完全に固定設置するタイプのものではなく、部屋の自然な音響よりも、スピーカーが置かれた場所であなたのデザイン指向を見せつけられることだ。これは、ある程度まではおそらくそうだろうが、壁にかけられた巨大なテレビの近くに固定されたオーディオシステムを減らし、多くの人が真に家庭で音楽を楽しめることにつながることをストリンガー氏は期待している。

同社は現在、1つの部屋で最大4台のスピーカーをサポートしている。Cell Alphaは今のところ1種類のみだが、今後展開するプロダクトでは価格やサイズに幅を持たせることをストリンガー氏はほのめかした。

超ハイエンドなオーディオ機器を家に設置するというのは通常、業者を雇ってスピーカー、ケーブル、レシーバー、アンプ、そして誰でも使えるようにするユニバーサルなリモコンの集合体を作りだすことを意味する。SyngのモデルはSonosのようなアプローチをとっており、偽装して隠される実用的な物体というより家財道具のようにデバイスを扱っている。

彼らがいうように、ハードウェアは難しい。消費者向けオーディオは参入するのに特に難しい分野だ。人々は往々にしてプレミアムなホームオーディオ製品を何十年も、少なくとも他のテックデバイスよりも長く維持できるため、インターネット接続オーディオでは大半の他のハードウェアよりもレガシーが重要だ。生涯にわたるファームウェアのアップデートの信頼性を新しいスタートアップに賭けるというのは、消費者にとってやや微妙だ。Cell Alphaのような高額なものになるとなおさらだ。大半のユーザーが空間オーディオを再生するのにはわずかなオプションしか持っていないこともSyngにとってはハードルとなっている。ほとんどの音楽ストリーミングサービスは空間オーディオに対応していない。ストリンガー氏が指摘するように、このテクノロジーを積極的に推進し始めたAppleのような大手にはあてはまらないが、ハードウェアスタートアップとマーケットのタイミングは常に複雑な関係にある。

Syngに出資する他の投資家にはBridford Group、SIP Global Partners、Renegade Partners、Animal Capital、Schusterman Family Investments、Vince Zampella、Alex Rigopoulosがいる。新たに調達した資金は将来展開するハードウェアとソフトウェアのR&Dに使われる、とストリンガー氏は話している。

画像クレジット:Syng

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(文:Lucas Matney、翻訳:Nariko Mizoguchi